「どうして…!」
思わず立ち上がってリボーンに詰め寄ろうとした、その時だった。
ふわりと、春の風が少しだけ開けてある窓からミモザの花の香りを連れて入り込んできた。
そう言えば、庭のミモザが今盛りだったなと思い出す。
その香りに少しだけ冷静さを取り戻した綱吉だったが…
「何してるの、リボーン?」
綱吉とは対照的にリボーンはどこからともなく取り出したブラシでいきなりスーツを払いだした。
なんだ一体と思いながらも、その行動を見た綱吉はひとつの仮説にたどり着く。
いや、でも去年まではなんともなかったはずだ…
しかしそれは突然やってくると聞く。
今年は気候の変化で一気に花が咲き、おかげで患者も倍に増えたとニュースでやっていた。
まさか…もしかしてリボーンは…
「リボーン…もしかしてミモザ花粉症…」
「いや!違う!違うぞ!!」
ほぼ正解だろう答えを口にした途端、リボーンがそれはもう凄い勢いで綱吉の導きだした答えを否定した。
「俺は花粉症なんかじゃねぇぞ!」
さらにそう言い張るが、ならばそのガスマスクは一体なんなのだ…
「花粉症じゃないならガスマスク外せよ」
「いいや、これは花粉を避けるために被っている訳じゃなくてだな、あくまで一身上の都合で…」
「一身上わかったから外してよ」
「馬鹿野郎!外したら俺死ぬぞ?!確実に死ぬぞ?!」
「いや、死なないし…」
ただ鼻水やくしゃみ、目の痒みなどで苦しむ事は確かだろう…
「…くそっ、ミモザ…世界最終兵器め…」
「やっぱりミモザ花粉症なんじゃないか」
ぶつぶつと呟くリボーンの声を拾って突っ込めば、「俺はまだ認めちゃいねぇ!」と返された。
いや、もう認める認めない云々の問題じゃないだろう、そのマスク。
「なんだってそう頑固なんだよ…」
呆れた息をつけば、
「花粉症を認めたら負けな気がするだろ?」
ガスマスクの内側から真剣な眼差しになってリボーンがそう言った。
「…認めても認めなくても症状的に変わりは無いって、いつだったかテレビで言ってたよ?」
綱吉はつい生暖かい眼差しになった。
「いいや!病は気から。精神を統一すれば花粉のひとつやふたつ…」
「花粉、万単位で飛んでくるから」
「……」
「……」
お互いに黙りが続く。
ややしてリボーンがついに観念したようにガスマスクへ手をかけた。
いよいよマスクを外すのか?と思った綱吉だったが…
「ツナのイヂワルー!!!」
「ええ?!」
いきなりリボーンがそう叫んだ。
そのままマスクの上からを両手で顔を覆い、ダッシュで部屋を出て行ってしまう。
「ええー?」
その素早さとまさかの展開に、置いていかれる形になった綱吉はただポカンと口を開けて見送る事しか出来なかった…
しばらく黙って、開け放たれたままのドアを見つめる。
「俺、いじめた…?」
まるで小学生みたいな口調で出て行ってしまったリボーンに、困惑は広がるばかりだ。
だがこれで、先方に潜入できる人材が居なくなってしまった事だけは綱吉も理解した。
「えーと…」
ぽつりと呟きながら、とりあえず綱吉は内線を使用人室に繋ぐ。
潜入する人材をもう一度探す事も必要だが、まずは何より早急に、リボーンの花粉症対策をしなければならないだろう…
このままでは花粉の期間中、リボーンはガスマスクを装着したままだ。
あんなマスク姿で今後も邸内を闊歩されては、正直たまらないのである。
「はい、こちら使用人室…」
「あ、もしもし〜?」




後日、庭のミモザの木が全て撤去がされ、新たな木に植え替えられた。
因みに例のファミリーへの潜入は、骸がけっきょく今の仕事をとっとと切り上げて再び入り込む事になった。
何で自分ばかりとぶつぶつ呟いていたが、今年のボーナスをタップリはずんでやる事で話をつけた。
現在ボンゴレの医療チームは新たなる花粉症の薬をリボーン監修の元に開発中である。
これでリボーンのガスマスクが外れる日もきっと近いだろう…
うん、たぶん。
そう信じたい…


春は新緑の季節。
同時に花粉の季節。

皆さまも花粉症には、ご用心、ご用心…


(終)



---------------------

戻る

-2-


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -