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解放

カビの臭い





血、鉄の臭いが鼻の中いっぱいに充満して、おう吐したのはかれこれ何日前だっただろうか


つい、さっきのことのようにも、もう何ヵ月も前だったかのようにも思える






それくらい、時間感覚が完全に失われている



日の光が一切届かない、時々、灯される蝋燭の火がゆらゆら揺らめき、一時の灯りが弛んだ瞳孔を締め付け、小さな蝋燭の火ですら、目が痛む




火が消え、自分の姿さえも写さない瞳





また、次の火が届けば眼がズキリと痛むのだろうなとぼんやり考えながらただひたすらに地面に座り込み続ける

こんなことが、幾度繰り返されたのだろうか






鼻は利かなくなり、吐こうにも、胃の中身はすっからかん






眠ろうにも、今が朝なのか夕なのか

眠ったか眠ってないのかすらも分からない





縛られた手足が動かすたびに、キリキリと縄が音をたてて食い込む縄に痛みが突き上げるように脳を刺激する







***
**
*






久しぶりに開いた扉





覗いた顔に視線を向けると、いつもの蝋燭を変えに来る男と違う





しかし、それに驚きを現せるほどの体力はありはしない

視界の端に写った男の顔





この部屋に来る者は、皆、好機の目でこちらを向く





この目、不愉快さを隠しもせず睨み付ければ、大抵は目を逸らす

あるいは、苛立ちをぶら下げて、歩み寄りしこたまに蹴り上げられ、拳をぶつけられる






それでも、嘗めるような視線には堪えられない






はだけた胸元を整えることができない


依れて広くなった袖口、裾から除く痩せて細った真っ白な四肢を隠すことすらも






せめてもの抵抗が欲情溢れる男達を視線だけででも、威嚇することだけだから






今日やって来た男にも、いつもと同じ


精一杯に、視線を送る






男は、にんまりと笑ってこちらへ寄ってきた

迷いなく、しっかりとした足取り





目の前に立ちはだかった姿に次に来るだろう痛みに体を強張らせ備える


ぶちっと音をたて、力の入らぬ腕が強かに床に叩きつけられた





手の甲にズキリと痛みが走って気付く


縛られた縄が切られたことに






不意に、視線を上げると男は目の前に腰を下ろして、私の下肢に触れ、腕同様に縄を小さな短刀で切った


「んー、長く縛られていたみたいだ

これでは、縄を切っても自由とはいかなさそうだね」





つっと縛られた傷口を撫でて、その男はひょいと私を肩に担いだ

突然のことに、頭がついていかない





「じっとしてな

ここから、出してやる」





そう言って、至近距離で笑いかけた男の顔が輝いて見えた

涙が溢れた





長い、孤独が破れた瞬間






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