クリスマスif(理一×重陽)
2012/12/24
・幸せの〜の重陽(ヤギ)と理一(柏餅先輩)が付き合ってたら
・クリスマス
・
・
・
今日は、年に一度のクリスマスである。本来は家族と過ごすこの日だけれど、日本では恋人同士が共に過ごす日にもなっていた。
そしてそれは、今まで縁が無かった俺にとっても今年ばかりは例外じゃなく。俺はいま、恋人である理一の部屋に来ていた。
いつもは、生徒会長と一般生徒という立場のためになかなか「フツーの恋人同士」らしいことをできない俺たち。だけど、こんな日くらいは一緒にケーキを食べたり、プレゼントを渡したり、なんとなくいちゃついたり。そんな感じで、フツーの恋人らしく過ごしたいと思っていた。
――そう、思って「いた」のだが
「理一」
「あぁ」
「りーち?」
「……あぁ」
「りーいちーさーん」
「………………あぁ」
呼び掛けても呼び掛けても、理一の視線は手元の分厚い本に向けられたまま。俺のことを見てはくれない。
昨日から冬休みに入って、生徒会の仕事もなく自由な時間が出来て嬉しいのも、理一が読書が好きでそれをジャマされんのが好きじゃないのもわかってるけど。今日くらいは俺を優先してくれたっていんじゃねえの、とちょっぴり不満になる。
いや、もしかしたら理一のことだから、今日が何の日でそれがどんな意味を帯びてくるのか、ちゃんとわかってないだけなのかもしれないけど。それでも不満なもんは不満だし、一緒にいるのにひとりぼっちみたいなこの状況が寂しいのには変わりはなかった。
「…………」
ぐぬぬと唸るも反応はナシ。ペラリとページを繰る理一の指先に、無表情な横顔に。イラッと来たのは、きっと自然なことのはずだろう。
もう無理、我慢できねぇ。
俺は、怒りに任せて理一から本をひったくると、それをそのまま、驚きに目を見開く理一の頭上にかざした。
「――――理一の、」
いつもより低い俺の声に、理一はようやく俺が怒っていることに気付いたようだった。だけどもう遅い。
ひゅんっ、と空を切る音。
「バッカヤロオオオオオ!!!!!」
「ぐべしっ!」
怒声と共に、振り下ろした本の下から聞こえたがつんとかいう感じの痛々しい音。すごく間抜けな悲鳴も聞こえたけど知らん。理一なんか知らん。
「俺のことほったらかしてんじゃねえよッ!」
勢いのままに普段なら絶対口にしないようなことを叫んだ。ら、落ちた本の下から現れた理一の顔が、殴られたせいだけじゃなく真っ赤に染まった。
――あ、なんか間違った
後悔するのもつかの間。未だがっしりと本を掴んだままの手首を取られて、そのまま理一のほうへとひっぱられる。膝立ちという不安定な体勢をしていたせいで、俺の身体は簡単に理一の腕の中へ吸い込まれていった。
ふわり、と。一瞬で理一のにおいに包まれる。
「なんだ、急にどうした」
耳元で囁く優しい声に、不覚にもふにゃりと身体から力が抜けた。
「だって、お前、俺のことシカトすっから」
ムカついた、と素直に吐露すれば、「シカト?」と理一は不思議そうに続ける。
「シカトなんかしてねぇだろ」
「しただろーがっ。名前呼んでも反応しねぇし!」
「返事したじゃねぇか」
「生返事だったろ」
「生返事じゃねぇよ」
ていうか、と。理一は俺の背に回した腕に力をぎゅっと込めて、言った。
「いくら返事してもお前なんも言わねぇから、ただ名前呼びてぇだけなんだと思ってたんだけど……ちげぇの?」
ちがく、ない。間違ってはいないけど。
「――……こっちむいてほしかったんだよ」
「は……?」
「だってお前、本ばっか見てっから」
「嫉妬したんだ」と赤っ恥覚悟で耳元に囁けば、形の良いそれが瞬く間に赤く染まった。――あれ、なんかデジャヴ。
「…………ハル、」
「なん、ですか」
なんとなく改まって返してみれば、理一はふはりと笑う。
「お前、急にそういうこと言うのやめろっての」
「きしょい?」
「馬鹿か、逆だっつうの」
可愛すぎて心臓持たないんだけど。なんて言われてしまえば、こちらまで真っ赤になってしまうのも仕方のないことで。
「なんだこのクリスマス…………」
理一の肩口に熱い額を押しつけながら、俺はぼそりとこぼした。
羞恥心に気疲れしてしまったこと以外は、「フツーの恋人」らしいといえばらしいので、まあ、結果オーライといったところだろうか。
(おしまい)
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