彼が木の棒片手に突っ込んできた。

振りかざし、振り下ろされるのを、俺は頭上で一文字にした刀で受け止める。
まだ大した力ではない。とはいえこいつの攻撃になれていない人間なら腕の骨くらいは折れるだろうが。

ギチギチと嫌な音を立てながら、刀と黒棒が拮抗している。

この刀は昨日磨いだばかりで切れ味が良いはずなのだが、大人一人分くらいの長さがある上に女性の腕ほどの太さがある棒相手では、簡単に真二つとはいかないようだ。

「…貴様、また来たのか。毎日毎日ご苦労なこった」
「お前が素直に俺に殺されてくれたら、こんなとこ二度とこねぇよ、っと」

彼が口を開いた。
鴉のようにしわがれているわけでは無いが、低めの声はやはり黒という色に似つかわしい。
俺が対照的に明るい声を出しながら刀を傾ければ、彼はついと後ろに下がり俺と距離を取った。

少し息を整える。

こいつと戦い慣れているとはいえ、はじめからあの重い一撃を受けて平気でいられるというわけでもない。
まぁそれでも、出会った当初に比べれば随分マシになった方か。
あのときは刀を交差させる度にぜいぜいと荒呼吸になってたからなぁ…なんて、過去に飛んでいきそうな自分の意識を無理やり現在に連れ戻す。
今度は自分が相手へと切り込みに行く。
足の置き所に困る岩場は、けれど全身に力を込めて地を蹴れるので、素早さが強みの俺にとっては比較的戦いやすい場所だ。

一閃、横薙ぎに刀を振るう。
しその葉のような形をした青葉が風に煽られて小刻みに震え、右腰の小袋が遠心力に従って小さく回った。

彼の姿は見えない。否、自分の正面には見えない。
俺は首を回すことなく脇差しを抜き、振り返りざまにそれを振るった。

プッ、という皮が切れる微かな音と、直に感じる肉の弾力。
次いで刃先が堅いものに触れたことを刀の振動で悟り、俺は俺が相手の腹部に刃物を突き刺したことを今になってようやく自覚する。

多分堅い何かは臓器を守る骨だろう。
生温い液体の感触が手先から手首へ、そして突然全身へ。

噴き出すようにあふれ出たその紅を浴びる俺の首筋に、ひたりと当てられた黒い棒。

ゆっくり上げた顔の先で、口端から血を垂らす彼の目が、ゆっくりと細められた。



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