「獄寺君…!山本…!!」
突然目の前に現れた親友二人に綱吉は急ブレーキをかけようとするが、スピードの乗った車と同様、壁を破壊する勢いで飛んでいた綱吉もそう簡単には止まれるはずがない。
それでもなんとか勢いを少しでも殺そうと試みるが、この距離ではスピードを落とせたとしても避けきれず衝突は免れそうにない。
(ダメだ、ぶつかる!)
かといって親友二人をぶっ飛ばすわけにはいかない。
ならば残る方法はひとつ。二人に避けてもらうしか無い。
「獄寺君!山本!!そこを退いて!!」
大丈夫、あの二人ならきっとこの距離でも避けきれる!
願いを込め、綱吉は二人に向かってそう叫ぶが、
「覚悟してください10代目。俺と10代目の輝かしい未来のために!!」
「は!?」
「悪いな、ツナ。ここは俺も引くわけにはいかねぇんだ。俺とお前の未来のために覚悟してくれ」
「なっ!?」
なぜだろう。
二人は避けるどころか何やらおかしなことを叫びながら、さらにそれぞれの武器を手に構えたではないか。
獄寺は髑髏型の火炎放射器を、山本は握っていたバットを一振りして時雨金時に変化させ、その矛先を迷うことなく綱吉に向けてくる。
「なんで!?」
まさかの行動に綱吉はただ驚愕の声を上げるしかできない。
しかもだ、二人ともなぜかとても生き生きとした笑顔なのである。
なぜだ。どうしてそんなに嬉々として綱吉に武器を向けてくるのか。
(俺、二人になにかしたっけ!?)
瞬時に脳内で最近の出来事を振り返るが、どうにも見当もつかない。
だいたい、日常に置いてリボーンを怒らせる事はあっても、二人を怒らせたり困らせたり、まして武器を向けたくなるような仕打ちはしていないはずだ。
そりゃあ、確かに誕生日の準備やあれやこれやで忙殺の日々は送っていたかもしれないが、けれどもそれは毎年の事で、今年に限った事ではない。
それとも何か、これまでのうっぷんが一気に爆破したとでもいうのか。
(そんな馬鹿な…)
特に驚いたのは獄寺だ。
彼の綱吉に対する忠誠心は人一番強いことは周知の事実。
その獄寺が綱吉に武器を向けるなど、よほどの理由がないかぎり…
そこまで思考を巡らせて、綱吉はハタッと気が付いた。
『ツナになんでもお願いを聞いてもらえる権利をくれてやるぞ』
(…ああ、まさかあれか…あれなのか…)
リボーンの言葉を思い出す。
そして獄寺は確かに叫んでいた。
俺と10代目の輝かしい未来のために、と。
(そういうことか…)
どうやらこのゲーム、獄寺にとっては綱吉に武器を向けるほど大事な事態になったらしい。
綱吉との未来のために綱吉に武器を向けるその矛盾にすら気づけないほど、本気で挑んでいるようだ。
まったく、どこまで綱吉馬鹿なのか…
いや、わかってはいたけども…
(困ったというか…なんというか…)
ボスを慕うのは良い事だが、行き過ぎるのも困るものだ。
後でリボーンに再教育を言い渡されるだろうな…と思うと気持ちが萎えた。
しかしそれにしても、と綱吉は思う。
(だからってなんでみんな直接俺を狙うわけ?)
そう。さらに不思議なのはそこだ。
先に遭遇した骸にしろ雲雀にしろ、リボーンは正解の箱を探しだして自分を見つけ出せと言っていたはずなのに、なぜ箱ではなく最初から直接綱吉の所にくるのか。
リボーンを見つけ出した者が願いをかなえる権利を与えられるんじゃなかったのか?
