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「めーちゃん、さっきの何だったんだ?」

 無事校舎内の食堂にたどり着き、注文を終えたところで忍が耳打ちしてきた。同じテーブルについたシュウは、いつも一緒に食事を取っているらしい後輩くんからメールが来たらしく、こっちには意識を向けていない。
 だからその呼び方なんだろうけども、正直めーちゃんってのはやめてほしかった。誰も聞いてなかったとしても!
 じとりと睨めば肩をすくめる忍。……こいつ、全然わかっちゃないな。

「もしかして、またワタルか?」
「ちげぇよ。ワタル関係ではない」
「じゃあなんだ? ツイッターだろ、さっき見てたの」
「そうだけど……」

 さっき見たツイートのことを話したって自意識過剰乙! としか言われなさそうだし。
 それになにより、さっきのツイート主はしょっちゅうリアルなBLシーン目撃ツイートをすることで有名なユーザーだから、そんな人をフォローしていると知られて、腐男子かなにかだと勘違いされたらたまったものじゃなかった。

「マジでなんでもねぇから」

 だからどうにも言いづらくってそう誤魔化せば、忍は不満げな顔をする。けれど、タイミングよくシュウが携帯をしまったためにそれ以上は追及してこなかった。

「シュウ、後輩くんは?」
「あー……なんか、来れなくなったらしい」
「へ? どゆこと?」

 いつも一緒に食べてて、今日もそう約束してるからその後輩も一緒でもいいか? って、さっきシュウは言っていたのに。なんかあったんだろうか。
 ただ先生に捕まったとかかもだけど、まだ見ぬ後輩くんがなんとなく心配になって問い掛ければ、シュウは険しい表情を浮かべた。

「多分だけど、転校生に捕まったんだと思う」
「転校生、って……俺?」
「じゃなくて」

 ハルだったら今一緒にいるはずだろう、とシュウは呆れた風に笑う。

「もう一人の、前の転校生のことだ」
「あー、あの。えーと」

 名前なんだっけ。

「佐藤灯里。1年A組の」
「そうそれ、アッカリーン」
「ゆる〇りか」
「〇るゆりです」

 シュウの解説に冗談まじりに返せば、忍が反応してくれる。わぁいアニメネタをわかってくれるスーザン。あかり、アニメネタをわかってくれるスーザン大好き。

 ……と、悪ふざけはそこまでにしておいて。

「捕まった、ってことは、シュウの後輩くんは別に佐藤灯里と仲が良いってわけじゃねーんだよな?」

 仲が良いなら、別の友達と一緒に食べることになった、とかそういう表現をするだろうし。
 思って確認を取れば、なぜかシュウから返される苦笑。

「お前は無駄に察しがいいな」
「そりゃ、空気読み検定準一級ですから」

 ツイッターでもネトゲでも、ネットの世界って意外とタイミングと空気読む力が重要だったりするかんね。あと悪ノリ。

「っつうか、もしかして中村の後輩ってあれか? 佐藤灯里の隣の席だっていう」
「……ああ、そうなんだ」

 どうやら、シュウの後輩くんは佐藤灯里の被害者的立場として有名らしい。忍の言葉に力なく返したシュウは、やるせなさをにじませている。
 きっと、後輩くんをどうにかして助けてあげたいけれど、佐藤灯里の周りが強力すぎてどうしようもない……とか、そんな辺りなんだろう。シュウは特待生枠で授業料を免除してもらっていると言っていたから、多分一般家庭の出なんだろうし。

 自分の無力さが悔しいんだろうな、とその心情をなんとなく察したとき、不意に食堂内がざわりと揺れた。
 昨日も体感した、忍のときとはちょっと緊張感の違うこれは、きっと。

「生徒会の皆様だよっ!」
「きゃーっ、珍しく皆様お揃いだよぉ〜」
「やったあ、今日は阿良々木(あららぎ)様もいる!」

 予感的中。生徒会の皆様のお出ましだ。
 男にしては甲高い歓声のなかから微かに聞こえてきた「会長様」という声にチラと見やれば、昨夜の軍団に加えて、どこかやつれきった理一とやたら図体のでかい金髪の男の姿が目に入った。
 理一が阿良々木様なわけないから、恐らくあの不良っぽいやつが阿良々木なんだろう。……っていうか阿良々木って。維新か、維新なのか。

 盛大に突っ込みたい気持ちをなんとか押さえて更に観察していると、その集団から少し遅れるようにして一人の少年が歩いているのがわかった。なるほど、あれがシュウの後輩くんか。
 うわっ、ちょっと離れてるだけで佐藤灯里にめっちゃ怒鳴られてる。一緒にいたくないんだって察してやれよ。泣きそうになってんじゃん。

「シュウ、シュウ。あの子名前は?」
「……斎藤さくら」
「なに繋がりの後輩なわけ? 部活?」
「斎藤も特待生なんだ。特待生はみんな特権で一人部屋で、それで、俺の隣の部屋が」
「斎藤くんってわけ?」
「そうだ」

 同じような境遇で、お隣同士で。特別可愛がってた後輩だったら、そりゃあ悔しくもなるわな。
 ふむ、と頷いて俺は携帯を取り出す。カチカチと両手の親指を使って素早く打ち込むのは。





To:柏餅先輩
本文:突然ですけど、佐藤灯里の気を引くことってできます?





「そうしーんっ、と」

 送信ボタンを押して、騒ぎの中心にいる理一が携帯をチェックしているのを確認してから立ち上がる。

「そんじゃ、シュウ。いこっか」
「……どこにだ」
「そんなのもちろん」

 斎藤くんを助けに、に決まっているでしょうが。言えば、パチクリとまばたきを繰り返すシュウ。俺がなにをしようとしているのか全く見当がつかないらしい。
 仕方ないなぁとばかりに俺の「作戦」を簡単に話してやれば、最初は困惑していたその瞳はすぐに驚愕に見開く。

「上手く行くのか、そんなもの」
「さあ、どうだろ。運が良ければいけんじゃね」
「だからって、」

 無理だ、とか、無茶苦茶だ、とか。そんなネガティブな言葉を口にされる前に、俺は言った。

「無茶苦茶だろうがなんだろうが、やるんだよ。……斎藤くんのこと、助けたいんだろ?」

 だったらなりふり構ってる場合じゃねぇだろ、と言外に告げれば、ハッとしたような顔をして、シュウは頷いた。
 ……そうだよ。助けたかったら、相手が強かろうがなんだろうが助けりゃいいんだよ。

「俺は行かないほうがいいだろうし、待ってるな」
「へえ、止めないんだな。鈴木クン」
「めーちゃんが後輩とか仲間とかを見捨てらんないのは、ネトゲで十二分に承知してるからな」

 だから、めーちゃんはやめろ。
 思うも、長い付き合いなだけあって俺の性質を理解してくれてるのがちょっと嬉しい。だよなぁ。俺、しょっちゅう瀕死になったパーティーのメンバー助けようとして自分が死んだりしてたもんなあ。
 ちょっぴり苦笑したとき、てのひらの中で携帯が震えた。





To:やぎ
本文:いっしゅんくらいならできなくもないがいつやればいい

To:柏餅先輩
本文:一瞬でじゅーぶん。俺が近寄って合図したらよろしく

To:やぎ
本文:わかった





 そんじゃ、いっちょかましますかー。





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