「夢中になるのも、程々に。」



「うーんと…あれ?違うなぁ…」
「バカお前、そっち折ってどうすんだ、こうだ、こう」
「リボーンと俺のは違うんだって!」
「だから、俺と同じのにすればいいじゃねぇか」
「いいや、絶対にオリオンの方が飛ぶことを証明してやる」
「ふん、俺様の作るスフィンクスに勝とうなんざ百年早ぇぞ」
ある晴れた日の午後。
こんな日は決まって逃げ出そうとする綱吉だが、今日は何やら真剣な眼差しになって机に向かっていた。
その正面には、綱吉の家庭教師がこちらもまた真面目な顔をしてせっせと何かの作業をしている。
よく見れば二人の手元にはそれぞれ紙が一枚。
それをちまちまと何かの形に折っていた。
どうやら、仕事…ではなくなぜか二人で折り紙をしているようだ…。
題材は紙飛行機。
お互いに自分の方こそよく飛ぶ飛行機だと言い合いをしてるらしかった。
「俺様のスフィンクスは完璧な左右対照だぞ。機体のバランスも計算されつくしてる。ツナのへなちょこオリオンに負けるはずねぇだろ」
そう言うとリボーンは出来上がった紙飛行機を自慢気に見せつけてきた。
それを睨み付けながら綱吉もようやく折り終わり、
「俺のオリオンをただのオリオンと思うなよ…。両翼改良型で飛行能力は抜群だ」
「ふん。その改良が仇にならなきゃいいがな」
「ノーマルスフィンクスには負けない!」
火花を散らして睨み合う両者。
しかし手に持っているのは物騒な武器ではなくお互いに紙飛行機だ。
事の発端は窓から入ってきた風で飛んだ書類を見た事だった。
散らかった書類をため息を吐きながら広い集めた綱吉は、ふと思い付いたように書類を脇に寄せ、引き出しから便箋を取り出して紙飛行機を折り始めたのだ。
それを見たリボーンが何をやってるんだとたしなめようとしたものの、綱吉の何となくおぼつかない手つきを見て、俺にも便箋一枚寄越せと見本がてらに自分も折り始めた。
そうしているうちにいつの間にか二人とも仕事の事を忘れて紙飛行機作りに夢中になり、いかに飛ぶ飛行機が作れるかの競争になっていったようだった。
「よぉし、決戦だ!」
綱吉が部屋の隅へと移動すると、
「吠え面かくなよ?」
リボーンも上等だとばかりに得意な顔をして綱吉の隣に移動する。
「そっちこそ!負けて文句は言うなよ?」
「言わねぇし負けねぇ。一発勝負だぞ」
「当然!」
せーので腕を振り上げる、と、
「10代目、雲雀が報告書を…って、何やってるんすか?」
何とも間の悪いタイミングで綱吉の守護者であり右腕である獄寺隼人が室内に入ってきた。
出鼻を挫かれた二人は苦い顔になる。
「あれ?何か俺、お邪魔しちゃいました?」
「ああ、全くもって見事に邪魔してくれたぞ」
リボーンが低い声を出して獄寺を睨み付ける。
その冷たい視線に獄寺は「スミマセンでした!」と直ぐに姿勢を正すが、二人の手にある紙飛行機を見ると途端に目を輝かせた。
「紙飛行機っすか!懐かしいですね」
そう言うと、俺も得意っすよ!と自慢する。
そう言えば獄寺は中学の時の修行で山ほど紙飛行機を折っていた時があったなと思い出す。
するとリボーンが、
「獄寺のへそ飛行機じゃあ百万年経とうが俺様の飛行機にゃ勝てねぇな」
そう言って鼻で笑う。
「なっ!?そ、そんな事は無いですよ!へそにはへそのよさってやつがあるっス!」
獄寺がムキになって反論した。
口調が完全に中学時代へと戻っている。
先程からオリオンやスフィンクス、へそ飛行機だのと言っているそれは、どうやら紙飛行機の形の名称らしい。
それぞれに拘りの形があるらしく、お互いに譲れないようだった。
「それに、俺のへそ飛行機は、へそ飛行機改良型Gスペシャルです!」
「でた!獄寺くん専用カスタマイズ!」
へそでは勝てないと言い切られた獄寺が奥の手を出すようにそう言い切れば、綱吉が流石だと感心したように頷いた。
匣ひとつにしても改良して見た目から自分専用にカスタマイズするのが獄寺と言う男だ。
ただのへそ飛行機でも獄寺仕様となれば普通より飛びそうな気がした。
「Gスペシャルか。なかなかイカした名前じゃねぇか」
