「以心伝心とまではいかないけれど」
〜2014リボツナ誕生日ノベル〜


「まったく…。どこに行ったんだよ、リボーンの奴…」
ブツブツと文句を言いながら綱吉は本日何度目かの連絡をリボーンに入れる。
先ほどからコール音は鳴るものの一向に出る気配が無い電話に、綱吉の表情も次第に険しくなっていた。
「10代目、そろそろ…」
そうこうしているうちに、もう会場にいる面々を抑え込む事が出来なくなったのだろう。
獄寺が申し訳なさそうにして綱吉の様子を伺いにくる。
綱吉はひとつ息を吐くと、「いいよ、先に初めて」と獄寺に開始の許可をした。
「しかし、本当にいいんでしょうか…」
だが綱吉の許可に頷きながらも、獄寺はどこか不安顔だ。
確かにこれ以上の引き伸ばしは無理だとわかっていても、本当にこのまま始めてしまっていいものかと躊躇いを見せる。
そんな獄寺に、綱吉はもう一度大きく息を吐くと、
「帰ってこない方が悪い!だからもういいよ!始めちゃって!!」
会場にも聞こえるほどの声でそう叫ぶ。
その声を聞きつけた者たちは、ならば遠慮なくと一斉にパーティーの始まりを告げた。
10月13日。
ボンゴレ本邸。
本日は関係者たちを一同に招いたパーティーが一晩中開催される。
綱吉の家庭教師であるリボーンの誕生日パーティーだ。
しかし、残念ながら現在、主役であるはずのリボーン本人が不在である。
昨晩の事だ。
翌日のパーティーの準備をしている最中、突然リボーンが出かけてくると言い出した。
綱吉はもちろん止めたのだが、どうしても行きたい場所があるとリボーンが譲らないため、パーティー開始までには戻るよう念を押して見送った。
見送ったのだが…
「リボーンの奴、何考えてんだよ…!」
待てども待てどもリボーンは戻ってこない。
それどころか連絡すら取れない状態だ。
そうして主役不在のまま始まってしまった乾杯の声に、綱吉はグラスの代わりに頭を抱えた。
「馬鹿リボーン…」
ボソリと愚痴った。愚痴りたくもなる。
それはいつだって自分中心の家庭教師様ではあるが、さすがにこれは想定していなかった。
なんだって自分の誕生日をボイコットする必要があるのか。
こうして皆が集まって祝ってくれようとしているのに、なんとも失礼な話だ。
(とは言え、確かにマンネリ化してきているのは否めないけどね…)
ちらりと横目で会場内を見回す。
良く知った顔ぶれが集い、無礼講とばかりに飲んで騒ぐパーティーは、もはや毎年恒例となっている。
楽しい事は大好きなリボーンではあるが、常に新しい物を求めるのもリボーンだ。
もしかしたら、毎年変わりばえのしないこのパーティーに飽きて、何か別の事を始めようとしているのかもしれない。
だとすれば何かのサプライズを用意するために出かけたのか。
そうして戻ってくるのはその準備が整い次第になるのだろうか。
それとも、まさか帰る気などなくひとりきりでこの日を過ごすつもりでいるのか…
(そんなの、寂しいじゃん…)
思考が徐々にマイナスへと向かっていく。
そんなはずはないと否定しようにも、リボーンがここに居ない事実が綱吉を不安にさせる。
(…何かするにしろ、頼むから俺にはひとこと言ってほしかったよ…)
深く息を漏らす。
何も言わずに急に消えるなんて無しだ。
言い知れない不安が募っていく。
もしも、このままリボーンが帰ってこなかったら…
(って、ダメだ、ダメだ。ボスの俺がこんな暗い顔をしてちゃ、せっかくのパーティーが台無しになっちゃう)
それでも諦めきれずにもう一度だけとリダイヤルを押し、けれども変わらずコール音だけが虚しく響く電話に、いよいよ綱吉も諦めて気持ちを切り替えようとした…その時だ。
それまでまったく無反応だった電話が突然仕事を思い出したようにけたたましく鳴りだした。
「わあ!!」
ビクリと体を揺らして落としそうになった電話を掴み直し、着信の相手を確認すればそれは待ちわびていたリボーンからの電話。
音に気付いたのか獄寺が「リボーンさんからですか?」とこちらに近づいてくるが、綱吉はそれを手で制してそっと会場から抜け出した。
「も、もしもし!!」
あまり長く待たせるとせっかくつながった電話が切れてしまうかもしれない。
慌てたように通話を押して、耳に押し当てた。
『よう、ツナ』
「よう、じゃないよ!!何やってんだよリボーン!」
電話の向こうから、随分とのんびりした口調で待ちわびていたリボーンの声が聞こえてくる。
途端に綱吉はそれまでの不安と怒りを電話の向こうにぶつけた。
いったい、今どこで何をしているのか。
リボーンがいないまま、もうパーティーは始まってしまった。
この詫びをどう入れるつもりなのか。
一気にまくしたてる綱吉に、リボーンはと言えば「だから電話をかけたんだぞ」と悪びれなく笑った。
その声だけでリボーンが今どんな顔をしているのか想像できた綱吉は、さらに目を吊り上げる。
「だったらさっさと…!!!」
戻って来い!!!
怒鳴りつけようとした声を、
『なぁ、ツナ』
しかし最後まで言う前にリボーンによって遮られる。
「なっ…んだよ…」
勢いを殺され、ググッと詰まりながら綱吉が聞き返せば、再び電話の向こうでリボーンが笑った気配を感じた。
『ツナ。俺は今、どこにいると思う?』
「は?」
あまりに唐突に質問に、綱吉は間抜けな声を上げるしかできない。
どこって…どこだ?
「てか、それは俺が今聞こうと…」
その為に電話をしてきたんじゃないのか。
なかなか状況を飲み込めず言葉に詰まっているうちに、
『なぁ、探して見せろよ、ツナ。俺を』
そう言ってリボーンは一方的に通話を切ってしまった。
「ちょっ、リボーン待って…!!」
綱吉の静止の言葉も当然ながらリボーンには届いていない。
「いったいどういう事だよ…?」
探せ?リボーンを?
「どこにいるのか…」
ヒントも何もなく、探し出せと言うのか?
(もしかして…)
嫌な予感が胸に過る。
けれども多分、それは正解だ。
「新しいパーティーの余興…。もしかしてリボーン探し?!」
マンネリ化した誕生日パーティー。
もしかしたらとは考えていた。
新しい何かを、やらかすんじゃないかと。
「って、それがコレなの!?」
通話の切れた電話に向かって怒鳴る。
当然、返事はない。
「…あのやろう…」
「10代目?リボーンさんからじゃなかったんですか?」
電話を握り締めたままその場に立ち尽くす綱吉に、やはり心配したのだろう、追ってきた獄寺が声をかけてきた。
するとちょうどいいとばかりに綱吉は振り返ると、
「獄寺君…。ちょっとこの場を任せてもいい?」
ガシリと獄寺の肩を掴んで頼み込む。
その目はギラギラと燃えていた…
「はい?ええと、10代目?」
どう返事をすればいいものかと戸惑う獄寺に、だが綱吉はもうこの場を任せる気満々だ。
「俺はあのバカを急いで連れ戻してくる!!」
「えっ、10代目!!」
「おお、見つけてやらぁ!!覚悟しろリボーン!!!」
散々人に心配をかけて、あげく見つけて見せろだと?
ふざけているにもほどがある。
「見つけて一発ぶん殴ってやる!!」
そのまま勢いよく走り出した綱吉に、獄寺はと言えばただポカンと口を開けて見送るしかない。
「ええー?」
予測していない事態だ…
まさか綱吉まで会場からいなくなるとは…
「まったく、今度はいったい何を始めたんですか、二人とも…」
何はともあれ、リボーンの誕生日パーティーはすでに始まってしまったし、途中で中止にするわけにもいかない。
終わる頃までにはきっと二人とも戻ってきてくれるだろう。
いや、そうでなければ困るのだが…
「翌日はご自分のお誕生日だと、10代目は分かっていらっしゃるんだろうか…」
深く深く息を吐く。
今夜は何か、とんでもない事が起きそうな気がする。
それが予感だけで終わってくれればいいのにと願った獄寺の思いはしかし、案の定叶う事はなかった。

「さぁ、パーティーの始まりは、ここからだぞ」

どこかで呟いたリボーンの声は、綱吉の直感にだけ響いて聞こえた。



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