絶対に探し出してやる!
そう意気込んでパーティー会場を飛び出してきた綱吉だったが…
「それで?いったいどこから探せばいいんだろう…?」
早々に行き詰っていた。
仕方がない。リボーンは探してみろとしか言っておらず、つまりは全くのノーヒント状態なのである。
これで探せという方に無理があるというものだ。
それともなにか、ボンゴレの血を最大限に活用し、超直感だけでリボーンを見つけ出せとでもいうのだろうか…
「いや、無理」
即答して首を横に振った。
そもそも綱吉の超直感は、どこかに置いてきてしまっているんじゃないかと思うくらい普段はちっとも働かない。
余程の危機に追い込まれない限り、この直感に頼ることは無駄なのだ。
だがそうなると、いったいどうすればいいのか…
「ああ、もう。どうしよう…。電話…にはきっと出てくれないよな…」
途方に暮れながらもう一度電話に手をかけるが、リダイアルを押す前に諦める。
リボーンのことだ。仮に繋がったとしても、ヒントなどあたえてくれないだろう。
なにしろ「探せ」とのお達しだ。
ヒントも自分で見つけ出せと言われるに決まっている。
「けどなぁ、何も手がかりが無いまま闇雲に探してもなぁ…」
思いながらも足は真っ直ぐある方向へと向かっていた。
向かう先はリボーンの部屋だ。
可能性は限りなく低いが、もしかしたら何かヒントを残していってくれているかもしれない。
まぁ、あまり期待はしないが…
だが何もせずにここで悩むよりも、動き出すきっかけくらいにはなるだろう。
もし何もヒントがなくても、リボーンの部屋でゆっくりくつろぎながら考えれば何かいい案が浮かぶかもしれない。
そうだ、ついでにリボーン秘蔵の豆でコーヒーでも淹れよう。
名案が浮かんだとばかりに、綱吉は軽い足取りで先を急いだ。
目的地であるリボーンの部屋は、会場となるホールのある棟から少し離れた場所にある。
先に進むにつれ、パーティー会場の騒々しい声も聞こえなくなり、辺りはやがて普段と変わらない穏やかな空間へと切り替わった。
ふと窓から外を見れば、庭師が綺麗に整えた木々たちが初秋の風を受けてゆらゆらと揺れている。
それがどこか儚げに見えると言う者もいるが、綱吉にはどちらかと言えば楽しげに音を奏でて踊っているように感じられてむしろ好ましい。
秋生まれだから、そう思うのかもしれないが。
そんな外の風景をのんびりと眺めながらさらに歩く事数分。
ようやく目的地の部屋にたどり着いたが…
綱吉はすぐにそのドアを開けようとはしなかった。
なぜなら…
「何も無い…よな?」
誰にともなく綱吉は確認し、ゴクリと唾を飲む。
そう。意気揚々とここまで来たのは良いが、ここはあのリボーンの部屋である。
そのドアにトラップが仕掛けられている事は、もはや常識だ。
ドアを開いた瞬間、いや、ドアノブに手を触れた瞬間、部屋ごと爆発をした事数知れず…
「うわ、こわっ…!!」
過去のトラウマを思い出し、綱吉はブルリと震えた。
ああ、この部屋の修理代にいったいいくらかかった事か…
しかし、だからと言ってここまで来て背を向ける訳にもいかない。
中にはヒントがあるかもしれないのだ。
…無い可能性もあるけれど。
とにかく、怖いが先に進まなければ話も前に進まない。
「よ、よし」
綱吉は妙な気合いを入れると、覚悟を決めてドアノブに触れた。
「っ!!」
ギュッと身構える。
だが、ドアが爆発する様子はない。
「大丈夫…かな?」
そのままカチリとノブを回してみた。
よし、大丈夫だ。部屋のドアは爆発せずに開く。
「そ、そうだよね、ヒントがあるかもしれないんだ、俺がここに来るだろうってリボーンだって予想してトラップは解除してくれてるよね」
ほっとしながらも、しかし警戒は解かない。
なんといってもリボーンだ。
油断したところにぶっ込んでくる可能性は充分にあった。
ドキドキと、トキメキとは完全に真逆の心音を鳴らして、綱吉はそっと室内に忍び込んだ。
直後に床に体を伏せる。何かしらの襲撃に備えた。
「……」
そのまま固まること数分。
「何も…無いだと…!?」
綱吉は驚愕の表情で立ち上がった。
そう、何も起こらない。
待てども待てども、何も攻撃が無いのだ。
「そんな馬鹿な!?」
リボーンが聞いたら「失礼な」と眉を寄せただろう。
だが、綱吉にとってみればとても信じられない事だ。
