「花粉症を認めたら負けな気がするだろ?」




春の麗らかな日差しの差し込む執務室。
綱吉は難しい顔で一枚の書類を見つめていた。
先日、骸から上がってきた報告書のひとつだ。
キャッバローネファミリーと懇意な間柄だと言っているとあるファミリー。
これも何かの縁だと同盟を申し込んできたのは二週間ほど前の話だ。
だがディーノに確かめた所、名前は知っているが懇意な間柄では無いと言い切られた。
どうやらボンゴレに近づくためにキャッバローネの名を使ったらしい。
では、何を目的としてボンゴレに近づいてきたのか。
どうにも引っ掛かりを覚えた綱吉は、骸に潜入調査を依頼した。
その調査の報告書が、これだ。
「慈善事業ねぇ…」
表向きは学校の無い国への寄付や病院の設立事業に力を入れているらしいが、その目的で集めた金でどうも武器や兵器の購入もしているらしかった。
「戦争でも始める気ですかね?」
報告書を持ってきながら、骸が何か楽しそうにそう言ったのを覚えている。
「ボンゴレの名がバックにつけば、今以上に資金が集めやすくなると、そう考えたんでしょうね」
集めた金でまた武器を買い、最終的にはいったい何をするつもりなのか。
「今のうちに制裁を与えた方がいいのでは?」
骸はそう言って、ヒラヒラと手を振りながら次の仕事に向かって行った。
「制裁って言われてもなぁ…」
相手がどれだけの武器を溜め込んでいるのか。
それが分からなければ突っ込む事も出来ない。
もう少し詳しい情報を元に対策をたてたいが、骸にはまた別の仕事がありこれ以上このファミリーに潜入するのは不可能だ。
とは言え、綱吉の守護者の中に潜入を得意としているのは骸しかいない。
誰も彼も潜入より破壊を優先してしまいそうな連中ばかりだ。
「困った…」
頭を抱える。
自分が行ってもいいが、自分が動けば自動的に守護者たちも動いてしまうだろう。
潜入先になんだかんだと理由をつけて気がつけば全員が集合してしまっていた事は、実は一度や二度では無い。
いっそ炎真か白蘭あたりに応援の要請でもしようかとも考えたが、どちらのファミリーも自分の所と大差が無い事に気がついた。
「参った、打つ手がないぞ…」
骸の仕事が終わるのを待つか。
しかしそれでは、なかなか同盟に頷かないこちらの動きに気づかれ、逃がしてしまいかねない。
掴んだ尻尾はなるべく離さないでおきたい物だ。
と、そこでふと綱吉の脳裏にひとりの人物が思い浮かんだ。
「そうだ!リボーン!!」
そうだ。こちらには変装の達人でもある最強ヒットマン様がいるではないか。
妙案が浮かんだとばかりに綱吉は晴れた顔でケータイに手を伸ばした。
確か今日は何処にも出掛ける気は無いと言っていたから、屋敷内の何処かに居るはずだと、綱吉はリボーンのケータイにかけてみるのだが…
「あれ?」
どうした事か、いくらコールしてもリボーンが出ない。
番号を間違えたかと確認してみるが、間違えてはいない。
しばらく待ってみるのだが全く出る気配がないため、綱吉は仕方なく一度電話を切ると、リダイヤルでもう一度かけてやった。
それでもまだ出ない。
このやろう…と意地になって掛け直す事、三回目。
不意に廊下を競歩でこちらに向かってくる靴音が聞こえてきた。
「あれ?リボーン?」
間違いない。この靴音はリボーンだ。
だが、なぜケータイを鳴らしているにも関わらず、出もせずに直接やってきたのだろうか。
「まぁ、どっちにしろここに来てもらうつもりだったし…」
都合がいいと言えばそうなのだが…
何かが腑に落ちない。
(こんなの、リボーンらしくない…)
そう、らしくないのだ。
あの俺様何様なリボーンが、電話にも出ずにワザワザ出向いて用件を聞きに来るなんて事があるだろうか…
答えは当然、否だ。
(来る!)