順番が明らかにおかしい…
そんなことを考えていると、答えはいとも簡単に獄寺たちの口から伝えられた。
「さぁ10代目!あなたの持っているその当たりの箱を持って、俺とリボーンさんの元へ行きましょう!そうすればその場で願いを叶えていただけます。まさに一石二鳥!」
「って、ちょっと待って!?どこでそんな俺が当たりの箱を持ってるなんて情報を!!!」
「さっき雲雀から連絡が回ってきました!」
「こんな時ばっかり生まれる連携が憎い!!」
「でも、おかげで手間が省けるってもんなのな」
「けっきょく君らもあいつらと思考が一緒か!!」
どうやら考えていることは全員同じらしい。
いったいどんな思考回路をしているのだ。
突っ込みを入れながら、しかしいよいよその距離が避ける事も出来ないほどに縮まった。
「くっ!!」
綱吉は仕方なく向かう方向を変えようと窓側へ身を寄せる。
壁に穴を開けるより破壊する範囲が大きくなるが、直接二人にぶつかるよりはまだましだ。
だが、
「行きます10代目!受け止めてください!!俺のフレイムアロー!!!!」
「えっ!?」
「俺のも受け取ってくれツナ!!時雨蒼燕流十一の型 ベッカタ・ディ・ローンディネ!!!」
「えええええ?!」
まるで綱吉の退路を断つように、二人が同時に己の必殺技を放った。
爆音と共に赤と青の炎が綱吉に向かい突撃してくる。
最初の一撃をなんとか躱した綱吉だったが、躱したことで一度着地を余儀なくされた。
ズンッと着地の衝撃で廊下に亀裂が走る。
しかしそれを気にしている場合ではない。
綱吉はすぐさままた宙へ逃げようとしたが、
「行かせません!」
獄寺のフレイムアローがそれを防いだ。
そのまま逃げ場にするはずだった窓際全体をフレイムアローの炎が塞いでしまう。
雲の炎も注入されていたらしい獄寺の炎は瞬く間に膨張し、窓を塞ぐだけでなくその矛先を綱吉にも向けてきた。
綱吉はとっさの動きで獄寺の攻撃を避けたが、今度はそこに山本の放った無数の剣先が待ち構えている。
「くっ!!」
直ぐに函を開口しT世のマントを広げるが、それで山本の攻撃を全て受けきれるとは思わない。
「オペレーションイクス…」
仕方なく綱吉はぎゅっと目を閉じながら、外には漏れぬ小さな声でそう呟いた。
キュキュっと静かな機械音を立て、函開口と同時に目の中に装着されたレンズが起動する。
オペレーターの声が綱吉の耳に届き、静かに体内の炎チャージが開始された。
だがそうしているうちにも、山本の剣はマントを突き破ろうと向かってくる。
綱吉はナッツにも炎を送りながら攻撃に耐えるが、それを同時に行えばチャージ時間は当然長くなる。
炎チャージが先か、それとも、山本の剣がマントを切り裂くのが先か…!
だが答えは、綱吉の指輪が橙色に輝いたことで決着がついた。
(二人とも…、ごめん!!)
閉じた瞼の裏で謝る。
できるだけ軽傷で済むくらいに力は抑えるつもりだ。
しかし、この場を脱出するために必要な出力は出さなければならない。
ここで二人に捕まるわけにはいかないのだ。
誰よりも先に綱吉がリボーンを見つけなければならない。
あんな企画は何が何でも阻止しなければ!!
綱吉の本気ゲージが上がった。
とは言え、それが第一の目的であるが、綱吉にはもうひとつ、どうしてもリボーンを一番に見つけたい理由があった。
(たぶんきっと、リボーンは俺を待っている)
確かにこれはただのゲームかもしれない。
リボーンの暇つぶしによる遊びなのだろう。
でもきっと、それは表向きの話だ。
リボーンは本気で綱吉が自分の元へ辿り着くことを待っている。
確信があった。
誰より先に呼び出された事を考えても、それは明確な事実だ。
(口調はあくまで軽かったけど…)
探してみろだの、ゲームだの。
挑発するような口調でただの遊びのように見せかけて、でも…
(そんなふうにふざけてる時こそ、別の本音が裏に隠されてる)
知ってる。
自分も、そうだから。
お互いに素直じゃないと思う。
ついふざけた態度をとったり、思っている事とは逆の事を言ってみたり。
傍から見れば、なんとも面倒な二人だろう。
(でも、それが俺たちの関係だから…)
だからこそ気付く。
似た者同士の自分たちだから、解る。
リボーンはきっと待っている。
綱吉が一番に自分の元へと来ることを、待っている。
(だったら、行くしかないじゃん)
きっと今頃、余裕の表情を繕いながら内心では焦れているのであろう恋人の元へ。