だってあのリボーンが、何のトラップもなく自分の侵入を易々と許すだなんて…
「何か他に罠がありそうな気もするけど…」
念のため、もう少し待ってみた。
それでも部屋の様子に変化はない。
まぁ、何も無い方がありがたいのだが、
「無ければ無いで不安になるよな…」
なんとも複雑な心理状況だ。
「ま、いいか。えーと、じゃあヒント探そうかな」
何もないのなら、今のうちにヒントを探した方がいいだろう。
急に気が変わったように攻撃をされたのではたまらない。
さっさとリボーンを探し出して、獄寺に任せてきたパーティー会場に戻らなければならない。
今頃、自分の居なくなった会場はどんな参事に見舞われているのだろうか…
ちょっと考えると怖くなったため、綱吉は慌てて思考を遮断した。
「とにかく、早く終わらせよう」
綱吉は改めて決意すると、本格的に部屋の捜索に乗り出した。
まずは定番のクローゼットから調べようと近づいてみる。
えいっ!と勢いよく開けたクローゼットには、定番である黒いスーツがズラリと並んでいた。
これはこれでどうなんだろう…
黒一色のクローゼット…
なんだか気持ちが悪い…
その分、なぜかシャツがとてもカラフルだ。
いつも思うが、どうしてこの奇抜な色の組み合わせが、リボーンだと似合ってしまうのだろうか…
「永遠の謎だな…」
呟きながらクローゼットを閉じた。
ここにヒントは無いらしい。
あとはどこを探そうかと、綱吉は再び室内に視線を移す。
すると、ある一点で綱吉の視線がピタリと止まった。
「なんだ、あれ…」
途端にそれまで険しく辺りを探っていた目が生暖かい物に変化した。
「どうしよう、探すのが嫌になってきた」
視線がそこから離せない。
「ソレ」は、ベッドの上にこれ見よがしに置いてあった。
ちなみに、ヒントの類ではない。
それでも綱吉の視線はそこに注がれたまま、大きく息を吐いて肩を落とした。
「なんでイエス・ノー枕?!」
室内には誰もいないとわかっていても、声を上げて突っ込みを入れずにはいられない。
そう。なぜかリボーンのベッドの枕元には、クッションが二つ鎮座していた。
しかもピンクとブルー。
さらにそれぞれの枕には表と裏にイエスとノーの文字が大きく書かれている。
いわゆる夫婦の営みにかかせないイエス・ノー枕である。
そして現在その枕は二つともイエスの方向を向いていた。
いったい、誰と誰を想定してイエスの方向にしてあるのだろうか…
もしや愛人相手に用意した物ではあるまいな…
一瞬、綱吉の表情が固くなる。
来るもの拒まず精神で愛人をベッドに押し倒すリボーンを想像して、ザワリと胸が騒いだが、
「…いや、愛人相手にこんなアホな手は使わないよな…」
直ぐに冷静になった。
そうだ。女性を見たらまずは口説けのイタリア男を地で行くリボーンが、愛人相手にこんな手の込んだ…半分ふざけたような手を使うはずがない。
女性の前では常にスマートにフェミニストに。
それがリボーンの信条である。
こんなふうにふざけた一面を晒すのは、綱吉の前だけだ。
となるとこの枕は当然、綱吉に見せるために用意した物なのだろう。
この部屋にヒントを探しにくるだろうと予想して、わざわざトラップまで外して綱吉を室内におびき寄せ、本日のお誘いを枕で語って見せたわけだ。
「って、アホか!!」
綱吉は力いっぱい枕に裏拳をかまし、そのまま二つの枕をノーの面にひっくり返して設置しなおした。
「しません、絶対にしません!!」
届くはずがないとわかっていても、叫ばずにはいられない。
綱吉の顔は、庭の紅葉よりも真っ赤に染まっていた。
「もう、信じられない!!」
熱い耳を抑えつつ、綱吉は枕をひっくり返した勢いのまま踵を返すと部屋を飛び出した。
珈琲だとかひと休みだとか、とてもではないがあの部屋の中ではもう出来そうにない。
枕ひとつでずいぶん踊らされているような気もするが、直接言葉で誘われるよりもああして間接的に誘われる方がどうにも恥ずかしくてたまらなかった。
「次だ、次!!」
頭から湯気を上げながら、綱吉はリボーンの部屋に背を向けたままズンズンと歩く事数分。
「で、その次っていったいどこなんだろう…」
再び綱吉は行き詰まり、ピタリと立ち止った。
「しまった…」
頭を抱える。
枕に動揺してそのまま飛び出してきてしまったが、結局何のヒントも得られていないのだ。
(どうする?やっぱりリボーンの部屋に戻って調べ直すべきか?)
