罠 僕の手を引き、いつも先に行きたがった妹。 僕よりも可愛く、愛された妹。 でも、心の中はいつも同じ。 "全ての人に愛されたい" そればかりだ。 それだけしか考えられない馬鹿な妹。 いつも波乱の中心にいた、台風の目的な存在。 ─"精市走ってくれる?" "えー、めんどくさいんだけど" "…僕あまり運動したくない" "俺よりも運動神経いいくせに" "そんな事ないよ。で、走ってくれるの?" "いいよ。走ってあげる。そのお礼は咲哉のキスね" "そんな事、この身体じゃ出来ないよ" "ふふっ"─ 精市と入れ替われば、客観的な視線に切り替わる。 これはいつもの事。 これでやって少しだけ休める。 ふぁ… 眠くなってきた。寝よ。 ギャァァァアという叫び声で目が覚めた。 え、ちょっ、どうした。 ─"精市、どうしたの" "あ、おはよ。ブン太と赤也、ジャッカルがジンジャーエールの餌食になったんだよ"─ 丸井達、御愁傷様だな。 まぁ自業自得だから何も言わないけどね。 「精市」 「…精市って呼ばないでくれるかな。不愉快だ」 走り終わった精市に妹が話しかけたが、玉砕。 精市は名前を呼んだ僕の妹を冷めた目で見ているだろう。 ─"ごめん咲哉。パス" "はいよー"─ また視界が主観的に変わる。 「ごめんなさっ!」 『謝罪なんていらないよ。それに泣かないでくれる?ウザいから。まぁ…あぁ、そうだ。何で俺がこんなに君を嫌うか教えてあげようか?』 「え、」 泣きそうに顔を歪めていた僕の妹はどうしようかと悩んでいるようで、瞳を揺らしている。 そして、答えが決まったようで、コクりと頷いた。 「うん、教えて」 『じゃ、明日の放課後、部活後に部室で』 勿論1人でねと言えばまた頷く妹。 かかったな。 これが罠だとも気づかずに、何て無知な妹だろう。 あぁ、元からか (本当。馬鹿な妹だ) (3/10) |