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wood@38-wood
 棚からぼたもちとはこのことか。今回ばかりはあのクソ上司よくやったとしか言いようがない

wood@38-wood
 お会いできるのが楽しみだ





wood@38-wood
 ……ひとり浮かれてたらタンスの角に小指ぶつけた













 宮木さんが寮にやってきたのは、その週末のことだった。

「すいません宮木さん、わざわざこんな辺鄙な場所まで来てもらっちゃって」
「とんでもないです。重陽さまのためでしたら、私はどこまででも参ります」

 決して広くはない寮部屋で、宮木さんは大きなスーツケースをかたわらにかしづく。今日も今日とてビシッとスーツを着こなしている宮木さんがそうしているせいで、そこだけ急に高級ホテルのエントランスになったような錯覚を抱いた。
 なんかもう、こうなった宮木さんに「頭をあげてください」とか言っても無駄な気がしてくる。

「それにしても、清明も計画性がないというかなんというか。そういう行事があることを知っているのなら、重陽さまが転入なさる際にきちんと荷物のなかに入れてさしあげれば良いというのに……」

 嘆かわしいことだと言わんばかりに、宮木さんは肩を落とした。そのテキトーなDNAをばっちり遺伝しちゃってる身としては「ハハハ」と苦笑することしかできない。
 ……前回、文化祭で会ったときの別れ方があんなだったから、変に肩に力が入ってしまっていたのだけれど。どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 だいたいあの男は昔から、と始まった父さんへの愚痴がひと段落してから、宮木さんは持参してくれたスーツケースを開いた。出てきたのは、去年の春、ミドリの会社のパーティーで着たあのスーツだ。
 シンプルなネイビーの上下と一緒に、パリッとのりのきいたストライプシャツがハンガーにかけられる。ネクタイはオレンジがかった小紋柄のものだ。ベルトと革靴は同色で揃えられている。

 そう。なにを隠そう今日は、月末に迫るクリスマスパーティー用のスーツを用意するために、宮木さんに来てもらったのである。
 ちなみに、同室のスーザンは今日も元気に部活だ。仮面舞踏会で着るスーツはたとえ兄弟でも学園内の人には明かしてはいけない、というルールがあるから、スーザンがいないところを狙って宮木さんに来てもらった、ともいう。

(……なんか、そう言ったら一気に妖しいムード漂い始めるけど)

 逢い引きっぽいぞ、ちょっとだけ。

「重陽さま」

 呼ばれてハッとすると、いつのまにやら宮木さんがボタンを全開にしたシャツを手に、いい笑顔で俺の前に立っていた。

「どうぞ」
「え?」
「どうぞ、お手を通してください」
「……え、いや」

 いやいや。

「俺、自分で着れますよ? スーツくらい」
「いいんですよ、私がしたくてやっているのですから」
「いや、だからって」

 この歳でたかがスーツ着るのにいちいちサポートしてもらうなんて、大げさすぎやしないか? 疑問を抱く俺を、宮木さんは「重陽さま」の一言で制する。

「私のせっかくの楽しみを奪わないでください。さあ」

 さあ、ほら! と満面の笑みで迫られては、もう逃げられるわけがない。

(……男同士だし、今更恥ずかしがるようなことでもないか)

 半ばやけっぱちになって着ていたセーターを脱ぎ捨てる。アンダーシャツは……着たままでいい、よな。うん。

 シャツを広げる宮木さんに背を向けて立てば、ひやり、と冷たい手が俺の右手首に触れた。そのまま手を引かれ、シャツに袖を通す。左側も同じようにした。
 せめてボタンくらいは自分でと思ったけれど、それに先んじて宮木さんが俺の襟元を整える。丸く短い爪を持つ、ささくれ一つないきれいに手入れされた指先が、上から順に、ひとつひとつボタンを留める。ついでとばかりに、華やかなゴールドの、ラウンド型をしたカフスまで留められた。

 宮木さんは、その仕上がりを満足げに眺めてから、続いてスラックスを用意する。

(まさかこれ、全部宮木さんに着せられるのか?)

 そんなまさか、さすがにそれはないだろう。と思ったけれど、そのまさかだった。

 スラックスを履いてファスターをあげ、ボタンを留める工程はさすがに自分でやったものの、ベルトを通すのもネクタイを結ぶのも、さらには靴下を履くのも。全て、宮木さんがやった。なにひとつとして宮木さんは俺に譲らなかったのである。

 特に靴下は恥ずかしかった。椅子に腰掛けた俺の足元にひざまずいた宮木さんが恭しく俺の足を持ち上げて、足の指の形を確かめるようにしてゆっくりと靴下を履かせるっていうあの一連の流れは、「ひどい羞恥プレイ」以外のなにものでもなかった。
 やっている宮木さん本人が、べつだん屈辱的に思うでもなく至極真面目な様子だったから尚更だ。

(全国の秘書さんって、みんなこうなの?)

 小一時間、それについて議論したい気分でいっぱいだった。

 そんなわけで、スーツを着るだけでもう、俺はぐったりというかげっそりというか、とにかく疲れてきっていた――わけ、なのだが。まだこれだけじゃ終わらない。

 宮木さんは俺に立つように促すと、袖の長さやスラックス、ジャケットの丈、肩まわりが苦しくないか、あるいは余ってやいないかなど、ひとつひとつをチェックして回った。それも、いちいち俺の体に触れながら、だ。

(えっ、これいちいちボディタッチする必要あんの?)

 内心動揺する俺をよそに、宮木さんは涼しい顔だ。自分ばっかり意識してるみたいで恥ずかしい。
ようやく宮木さんの手が離れていった頃には、もう立っているのもやっとなくらい、俺のHPは削られていた。

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tophyousimokujinow
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