「レオン?どうしてこんな所に…」
話しかけながら、綱吉はそっとレオンの傍に近づいた。
部屋の爆発前からいたのだろうか。
だとしたら申し訳ない事をした。
怪我はなかったろうかとその緑色の体をひょいと持ち上げる。
するとレオンは大丈夫だと伝えるように綱吉の顔を長い舌でペロリと舐めた。
「それで?どうしてお前がここにいるんだ?」
聞いたところでリボーンとは違いレオンの言葉が解るわけではなかったが、レオンの方は人の言葉を理解するようで、綱吉の問いにコクコクと頷づくと口から何かをプッと吐き出した。
「なに?」
両手でレオンを抱えていたため吐き出した物を受け取れず、ソレは床にポトリと落ちる。
綱吉は一度レオンを床に下ろすと、落ちたものをそっと拾い上げた。
「鍵?」
拾ったソレは、どうやら何かの鍵らしい。
とてもシンプルで、どこにでもありそうな小さな鍵だった。
「なんの鍵?」
レオンに問いかけてみるが、やはり答えてくれるはずもなく。
それどころか、役目は終わったとばかりにレオンはさっさと崩れた壁から外へと出て行ってしまった。
「あ、ちょっと待ってよ、レオン!!」
綱吉もすぐに後を追おうとするが、
「ん?」
足元にコツンと当たる物がある事に気が付いて、なんだろうと下を見た。
「箱?」
するとそこには、手のひらサイズの小箱がひとつ。
ちょうど綱吉たちの持つ函と同じような大きさの小箱だ。
こちらにも鍵同様に装飾は無く、小さな鍵穴がひとつだけついているとてもシンプルな小箱だった。
なんの箱だろうかとしばらく眺め、ややして綱吉は手に持っている鍵と箱の鍵穴の関係性に気が付いた。
レオンが渡してくれたカギ。
そして、レオンが去った後に残された鍵穴のある箱。
「これを開けろ、ってこと?」
恐らく、これがリボーンの残していった手がかりなのだろう。
きっとこの箱に、リボーンを探すヒントが入っているに違いない。
綱吉はすぐに鍵を鍵穴に差した。
小さくカチリと音がして、箱のロックが解除される。
「よし、ビンゴ!」
自分の予想が当たった事に満足して、綱吉は不用意に箱の蓋を開けた。
だが忘れてはならない。
それはリボーンが用意したアイテムである。
「ぎゃっ!!!」
案の定、綱吉は箱を開けた瞬間に悲鳴を上げる結果となった。
パカリと開いた蓋の奥から、明らかに体積をオーバーした大きさのグローブが綱吉の顔面に向かって飛んできたのである。
あまりの勢いに避けきれず、もろに顔面にそれを食らった綱吉は無様に後方に倒れた。
ドシンと間抜けな音ががらんどうの室内に響く。
そしてその直後だった。
ブブッと館内に機械音が響いた。
「何だ?!」
慌てて飛び起きた綱吉の耳に、
『あーあー、ゴホン』
館内マイクからリボーンの声が聞こえてきた。
「って、リボーン!!」
やはりリボーンは館内に居たのか!!
マイクの声に反応して、起き上がった体制から直ぐに綱吉は走り出した。
先ほどの破壊直後の電話といい、綱吉がトラップに引っかかったタイミングでの館内放送といい、どう考えてもどこかで綱吉の行動を見ているとしか思えない。
「とっつかまえてやる!!」
綱吉の額にオレンジ色の炎が灯った。
しかし、
『あー、俺様の誕生日に集まってくれた、諸君。楽しんでいるか?』
「ん?」
咳払いの後に聞こえてきたリボーンの声に、ピタリと足を止めた。
「これは…」
放送に耳を澄ます。
リボーンの声に、微かな雑音が混じっているようだ。
「肉声…じゃない…。これは…」
この雑音の混じり方は、マイクを直接通した声ではないと気が付いた。
何かワンクッション。
そう、マイクの前に、別の媒体がある。
「これは…録音だ!!」
『毎年集まってくれる諸君に、今年は俺様からスペシャルなプレゼントを用意してやったぞ』
続けて聞こえてきた音声に、綱吉は確信する。
間違いない。
これは事前にリボーンが何か別の物に録音していた物を、放送室のマイクを使って流している物だと。
だとすれば、やはりリボーンは館内に居ないのか…
それとも、このマイクの演出もフェイクなのか…
「ああ、もう!わかんなくなってきた!!」
頭をガリガリと掻きむしる。
まったくもって厄介だ。
厄介ついでに、これからリボーンが言おうとしている事もかなり厄介な事になるんだろうと予測できた。
一方、その声はパーティー会場にももちろん流れていた。
「なんだ、コラ」
「リボーンのようですね。会場に現れず、いったい何をしているんでしょうか…」
モクモクと食べ物を口に運んでいるコロネロの隣で、こちらは持参したらしい酒を次々と喉に流し込んでいる風が放送の声に気付いて首を傾げた。
