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「えー、っと」

 正門脇の警備員詰所で、高等部の門に行けば案内係が居るはずだと教わった。そして、門の内側にまた門があるとは一体どういうことかと頭を悩ませながらもその高等部用の門までやって来た――わけなのだが。

「…………寝てる」

 その門の脇では、案内係らしき制服姿の生徒が体育座りで眠っていた。思いっきり地面に座り込んでいることに、あれここ金持ちばっかなんだよな? とまた頭を悩ませたのは言うまでもない。

「どうしよ」

 ものすごくスヤスヤと眠っているから、ちょっと起こすのは忍びない。ていうか、この体勢でよく熟睡できんな。

「…………。」

 とりあえず、隣に腰掛けてみる。正門からここまでやたら遠かったしもう九月も終わりに近いくせに日差しはギラギラ痛いくらいだし荷物は重たいしで、正直、部屋に引きこもってパソコンばかりしていた軟弱な俺はクタクタだった。
 俺のこと待っている間に寝ちゃったのかな、と少し申し訳なくなりながら、時間潰しのために携帯を取り出す。





ヤギ@meemee-yagisan
 新しく通うことになったがっこーきたら、案内役っぽい人が寝てるなう

ヤギ@meemee-yagisan
 どうしたらいいかわからなう

スーザン@susan-11
 @meemee-yagisan とりあえずほっぺにちゅーしとけ

うー@pyon-rab
 @meemee-yagisan らくがきしちゃえ!ヾ(^▽^)ノ

ヤギ@meemee-yagisan
 @susan-11 @pyon-rab いや、別にこれ安価じゃないんですけど!





「ん……」

 カチカチと文字を打ち込んでいると、隣から小さなうめき声が聞こえた。待ち人が目覚めるその気配に、慌ててツイートボタンを押し携帯をしまう。
 少しうつむけられた顔を覗き込めば、パチクリ、意志の強そうな目が瞬きしたのちに俺の姿を捉えた。

「おはようございます?」
「…………おう」

 掛ける言葉に迷ってそう言えば、かすれた声が返ってきた。
 うわっ、めっちゃ良い声! 有名男性声優も真っ青すぎる。しかも、イケメンだ。超イケメンだ。やべえ。

「あれ、俺、寝てたのか……お前……?」

 状況を把握しきれていないのか。ぶつぶつと呟いて、驚異的イケメンボイスの持ち主であるイケメンな彼はごしごし目元を擦った。ああ、そんなことしたら腫れるだろーがっ。一人ハラハラしていると、ふと彼が俺の服装に目を留める。

「ああ、お前が転入生?」
「はい」

 この学園の制服ではなく、私服を着ていることからそう判断したらしい。頷き返すと、イケメンは「そうか」と納得したように言って立ち上がった。色素の薄い茶の髪がさらりと揺れる。綺麗だなと思って、俺もそれにならった。

「待たせて悪かったな。黄銅学園高等部、生徒会長の柏木理一(かしわぎりいち)だ」
「会長さん、ですか。わざわざすみません。八木重陽です」

 すごくナチュラルに差し出された手を握って、ぺこりとお辞儀。前は通信制の学校への転校だったために、こういう「転校生独自の儀式」的なものを一切しなかった。ので、今そうとう緊張しているのだが。
 こういうのは第一印象が大事だ。今の自己紹介の仕方はおかしくなかっただろうかと、やっぱり不安になる。
 しかし、そんな心配は無用だったらしい。会長さんはフッと目元を緩めると、言った。

「柏木でいい。よろしく、八木」




ヤギ@meemee-yagisan
 案内係の人起きたわず。めちゃイケメン&イケボで変な道開けちゃいそうなう





 「じゃあ行くか」と歩きだした柏木さんの後を追いながら、思わずツイートしてしまったのは仕方のないことだと思う。
 心の叫びを吐き出してスッキリしたところで、俺は、柏木さんの背中に問い掛けた。

「生徒会って、やっぱり忙しいんですか?」

 自己紹介の次に話すこととしてはちょっと変な気もしたけれど、柏木さんが生徒会長だと言ったときからずっと気になっていたのである。
 だって、柏木さんの目の下にはくっきりと色濃くクマが出来ていたから。どれくらい待っていたかは解らないけど、あんなところで無理な体勢ででも熟睡しちゃってたってことは、相当疲れてるんじゃないかと思ったのだ。

「ああ……まあ、そうだな。普通の学校よりも任されていることも多いし、色々とな」
「……なんかすみません。それなのに、わざわざ案内してもらっちゃって」
「いや、別に、八木のせいじゃないだろう」

 なにかあったのか、どこか暗い口調になる柏木さんに申し訳なさが募る。俺のせいじゃないと言ってくれたけれど、本当のところは転入の原因は完全に俺だったりするから胸が痛んだ。
 俺がこんな変な時期に転校してこなければ、柏木さんも今頃はちょっとくらい眠れていたのかもしれないのに。そんなことを考えたのが表情から伝わったのか。柏木さんは、へにょりと眉尻を垂らして苦笑を浮かべた。

「別に、八木を気遣って言っているとかじゃなくて、本当にそうなだけだからな。もし八木の案内が無かったとして、そうしたらそれはそれで、俺は生徒会室で書類の山に埋もれているだけだろうから」
「でも、」
「いいんだよ。むしろ、俺としては気分転換の時間が手に入ってラッキーなくらいなんだ」

 だから気にするな。言って、柏木さんは綺麗に笑った。そうされてしまえば、俺はもうなにも言えなくなる。

「――わかりました。なら、気にしないことにします」

 こんな綺麗な笑顔でそんなこと言うなんて卑怯だ。――これだから、イケメンは。





ヤギ@meemee-yagisan
 イケメンばくはつしろ!





 心の中で、こっそりツイート。





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