何がなんでも、一番に駆けつけなければ。
「獄寺君、山本、ここはやっぱり容赦はできない。しばらくおとなしくしていてくれ」
バサリとマントをひるがえし、綱吉はその勢いで山本の剣を退けた。
同時にチャージが完了した右手を二人に向けて突き出す。
二人が気付いてとっさに逃げようとするが、
「イクスバーナァアアアアアアア!!!」
逃亡を許さず、綱吉は容赦なく二人に向かって最大級の炎を放った。
どおおおおんっと、辺りに轟音が響く。
同時に屋敷全体が地震でも起きたようにガタガタと大きく揺れた。
熱に耐え切れず、すぐ傍のガラス窓が吹き飛ぶ。
その際、割れたガラス片が綱吉の頬をかすめ小さな傷を作ったが、綱吉は気にせず滲んだ血を拭うこともなくじっと炎の先を見つめた。
その視界に、わずかに動く影を見つける。
どうやら獄寺と山本は、この炎の直撃を避けて脱出したらしい。
それを感じ取り、綱吉は爪先にぐっと力を込めた。
そのまま地を蹴り、左手の炎の炎圧を上げる。
ボッと炎を爆発させ、綱吉は一気に屋敷の外へと飛び出した。
全身に炎を纏わせ、まるで火の球のような姿になり、そのまま空へと向かって上昇する。
ぐんぐんと垂直に飛び、ややして屋敷全体を見下ろせる位置まで飛ぶといったん動きを止めた。
「わぁ…」
そこから改めて上から屋敷を見てみると…
とんでもなくカオスな状態だった…
パーティーが行われていたはずの会場は、恐らくアルコバレーノたちの仕業だろう、屋根が完全に無くなっている。
そこから巨大なタコと、なぜか緑色の合金ロボットが戦っている様子が見えた。
誰が作ったのかは明白だが、あえてここでは突っ込まない。
さらに視線を動かすと、リボーンの破壊した放送室からもまだ煙が上がっているのが見え、綱吉の壊した自室と廊下は言わずもがなの状態になっていた。
そんな中、今日のパーティーに集まっていたのだろう大勢の者たちはと言えば、爆発を気にする様子もなく屋敷のあちこちを元気に徘徊している。
「まるで遊園地だな…」
ポツリと呟きながら、綱吉は次に今しがた破壊した廊下の方へと視線を戻した。
するとそこには、イクスバーナーから逃れて下の階に避難していたらしい獄寺と山本の姿があった。
「10代目ぇ!」
「ははっ、やっぱツナにはかなわねぇのな」
なんとものんびりとした口調で二人がこちらに向かって笑う。
まるで直前まで綱吉を追い詰めようとしていたことなど嘘のようだ。
そんな二人の姿に、綱吉は首を傾げた。
てっきりまだ追いかけてくるものだと思っていたからだ。
あれだけ行かせまいと攻めてきたのだから、警戒して当然だろう。
だが追ってくるような気配は全く無い。
これではまるで拍子抜けである。
と、そこで綱吉はもうひとつの違和感に気付いた。
そう、骸と雲雀だ。
いくら足元を凍らせてきたとは言え、あの二人の事だ、追いかけてくるとすればきっと今頃はもう追いついていてもいい時間である。
それなのに、あの二人も追いかけてくる様子はない。
まるで、もうこれ以上追う気はないとでもいうようにとても静かだ。
だが、どうして…
すると、
「そのまま行ってください10代目」
イヤホンマイクから、ジャンニーニが話しかけてきた。
「え?」
「今なら、我々以外にはまだ誰も10代目がそこにいる事に気付いていません」
言われて地上を見れば、確かに宝探しに夢中な客人たちは、上空に居る綱吉の存在に気付いていない。
このままジャンニーニ里言うようにリボーンを探しに行っても、誰にも気づかれることはないだろう。
けれど…
迷いが産まれた。
確かに、会場をひとりで抜け出して、ひとりでリボーンを探すつもりでいた綱吉だったが、
(本当に、このまま行ってもいいのかな…)
チラリと、獄寺たちの顔を窺った。
もともと、リボーンは屋敷内のどこかにいるだろうと高をくくっていた。
だから会場を獄寺に預けてリボーンを探し始めたのだ。
けれど、この様子ではきっとリボーンは室内にいない。
屋敷内ではない別の場所にいるのだろう。
しかしそうなると、これまでとは話が別だ。
リボーンを探してやりたいが、綱吉がここから離れるわけにはいかなかった。
自分はボスだ。そのボスが、パーティー会場である屋敷をこのまま放って出て行ってもいいはずがない。
それに、翌日には綱吉の誕生日パーティーが開かれる。
もしも日帰りできるような場所にリボーンがいなくて、そのまま日付をまたいでしまったら大事だ。