リボーンの目がキラリと挑戦的に光る。
どうやら獄寺のスペシャル紙飛行機に興味を持ったらしい。
「普段なら格下は相手にしねぇ所だが、今回は特別だ。纏めて相手しやる」
来いと挑発されれば、行くしかあるまい。
わかりましたと頷いた獄寺に、綱吉はならばと手招きをする。
「じゃあ、まずはこっちで飛行機作って。まだ便箋はいっぱい…」
「ねぇ、なにしてるの?」
あるよ、と続けようとした綱吉の台詞が、不意に何者かの声によって遮られた。
さっきから何かしら途中で入る邪魔にリボーンの眉もさすがにピクリと上がったが、その声には聞き覚えがある。
「雲雀さん!」
そう。遮ってきた声の主は、綱吉の守護者のひとり、雲雀恭弥だ。
「あ、そうでした。雲雀が報告書を持ってきてたんです」
入り口から中には入ろうとはせず、ジッとこちらを睨み付けている雲雀の存在を見つけ、獄寺は自分がこの部屋を訪ねてきた理由を思い出し綱吉に告げた。
ああ、そう言えば飛行機を飛ばす直前にそう聞こえた気がした。
「早く質問に答えなよ。部屋で群れて何をしてるの?」
「えーと、紙飛行機を飛ばしてます」
綱吉が素直に雲雀の質問に答える。そうしないと問答無用でトンファーが飛んで来る事は分かっていたので。
「ふぅん」
すると雲雀は興味がなさそうにそう返事をするのだが…
「あの…雲雀さん?」
しかし、だからと言って帰るようなそぶりも見せずに黙ってまだ入り口からこちらを睨み付けてきた。
一体なんだろうと思いながらも、かと言ってこんな群れている現場に雲雀を誘い込む訳にもいかない。
それは自ら殴ってくださいと言っているような物だ。
しかし、このままずっと雲雀を放置するわけにもいかず、綱吉はどうしたものかととりあえず雲雀の名前を呼んでみたのだが…
「ねぇ、綱吉」
「は、はい!」
逆に名前を呼ばれてしまった。
慌てて返事をすると、
「僕はスカイキングの折り方を知っているよ?」
「え?」
唐突に、雲雀がそう言い出した。
スカイキング…
その名前に、綱吉だけでなく獄寺も、さらにはリボーンも反応して雲雀に視線が集まった。
雲雀は自分に集中する視線に満足そうに笑いながら、
「僕のスカイキングは、最強だよ?」
さらにそう続けた。
「スカイキング…ま…まさか!」
「あの、ギネス記録を作ったという伝説の…!!」
どうやらそう言う記録を持つよく飛ぶ紙飛行機の名称らしい。
二人の目が、キラキラと輝いた。
「教えてください、雲雀さん!俺、スカイキング作りたいです!」
すぐに綱吉がバッと手を挙げた。
既に彼自慢のオリオンは飛ぶこともなくただの紙に戻っている。
「いいよ。綱吉になら教えてあげる」
雲雀はそう言うとようやく室内へと入ってきた。
群れているが大丈夫だろうかと一瞬不安に思ったものの、どうやら機嫌は良いらしく殴りかかってくる気配は無い。
「ふん。ツナひとりじゃせっかく伝授しても完璧なスカイキングは完成できねぇ。俺にも教えろ」
するとちゃっかりリボーンがそう言いながらスカイキング作りに混ざってきた。
「…しかたないね。君にならいいよ」
あくまで綱吉にだけ教えるつもりで入ってきたらしいが、機嫌がよいため雲雀はリボーンの申し出にも頷く。
しかしそうなれば当然、獄寺だって一緒に作りたい。
「おい、ヒバ…」
「君には教えないよ」
だが雲雀は全てを言い終わる前にバッサリと獄寺だけは切り捨てた。
「てめっ!このやろう…!」
「ちょっ、ストップストップ獄寺くん!俺が後から教えるから!」
「いいから獄寺はGスペシャルを作っとけ」
直ぐに戦闘体制に入った獄寺を綱吉とリボーンが急いで止める。
ここで騒ぎになったら、せっかくのスカイキング伝授が幻になってしまう。
次に雲雀の機嫌が良い時など、いつくるか分からないのだから。
「う、ぐ…、わ、かり…ました」
それは獄寺も分かっているのだろう。
なんとか怒りをぐっと堪えると、少し離れた場所でこちらをチラチラと伺いながら自分オリジナルの飛行機を折り始めた。



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