あけおめif(二木せんせー×重陽)
2013/01/01
・恋人同士な二木せんせーと重陽が一緒に年越しするお話
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「……あ、時間変わった」
向かっていたパソコンの時計表示が0:00に切り替わったことに気付いて声を上げる。
「あけましておめでと、せんせー」
「あぁ」
「今年もよろしくー」
「……あぁ」
こたつの向かいでミカンを食べていた二木せんせーに声を掛ければ、ひどく眠そうな声で返事が返ってきた。それも、「くああ……」というあくびのオマケつき。
「せんせー、そんな眠いならもう寝ればいんじゃねーの? 年も明けたし」
カタカタとキーボードを叩きながら言えば、ううーん、とやっぱり眠そうなうなり声を上げられる。いやだから、寝ろって。
バカだなぁと我が恋人ながらあきれる。しかも、まぶたはほとんど閉じかけているのに手だけは休みなくミカンの筋を取り除き続けてるもんだから、もう笑うしかない。
ヤギ@meemee-yagisan
あけおめー。からの、ことよろー
カチリ。ツイートボタンをクリックしてマウスから手を離す。「あけおめ」ツイートが絶え間なく流れていくTLを眺めながら、俺もこたつ中央のカゴに盛られたミカンに手を伸ばした。
――しかし。その手は、ミカンを掴む直前に止められる。誰にって、もちろん二木せんせーに。
「なに」
手首を掴んできた手を振り払って問い掛ければ、とろんとした瞳を向けられる。まさにオヤスミ三秒前。ごしごしと目元を擦るその様はちょっと猫っぽい。残念なことに、猫っていうような可愛いサイズじゃないけど。
「なあ、俺もう眠いんだけど」
「いやだから、眠いなら寝ればいーじゃんって」
なに言ってんだこの人は。ちょっぴり白ける俺に返ってきたのは、はあ、という深い溜息だった。
……え。なんでそこで溜息?
「――あのなぁ、八木?」
「なんだよ」
「お前さ、」
こたつの天板に手をついて、急に立ち上がる二木せんせー。さかさかとこたつのまわりを半周したかと思うと、俺のすぐ横に腰を下ろした。
そして、「これさ」と示されたのは。
「他の男たちとチャットとかリプライ合戦とかしてる恋人置いて、俺が先に寝れると思うのか?」
ツイッターのウィンドウやスカイプが立ち上げられている、俺のパソコンのディスプレイだった。今まさに、うーたんや忍からの「ことよろ」リプに返信しようとしていた俺は、ぎくりと身を強ばらせる。
「二木せんせー」
「……馨」
「二木せ、」
「馨」
「ふた」
「馨だっつってんだろうが」
猫科の、しかしどことなく野獣のような目をした二木せんせー。不満げな声に、俺はついに粘り負けて口を開いた。
「………………馨さん」
「よくできました」
二人きりのときは名前で呼べ、と初めて言われたのは結構前のことだけど、未だに慣れない。ただでさえ恥ずかしくて死にそうなのに、こんな風に「嬉しくてたまらない」と言わんばかりの顔で頭を撫でられてしまったら、顔に血がのぼらないはずがなかった。
うわっ、俺いま絶対顔赤くなってる。耳まで熱いのは、きっと錯覚じゃない。
ていうか、アンタ眠かったんじゃねぇのかよ! 未だにぐしゃぐしゃと俺の髪を掻き混ぜ続けるせんせーに牙を剥きたくなる気持ちをなんとか堪えて、言った。
「このリプだけ返さしてくんね? したら、パソコンもう落とすから――」
「から?」
「……えっ?」
「から?」ってなんだ、「から?」って。
「えっ、まだなんかあんの?」
素で聞き返せば、途端にせんせーの顔から笑みが引っ込む。
「もう寝るだろ?」
「え? ああ、まあ。明日は朝から初詣行くって言ってたし」
そりゃ寝ますけど。だからそれがどうした。
「俺ももう寝るよな?」
「はあ、そりゃそーでしょうね。あんだけ眠そうな顔してれば――」
「一緒に寝てくんねぇの?」
ニヤリと笑って言うせんせー。
唖然。そして呆然。それ以外に、いまの俺の心情をうまく表現してくれる言葉が見つからない。
「は? なに言ってんの、あんた」
「なんだよ、不満か」
「不満だし、っつうかそれ以前に、その必要性が感じられないんですけど?」
長期休暇にしか帰らないというこのせんせーのマンションには、シングルベッドが一つだけ。俺は今日、寝室の床に布団を敷いて寝る予定だった。
なのに、そのシングルベッドに寝ろと? 無駄に縦にデカいせんせーと?
「狭いだろ、確実に」
「お前細いから行けるだろ」
「いやいや、暑苦しーし」
「さみーからちょうど良いだろ」
「や、でも……」
「……なんだよ。なにに渋ってんだよ、お前は」
別になんもしねぇっつうの、なんてせんせーは言うけど、そこじゃない。せんせーが無理矢理なにかしてくるなんてありえないから、そんなことを心配しているわけじゃないのだ。
無論、一緒に寝るのが嫌なわけでもない。ただ単に。
「…………せんせーと一緒だと、緊張するから落ち着いてぐっすり寝れねぇんだけど」
俺の心臓の、問題だったりする。
ぼそりとこぼしてにらみ上げれば、せんせーは一瞬目を見開いたのち、にいやりと口角を上げて意地悪に笑ってみせた。かと思えば、その顔が急速に近付いてくる。
あ、これはだめだ。直観的にそう悟るも。
――ちゅ、と。
逃げる間もなく、その唇が俺の額に優しく触れた。
「逃がさねぇからな」
「……な、ん」
「ほれ、ボケっとしてねえで早くリプ返せ。先行ってんぞ」
最後にまたポンポンと頭を撫でられてから、せんせーは残りのミカンを手早く片付けて、宣言通り寝室のほうへと姿を消していった。
パタン、と寝室の扉が閉まった音を合図に、俺はぐったりと上体を倒した。頬がノートパソコンのキーボード部分に当たって痛いけど、正直今はそれどころじゃない。
「えぇー……なにあの人……」
反則でしょ、と呟いた声は、ピコンという新着リプライの通知音にかき消された。
4@nininga-4
@meemee-yagisan 明けましておめでとう。今年もよろしく
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――翌朝。
「っ、アンタなにやらかしとんじゃボケェッ!!!!!」
神社へ向かう電車内でツイートチェックをしていた最中に、信じられないツイートを発見して、俺と二木せんせーとの間に一騒動あったりしたけれども。
まあそれは、あえては言うまい。
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4@nininga-4
嫁の寝顔可愛すぎて死ぬ
4@nininga-4
ていうか腰細すぎやばいかわいいかわいいキスしたい
4@nininga-4
年明け早々こんな幸せでいいのか
4@nininga-4
ものすごい量のリプライが来たので公言しておきますが、嫁は男です。ちなみに年下
4@nininga-4
ツンデレなんだかクーデレなんだかな、可愛い可愛い嫁も含め、今年もどうぞよろしくお願いします
(おしまい)
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