リボーン不在のまま始まったパーティーは、しかし毎年最後には無礼講の酒場に代わるため今年もそんなものだろうと最初からリボーンの事は気にせず飲み食いをしていたところだ。
それは他のメンバーも同じだったようで。
「リボーンの奴、何か企んでいるようだね」
「どうせろくでも無い事だろう。興味は無い」
マーモンとヴェルデの二人がそれぞれに好きな料理を手にしてリボーンの噂をしながらコロネロたちの傍にやってきた。
「叔父様ったら、何を始める気なのかしら」
そこにγを連れたユニも合流し、元アルコバレーノの面々が全員集合したよう…に見えたのだが…ひとり足りない。
「おや?スカルはどうしました?」
「そう言えば今日は見てないぜ、コラ」
「ボクも見てないよ」
「どうせリボーンにこき使われているのだろう」
「ああ、なるほど」
ヴェルデの一言に、全員が納得する。
良く聞けば流れている声は肉声ではなく録音したものであるとわかる。
恐らく放送室にいるのはリボーン本人ではない。
録音機器を持たされ、これを流すようにと言われたスカルが流しているのだろう。
パシリではない!が口癖の彼だが、実際リボーンにいいように使われている姿はパシリ以外の何者でもない。
可哀想な目になって、全員がスピーカーを見つめた。
そんな彼らの哀れみなど知らず、リボーンの声は淡々と先へ進む。
『せっかく大勢が集まったんだ。どうだ?俺様とゲームをしようじゃないか』
どこか悪戯を含んだようなリボーンの声。
そのゲームと言う単語に、会場がざわつきだした。
(リボーンさんはいったい何を始める気なんだ?)
同刻、会場の安全を負かされた獄寺は、ハラハラとした気持ちでスピーカーを見上げていた。
どうか…どうか願わくは、あまり派手に暴れまわるような企画ではありませんように!!
しかし願いは砕かれる為にあるものだ。
『そこでだ、第一回、俺様を探せ!宝探しゲームを開始するぞ!!』
「はあ!?」
会場が一体になったようにその場にいる全員が声を上げる。
なんだ、その俺様を探せって。
宝ってなにか?リボーン本人が宝だとでも言う気か。
全員の、特に元アルコバレーノたちの顔が一気に曇った。
「誰がそんなくだらねぇゲームに付き合うか、コラ」
「そうだな、実にくだらん」
「リボーンを探すより、こっちでご飯を食べていた方が有意義に過ごせるよ」
「同感です。ここから動く気はありませんよ」
それが録音だとわかっていても、スピーカーに向かって文句を言わずにいられない。
因みにユニは、少し楽しそうだとワクワクしている様子だ。
『ふん。どうせくだらねぇゲームだ…とか思ったろう?』
「………」
それを見透かしたかのように、リボーンが言い当てる。
録音なのに嫌味な奴だ…
全員の気持ちが一致した。
『だがな、お前たちは参加したくなるぞ』
しかしそんな彼らの心境など知るはずもなく、リボーンはそう勝手に決めつけると自信満々に企画の主旨を話し始めた。
『実はな、この屋敷中に函と同じ大きさの小箱を大量に隠した。その中には、俺様からのプレゼントが入っている。ゲームは、その小箱を見つける事だぞ』
「なんだ、やはりくだらないですね…」
風が息を吐く。
興味が無いと言いたげに目を伏せ、料理に手を伸ばした。
だが、
『大当たりの箱には、俺様の居場所が記されたヒントが入っている。そのヒントを頼りに見事俺様を見つけ出した奴には、さらに特別なプレゼント、ツナになんでもお願いを聞いてもらえる権利をくれてやるぞ』
「ぜひ参加しましょう、皆さん」
「切り替え早いぜ、コラ!」
コロッと変わった態度に、コロネロが思わず突っ込みを入れる。
しかし目の色を変えたのは何も風だけではない。
「報酬アップもありでいいのかい?」
「研究費にもう少し援助が欲しいところだ」
「私も、道場の壁が最近傷んでいるのでリフォームの費用が欲しかったんです」
「おい、全員金目当てか、コラ!」
コロネロが呆れ顔で3人を見た。
すると風がクルリとコロネロに向き直り、
「コロネロは、欲しい物がないのですか?」
ふぅん…とどこか挑発するようにそう尋ねると、コロネロは一瞬言葉に詰まり、それから渋々といった様子で答えた。
「……マフィアランドに増やしたい施設があるぜ…コラ」
「…へぇ」
「なんだ、貴様もやはり同じではないか」
今度は3人がコロネロをジトリと見つめる。
しょせんは同じ穴の貉である。
お互いに責められる謂れはない。
一方、その権利に守護者側はまた違った盛り上がりを見せていた。
「なんでも?今、なんでもって言いましたか!?」
始めに色めき立ったのは、当然と言うか骸だった。
「という事は、念願だった綱吉君の体を手に入れるチャンスがいよいよ到来したと…!」
「んな事させる訳ねぇだろうが!!」