ピタリと靴音がドアの前で止まった。
綱吉は身構えてジッとドアを見つめる。
緊張感が走った。
普段には有り得ないリボーンの行動に、冷たい汗が背筋を流れる。
何かリボーンを怒らせるようなヘマでもしただろうか…
だから電話にも出ずに直接ここに来たのだろうか…
暴れる心臓を押さえながらゴクリと唾を飲めば、ついにドアがゆっくりと開き…
「だから、俺は今日はどこにも出掛けねぇって言ったはずだぞ」
開口一番、最初に聞こえてきたのは、何故かマスクの下から聞こえてくるくぐもった声だった。
何事かと見てみれば、ケータイを片手にドアを開けて中に入ってくる…多分、リボーンの姿…
「え?あれ?」
綱吉の顔が緊張からキョトンとした間抜け面に変わる。
え?どちら様?
綱吉の顔にはそう書いてあった。
それも仕方がないだろう。何故なら、入ってきた人物はなぜかガッチリとガスマスクを装着していたのだから。
今日は何か訓練でもしてたか?
それとも自分の知らないうちに館内で何か異臭騒ぎでも起きたのか…。て言うか…
「リボーンなの?」
マスクで見えない顔に、ひとまず確認のために尋ねた。
ガッチリすぎて素顔が全く見えない。
これでリボーンでは無かったとしたら、ただの不法侵入者だ。
するとガスマスクの相手は「そうだぞ」といつもの口調で頷いた。
うん、聞き取り憎いが確かにその声はリボーンだ。
それに、首より下はいつも通りの黒服姿である。
そのおかげでますます異様な光景に見える訳なのだが…
怖いなぁと素直な感想を抱きながら、しかしその姿を確認したおかげでリボーンがケータイに出れなかった理由も知れた。
確かにあのマスクをつけたままでは通話は不可能だろう。
だが、ケータイの理由は知れたが疑問は残る。
「なぜガスマスク…」
そう、それが一番の疑問だ。
とりあえず綱吉は、ケータイをホルダーに戻してガスマスク男…いや、リボーンに理由を聞いてみた。
リボーンもケータイを内ポケットに仕舞いながら、しかしマスクは決して外さずに綱吉の側に近づいてくる。
怖い。めっちゃ怖い。
「えーと、今日は何かの訓練だっけ?」
「そうだな、そう言う事にしておくか」
と言う事は、訓練では絶対にない。
しかし他にマスクを被る理由が何も思い付かない。
「そんな姿じゃ話しにくいだろ、とにかく外せよ」
こちらを見てくるガスマスクの無機質な視線に耐えきれず訴える。
何でこんな何も無い室内でガスマスクなんかつける必要があるのだ。
何よりこれでは顔も見れず、ただひたすら話しにくいだけである。
特に理由も無いのなら外してくれと綱吉はマスクに手をかけようとするが…
「馬鹿野郎!触るんじゃねぇぞ!!」
リボーンがヒラリと綱吉の手を避けた。
「ちょっ、ふざけるなって!」
いいから外せとまた手を伸ばすが、リボーンは華麗に綱吉の手をかわして逃げてしまう。そして、
「一身上の都合でな…俺はしばらくの間、このマスクを外す訳にはいかねぇんだぞ」
何やらとても真剣な声でそう告げられた。
なんだ一身上の都合って…
「って、しばらくっていつまでだよ?」
そんな長い期間が必要なのかと聞いてみれば、1・2ヶ月と言う言葉が返ってきた。
そんな長いの?!
いや、有り得ないだろ?
「とにかく!まずは取ってくれよ。これじゃ話もできない」
「話だけならできるぞ」
「俺が嫌なの!」
大事な仕事の話をガスマスク越しにするのは抵抗がありすぎる。
交渉事は目を見て話せ。
それはリボーンがもっとも口を酸っぱくして言ってきた事ではないか。
「それに!それ被りっぱなしだと仕事も頼めないじゃないか」
潜入するにもそんなガスマスクつけた人間が向かったら一発で怪しまれる。
頼むからともう一度頼めば、
「仕事?悪いが他を当たってくれ」
すげなく返された。
(…マジか…)
動揺が走る。
おかしい…。こんなのはいつものリボーンじゃない。
いったいリボーンに何があったのか…
けれども、この仕事をこなせるのはもうリボーンしか居ないのだ。
ガスマスクを理由に断られる訳にはいかない。
「頼むよ!潜入調査なんだ。他に頼める奴はいない。リボーンしか居ないんだ!」
とにかく訴えてみたが、
「…ダメだ」
やはりマスク越しに拒否された。



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