そう思うのだが、チラチラと枕の残像が瞼の裏にあり、どうしても行くのが躊躇われた。
「もう、なんなんだよあの枕、恥ずかしすぎだろ…」
カカッとまた顔が熱くなる。
なんてものを用意してくれたんだ、あのエロ家庭教師。
それとも綱吉の考え過ぎなのだろうか。
もしかしてデザインが気に入って部屋に置いていただけだとか?
いやいやそれは無いだろう。
それにしてもあんな恥ずかしい枕、置いてあったのが自分の部屋ではなくリボーンの部屋で良かったと心底思う。
もし自分の部屋にアレがあっとしたら、たまったものではない。
「って、部屋?」
そこまで考えた時、綱吉はひとつの可能性に気が付いた。
…まて。アレは本当に、リボーンの部屋にだけ用意された物なのだろうか…?
「ま、まさか…」
嫌な予感がする。
綱吉はバッと顔を上げ、今度はダッシュで自分の部屋へと駆けだした。
まさか、そんなはずは…!!
否定しながらも、その可能性は決して捨てられない。
「まさかあの枕、俺の部屋にもあるんじゃないだろうな!?」
さっと血の気が引いた。
全身が凍り付く思いだ。
そうだ、どうしてもっと早くその可能性に気が付かなかったのか。
「うわぁぁあああ!!あんな物が俺の部屋にあったら恥ずかしくて死ねる!!」
絶叫しながら加速した。
まさに弾丸の勢いだ。
「誰も俺の部屋に入ってませんように!!」
祈りながら走る。
いやすでにメイドが見た後かもしれないが。
ああ、でも今朝起きた時には何も変化は感じられなかったはずだ。
しかしリボーンの事。綱吉が部屋を出た後に細工をしていないとは言い切れない。
「ぬあああああああ!!」
それこそ死ぬ気の全速力で綱吉は部屋にたどり着き、壊す勢いでドアを開いた。
実際にドアの留め具が外れ廊下に無残な姿となってドアは投げ捨てられたが、今はそんなことにかまっていられない。
「枕!!」
綱吉の目がすばやく自身のベッドを確認した。
そして、
「食らえ!渾身のイクスバァナァアアアアアアア!!!!!」
ピンクとブルーの物体が視線の端に写ったその瞬間、コンマ数秒の速さで両手にイクスグローブをはめ、渾身の力を込めて綱吉はベッドごと奴を破壊した。
それはもう、木っ端微塵に…
派手な破壊音があたりに響く。そして、
「よし、消去完了!!」
シュウウッと綱吉の額の炎が収まるのと同時に、ようやく部屋にも静寂が戻った。
スッキリとした表情の綱吉の視界の先には若干外の見通しの良くなった自室の壁…があった場所が見えたが、そんなことよりも今は任務を終えた爽快感に満たされる。
「これであの恥ずかしい枕を誰にも見られずにすむぞ」
にこやかに笑ってそう言うが、このままでは綱吉もこの部屋で寝る事はできまい…
その事実に綱吉が気付こうとした時だった。
まるでタイミングを計ったかのように、綱吉の胸ポケットにしまってあった電話がけたたましく着信を告げた。
「あっ!!リボーン!!」
誰と確認する事もなく、確信を持って綱吉は直ぐに応答する。すると、
「おい、せっかくの俺様からのプレゼントを粉々にしてんじゃねぇぞ、ダメツナが」
案の定、呆れた様子のリボーンの声が向こう側から聞こえてきた。
「うるさいよ!てか、どこにいるんだよ!!」
小細工ばかりしていないで姿を現せ。
破壊したと同時に電話が鳴った事を考えると、かなり近くにいるんじゃないのか。
矢継ぎ早に質問するが、リボーンはそれには答えずに、
「とにかく、ヒントを探し出して俺様を見つけてみろ。お仕置きはその後だぞ」
さらっと最後に嫌な台詞を残して、再び通話を切ってしまった。
「なんなんだよ、もう…」
ぎゅっと電話を握り締める。
リボーンが何を考えているのか、さっぱりわからない。
分かった試しは一度もないけれど…
「しょうがない…。ヒント探すか…」
深くため息を吐きながら、綱吉は再びヒントを探そうと半壊した部屋を見回した。
「あれ?レオン?」
するとなぜだろうか。
部屋の隅に、リボーンの相棒であるレオンが大きな目でこちらをじっと見つめている事に気が付いた。




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