獄寺が直ぐに噛みつくが、骸はそれを軽くあしらった。
「何でもと言ってきたのは綱吉君の方です。あなたに否定される筋合いはありません」
いや、言い出したのはリボーンであって決して綱吉ではない。
だがここにいる者たちがそれを知るはずもなく、
「くっ…!なら俺がそれを阻止して、俺の願いを10代目に叶えていただくまでだ!」
骸の挑発に、獄寺があっさりと引っかかった。
もはや綱吉に会場の安否を任されたことなど忘れている。
「ちなみに獄寺はツナに何をお願いする気なんだ?」
そんな使命に燃える獄寺に、爽やかを装った山本がバットを片手にして尋ねる。
途端に獄寺は、正直にもその顔を真っ赤に染めた。
「そ…れは…その…」
「なんだ?言えないような事をお願いする気なのか?獄寺。それは許せねぇな」
「ば…ばかやろ…!そんなんじゃねぇ!!」
必死に否定しようとすればするほど、その顔は赤くなっていく。
獄寺の脳内では、綱吉といったいどんな展開が浮かんでいるのだろうか…
「なら、俺はその獄寺の願いを阻止して、俺の願いを叶えてもらうのな」
「んな!?」
ニッと笑うその顔には、もはや爽やかの欠片もない。
そして山本に続くように少し離れた場所にいたはずの雲雀が参戦してきた。
綱吉の話題とあり、しっかりと聞き耳だけは立てていたようだ。
「願いを叶えるのは僕だ。そして君たちは今、ここで咬み殺す」
「待て、なんで咬み殺す方向に話が繋がる」
最後の咬み殺す発言に獄寺がダイナマイトを取り出した。
「邪魔者は少ない方がいい」
「その意見には同意ですね」
骸も楽しそうに三鉾槍を召還する。
山本に至っては最初から肩に担いでいたバットを敢えて剣にはせずに構え直す。
なぜだろう、剣より暴力的だ…
「ちなみに雲雀はツナに何を願う気なんだ?」
山本が素振りをしながら雲雀に尋ねる。
「そうだね。左の薬指の独占権を…」
「絶対に阻止な」
「阻止します」
「断固として阻止に決まってんだろ!!」
みなまで言わせず阻止が入る。
そのまま己の武器を大きく振りかぶった四人に、状況に置いて行かれた形のランボと良平は…
「楽しそうで何よりではないか。極限俺も参加するぞ!」
「ボンゴレ…。あの人たちに勝てば俺も少しは認めてもらえますか…」
それなりに決意を固めているようだ。
『やる気になってきたか?よしよし、そんなてめぇらに、俺様から最初のプレゼントだ』
場が最高潮に盛り上がってきたところをまるで読んだように、リボーンの声がまた館内に響いた。
同時に、天井に巨大な影がかかる。
「あ、あれは!」
最初に気付いたのは風だった。
天井に八本の足がにゅるにゅると広がっていく。
その足には見覚えがあった。
そう、スカルの相棒であるタコの足だ。
「あいつ、やっぱりリボーンの手伝いさせられてたんだな、コラ」
「放送室から急いでこっちに戻ってきた所を想像すると、哀れでならないよ」
他のメンバー達も気付いたようで、一同に生暖かい顔になる。
その目を一身に受けている自覚はあるのだろうか。
スカルの姿はその視線から逃れるようにタコの陰に隠れて見えない。
『俺の元に誰が一番にたどり着くか、楽しみにしているぞ』
そんな哀れなスカルの事など知る由もなく、録音の声は最後の締めくくりだとばかりに盛り上がりを見せた。
『受け取りやがれ!勝利を掴みとるためのカギだ!!』
リボーンの声が一段と大きくなる。
その声に合わせてタコが会場中に何かをバラ撒いた。
「わっ!」
「うわぁあ!」
突然の落下物に、あちこちで悲鳴が上がる。
アルコメンバー、守護者メンバー達は器用に落下物をキャッチした。
「鍵…」
「鍵ですね」
リボーンの言葉どおり、それは鍵だ。
つまりは、隠してある箱を開ける鍵。
それを理解した途端、彼らは会場を飛び出して走り出した。
「待っていなさいリボーン!!絶対に見つけてあげます!」
「風…なんか性格設定がおかしいぜ、コラ。大丈夫か?」
「ノープロブレム!!」
それは近年まれにみるはしゃぎっぷりだったと、後に彼の弟子が語ったと言う…
『なお、このテープは自動的に消滅する。諸君らの健闘を祈る』
スピーカーから再びリボーンの声が聞こえてきたが、もはやだれもその声など聴いていない。
放送室の爆発音は、むしろスタートの合図に変わった。


「さーて。全員がスタートしたぞ。どうする?ツナ」
わあわあと屋敷中が騒ぐ音を手元のリモコンで聞きながら、リボーンが小さく微笑んだ。
自分の元へたどり着くその一人が、誰であるのか。
まるでその答えを知っているように…




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