主役である自分がいなければ、客人をもてなすこともできない。
客の中には伝統だのしきたりだのとうるさい連中もいる。
誕生日パーティーとは名ばかりで、明日は実際にはボンゴレの威厳を示すための集会でしかないのだ。
だから正直、特にここ数年はずっと、自分の誕生日が憂鬱だった。
嬉しかった誕生日など、まだ綱吉たちが日本に居た時に行ったものだけだ。
それでも、この日を今まで何とか乗り越えられてきたのは、仲間がいたから。
それに、師であり恋人であるリボーンがいてくれたから。
(ていうか、そのリボーンが現在行方不明なんだけどね…)
毎年誰よりも先におめでとうと言ってくれるリボーン。
そのリボーンの言葉があったから、どんなに小うるさい連中の中でも笑っていられたのだ。
だから、それも含めて早くリボーンを探さなければならない。
探して、連れ戻して…
「ところで10代目、明日のパーティーの事ですがね」
意思を固めたところで、再びジャンニーニが話しかけてきた。
もちろんパーティーまでにはリボーンを連れ戻してくると返そうとした綱吉の耳に、
「この騒動でお屋敷はこのとおり大パニックです。これではとてもパーティーどころではありません」
不意にそんな言葉が飛び込んできた。
「へ?」
意図を掴み兼ね、綱吉は間抜けな声を出す。
そんな綱吉に、ジャンニーニはハハハといつものように笑い、なんでも無い事のように後をつづけた。
「屋敷もかなり破壊しましたし、これから明日の準備となると、徹夜したところで間に合いそうにありません。今年の10代目のパーティーは、日取りを変更した方がいいかもしれませんね」
「……」
まさか…と思った。
そんなこと、してもいいはずがない。
だいたい招待状はもう各方面に送ってしまっている。
それこそ、うるさい連中に日取りの変更だなどと言えば火に油になるばかりだ。
(けど…)
いいのか?
本当に?
ソワソワと綱吉の胸が騒いだ。
いいのだろうか、本当に…
このまま、この場を離れてしまっても…
チラリと獄寺たちを見た。
そして驚く。
その手には、綱吉が書いて送ったはずの多数の招待状が握られていた。
「先方にはすでに期日変更の連絡は送られています。改めて招待状を書くことになりますが…。なに、10代目にとってはほんのひと手間の苦労でしょう」
好き勝手に言ってくれる。
だが、これで確信した。
この計画に、獄寺たちも一枚噛んでいると。
もちろん、骸と雲雀も加担しているのだろう。
だから追いかけてこないし、獄寺たちもああして見送ってくれている。
よくよく思い返してみれば、確かにおかしな言動や、ヒントは散りばめられていた。
『君が手に持っているそれ。随分と大事そうに持ってるけど』
『なるほど、それが当たりの箱ですね』
綱吉に、箱の存在を意識させるような物の言い方も、
『覚悟してください10代目』
『悪いな、ツナ。ここは俺も引くわけにはいかねぇんだ』
綱吉を挑発するようなあの言動も。
全ては、騒ぎに乗じて綱吉を屋敷から脱出させ、リボーンの元へと向かわせるため。
(けど、なんでこんな大がかりなこと…)
当然の疑問だった。
こんな大騒ぎを起こして、ただで済むはずはない。
それでも彼らは、実行した。
リボーンが立てただろう計画に、協力した。
どうして?なんのために…
そこまで考えて、ふと、綱吉は気が付いた。
「そうか…」
簡単な事だ。
ただ、願いを…
綱吉が、ふと呟いた願いを…
「叶えるために…」
それは、とても些細な願い。
けれど、ボスとなった自分には、とても難しい願い。
「ほんと、みんな馬鹿なんだから」
ジワリと、熱い感情が胸を締め付けた。
嬉しかった。
ただとにかく、嬉しかった。
「けっきょく、責任を取るのはボスである俺なんだぞ。それをわかってやってるのかな、君たちは」
文句を言いながらも、その顔は喜びにあふれている。
「各方面に一緒に謝ってもらうからな」
その声が聞こえたのか、獄寺は「詫び状なら任せてください!」とこれまたにこやかにそう告げたものだから、耐え切れずに綱吉は大きな声で笑って、同時に零れた涙を肩口で拭った。
そう。あれは、ちょうひと月前の事だろうか。
「今年は何が欲しいんだ、ツナ」
リボーンが、綱吉に誕生日のプレゼントに欲しい物を訪ねてきた。




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