03






「ほんなら、今度はまともな質問すんで」

 俺の的を得ないような回答に対し、そう宣言したのは無論西崎くん。しばし考えた末にその口から出てきたのは「八木クンて何座なん?」という――個人的には、超地雷な質問だった。
 なんで、よりによって。その質問なんだ。

「………めざ」
「なん? 聞こえへん」

 ぼそりと呟いた俺に、もっと大きな声で、と西崎は急かす。それに、ブチリとこめかみあたりの血管が切れたような音を聞きながら、俺はスウと息を吸って叫んだ。

「乙女座だッつってんだよッ! 一回で聞き取れやボケェ!!!」

 ちょっと、俺まじで西崎苦手かもしれない。単に西崎の運が悪すぎるだけで、西崎からしたら理不尽極まりないんだろうけども。
 っていうか、このあと西崎が口にする言葉がなんなのか、簡単に想像できてしまう自分が悲しすぎる。

「えっ、八木クン乙女座なん?」
「……そうだよ」
「名字ヤギなのに? なんで山羊座じゃないん?」

――ああ、ほら。やっぱり。
 わかってたことだとはいえ、なんだか泣けてくる。

「正真正銘乙女座だよ、残念ながらな! なんか文句あっか!!!」

 これだから星座なんて嫌いなんだっつーの! っていうか大体、生まれた期間でなにが変わるんだっつーの! ふざけんなコノヤロウ。ほとんどキレ気味に返してギンと西崎をねめつける。
 小学生のときは「男なのに乙女かよ〜」とからかわれ続け、中学時代は「なんでヤギなのに山羊座じゃねーの?」とからかわれ続けた俺が、星座を嫌いにならないわけがないだろうが。

 自分から「まともな質問を〜」と言った手前、答えないというのははばかられて素直に回答したわけだけど、やっぱり言わなければよかった。
 そう後悔したとき。後方から、「……ん?」と二木せんせーのいぶかしむ様な声が聞こえてきた。なんだなんだ、今度はなんだ。

「八木」
「なんスか」
「お前の名前、確か、陽が重なるって書くよな」
「そうっすけど」

 だからなんなんだ?
 首をかしげる俺に、「もしかして」と二木せんせー。

「お前、その名前で乙女座ってことは、9月9日生まれじゃないのか?」
「え……」

 そう、だけども。

「なんで知ってんの?」

 もしや、二木せんせーエスパー?! なにそれこわい!
 思わずジリジリと距離を開けていく俺に、二木せんせーは「ちげぇよ。ちげぇからビビんな」と苦笑した。
 でも、じゃあ。違うならなんでわかったんだ? そんな俺の心中を察したのか、二木せんせーは言う。

「昔の節句にな、お前の名前と同じ字で『重陽(ちょうよう)』って読む行事があったんだよ」

 それは、昔の陰陽思想で陽の強い数字とされた9が重なることから起こった祝い事で、菊が咲く頃であることから「菊の節句」とも呼ばれたりするらしい。昔は不吉なものを払う行事だったけれど、徐々に変化して長寿を願うものになったんだとか。
 まあ今ではほとんど実施されてないけどな、という二木せんせーの説明に、へえ〜と純粋に関心する。

「二木せんせー、物知りなんだ。片付けできないけど」
「うっせぇ、片付けは関係ねェだろ。これでも一応教師だっつうの」
「一応ね、一応」

 ガシガシと決まり悪そうに後頭部を掻くせんせーに、プククと忍び笑い。

「っていうかな、他の教科ならともかく古典にまつわることだぞ。大学で散々学んだ専門分野だっつーのに、知らねェわけねーだろ」
「…………え、」

 その言い方って、つまり。

「二木せんせー古典教師なの?!」
「えっ、今更そこなわけ?!」

 ざわりと揺れたクラスメイトたちの心情を代弁するように声を上げたのは忍だ。俺が親衛隊に目を付けられないようにずっと黙ってたみたいだけど、さすがに我慢できなかったらしい。
 いやだって、今更もなにもお前教えてくれなかったじゃん。二木せんせーも何の教科か言わなかったし。雰囲気的に数学か化学あたりかと思ってたし。

「てか文系なの? めっちゃ意外なんだけど」
「なにがだよ。俺は数学なんて中学時代から捨て科目にしてんぞ」
「せんせーよくそれで教師になれたね!?」
「ちなみに大学は国語一科目入試で入った」
「はんぱな」

 なんだかウケる。

「まあ、あれだな。八木は良い名前付けてくれた親に感謝しろってこったな」

 僕も数学捨てようかな、なんて声がチラホラ聞こえはじめて、話が変なほうに進みそうなのに焦ったらしい。慌ててそうまとめて俺に着席を促した。
 俺の席はいかにも優等生といった風貌の眼鏡くんの隣らしい。俺は、長寿を願って名付けてくれたのかもしれない両親に心のなかで感謝を述べながら、よろしくと指定された席についた。

 真ん中ちょっと後方の席からは、教室内がうまいこと見渡せる。あんまり良い自己紹介だったとは思えないけど、新しいクラスメイトたちの反応は悪くはない――と思う。というか、思いたい。

「そんじゃ、一限は俺だからそのまま授業入んぞ。教科書出せー」

 二木せんせーの声を合図にしたみたいなタイミングでチャイムが鳴って、教材を取り出したりする音で教室内がにわかに騒がしくなる。
 相当久しぶりな「学校」という環境に、俺は少しの興奮を覚えながら、真新しい鞄から教科書を取り出した。





――さて。
 初授業のはじまりだ。













4@nininga-4
 9/9生まれで「重陽」とかいう、超風流な名前のやつに出会った。すげえ













「……うん?」
「どうかしたのか、ハル」
「んー」

 そんなツイートに気付いたのは、午前の授業をなんとか乗り越えて、中村秀一(なかむらしゅういち)というのだと判明した優等生くんと忍と並んで食堂に向かっているときのことだった。
 「ハルって呼んで」とお願いしたところ快く受け入れてくれた秀一――シュウの言葉に、俺は首を振る。

「なんでもねー」

 まあきっと、こういう偶然だってあるだろう。…………多分。





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