暖



家に帰ると、彼女は料理を作ることに意気込んでいた。

「好きなお魚料理とか、ある?」

…ない、ないけど、まだ食べれるのは…

「煮物です」
「そっか。じゃあ一緒に作りましょうね」

臭いからヤダ…という言葉は喉のあたりで止めておいた。

「大河とは、どう?仲は良い?」

「…悪くはないと思います。でもやっぱりブランクがあって…昔のように、会話が出来ないんです。」

正直な話をしたつもりだった。
ブランクだけではないけれど、やはり昔のように接するのは難しい気がする。
…会話も成り立たないし。

彼女はレジ袋から魚をとりだしながら少し笑った。

「それに気づける零ちゃんは、まだ素直な証拠ね。今のままでいいのよ。そのうち慣れるからね。」

「…私には、今はまだ難しい。だから早く慣れたいです。」

「零ちゃん…大河を、これからもよろしくね。」

それは紛れもなく私個人に向けられた言葉で、
私に対する信頼の言葉だった。

「は、はい。」

鼻が痛い。目尻も熱くなった。
彼女の視線は、暖かかった。
しかし何故か、同時にそれに違和感を感じる。
それが何なのかはよくわからない。


「ただいまー!今日の夕飯何だー?」
その時、突然玄関のドアが開き、大河君が帰ってきた。

「おかえり、今日は魚の煮物よ〜」

「おっ、まじか!て、式氏お前焼けたな〜!」

「う、うるさい、お前だって焼けてる…!」

「用意するわよー」

八時を回った当たりで彼の父親も帰宅し、食事にした。
因みに魚料理は食べれないことも無かった。
苦手なものなのに不思議だった。

じわじわと身体の中から違和感が沸いてくる。
でも何となく気付いていた。私は、


私は、優しくされたことが少ない。
アリアが私には優しいことは知っていた。
知っていたけれど、それは本当に私に向けられたものではなかった。
私の後ろにある宰のような、最近邪魔な奴らに向けての為であって、
エルや私、翔子だってそうだ。
利用するために優しくされているようなものだから
…それでもアリアの為なら命を張ることも出来る。
けれど、やはりここの暖かみは、こう、胸に来るものがあった。

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