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居場所

「・・・この島に、磁気は、ログはないよ」


「ほう・・」



「いやいや、ここで別れようよ

 無駄無駄、あんたらに掴まれて困るような情報は簡単に渡したりしないし!

 そもそも、あんたには海賊になった目的があるんでしょ?」


暇つぶしとしては面白いと思ったりもした

しかし、変に懐かれていつまでも旅を共する気はさらさらない




必死になって、思考する

ここで別れる大義名分がありはしないかと




「えらく必死じゃねぇか

この間、俺らごときに自分の正体はさらしたりしねぇと、暴けるもんなら暴いてみろと挑発したのは」


名前の動揺を見てローは名前の正体を見抜く糸口を見つけた気がした




しかし、



「あー、したね、そんな約束

よく覚えてたねぇ」




きょとんとした様子でこちらを見て返事を返された


「忘れてたわ」


演技かと思いつつも、浮かべられた苦い笑いに嘘は感じ取れない





「え?ってか、まだ探ってたの?

全然そんな素振りを見せないから、とうに諦めたのかと思ってたわ」



「・・・」


返す言葉がない

諦めたつもりはなかったが、予想していたよりもずっと名前には隙を見いだせなかった



ちょくちょく、船員に名前の部屋周辺や時には直に部屋の中を探らせたりもした




しかし、何一つ名前の正体に繋がりそうなものは、情報は手に入らなかった








悔しくて歯噛みする


「しつこい男は嫌われるよ〜」


「うるせぇぞ、名前屋

とにかく、俺らはここで停船する

出航は、お前も一緒だ」




ちっと舌打ちたくなるところを、必死にこらえる

島に、種のもの以外が入ってくるのは、気に入らない




でも、頑なな様子のローをさらに追い詰めれば、変に勘ぐられるだけ




ならば、島に入って撒いてしまえばいい

島から出る手段も悩まずに済みそうなのだから、と苛立ちで乱れそうになる心を鎮める






***
**
*



名前屋の姿を見失わないと誓って島に入ったはずが、ものの5分もしないうちに、あっさりと撒かれてしまった


島の中は、ありとあらゆるサイズ感の木々が蔓延っている



その木と木の間をまるで猿、いや、野性動物よりもさらに俊敏な動きで移動する名前屋




咄嗟に、その背に向かって

「シャンブル!」


と能力を発揮した





しかし、既に俺のサークルの外側を走っていたのだろうか?


名前屋の身体に何一つ変化は見られず、そのままに走り去ってしまった



・・いや、この俺が相手との間合いを見違えるはずはない

あのとき、名前屋は確かに俺の能力の射程距離にいたはずだ




あの女に能力が効かなかったのは、何かカラクリがあるはず・・・




***
**
*




さっさとケリをつけようと、上陸後、船の錨やら何やら停船の準備をする海賊達に背を向けて、全力疾走



真っ先にその事に気付いたローはやはり腕がたつのだろう

油断は、最小限




数人の部下を連れて、走って追ってくる





「残念!この島で私に追い付こうなんて、100年早いよ!!」


「待て!名前屋!」


「この島の木々には、毒虫やら毒蛇がうじゃうじゃいるから、気を付けな!」


そんなことで殺られたりはしないだろうが、ローはともかく、引き連れた部下の足を鈍らせる位の脅しにはなったらしい



「シャンブル!」


と、声が聞こえる





***
**
*








冷たい岩肌

湿度の高いこの岩穴に、懐かしさを覚える

薄暗がりの道は、心地よささえ感じる








狭く滑りやすい岩壁の間を慎重に歩き進めれば、一点の光が見えて、もう一息だと思える

この感覚は、長く故郷を離れても変わらない






洞穴最後の岩を横目に通りすぎれば、私たち一族の神木が目に入る







太さ、高さともに世界でも最大級であろう



そして、この数年で案の定、さらに少しだけ大きく成長している

根本の祠が、以前よりも神木の根に捉えられて、傾いでいるから






「名前!」

「名前が帰ってきた!」


一際背の低い二人組が私を見て大声を上げた

久しく見た小さな二人は、当然のように、以前と何一つ変わらない姿






普通の人間であれば、成長期を迎え、日に日に大きくなるであろう年頃

いや、正確に言えば、その年頃のような面立ちをしているが、年齢は私と同様、もはや何百年生きているのかわからない






「あ!ムロジー!名前が帰ってきてるよ!!」

一人が、大声で呼びかけると祠の中から白髪の杖をつきよたよたとおぼつかない足取りで男が出てくる







「おー、名前さん

ご無沙汰しております

今回の旅も順調でしたか」



「んー、まぁまぁかな」

そう言って、いかにも高齢そうな自分よりもずっと若い男の禿げ上がった頭を見下ろす








「ねぇねぇ!!新しい仲間は増えた!?」

「ばか!名前はこれ以上、仲間を増やす気はないって、前に言ってたじゃない!」

強めの口調で軽く頭をはたき、パンと乾いた子気味の良い音を立てれば、ぺろりと舌を突き出す






二人のやり取りを見ていると、あー、帰ってきたんだなと徐々に実感が沸きあがり頬が緩んだ





小さな島の中心部

私の故郷




誰一人、よそ者は居ない

皆、一様に悪魔



私は、外れものではない

たったそれだけのことに、この上ない安堵と幸福を感じる

私はこの自分のテリトリーを守るため、全てをかける



***
**
*





海岸線に戻る


私たちの住処以外に人の気配などなかったこの島に、1隻の海賊船




見慣れぬ光景が、やけに面白い






勢いよく船の扉を開け放つ


「やっほー

いやいや、本当に待っててくれるなんてね

物好きなことで」




からからと乾いた笑いが船室に響く




「3日間も何処行ってやがった」

ひやりと温度の低い空気が流れるように、不機嫌に染まったローの声音





「ま、撒かれて悔しいのは分かるけど、当たらないでくれる?

それに、その間のこと、私が居たところ、してたこと、話したらあんたたちはこの島から帰してあげられないから」



本気とも冗談ともつかない名前の笑顔に、さらに深く突っ込んで聞き出す勇気は、その場に居た誰一人として持ち合わせていなかった






故郷の島を発ち、次の島に着いたとき、ロー達ハートの海賊団は、完全に名前に撒かれることとなった




第3章 悪魔の島 完 / Next 第4章 旅立ち


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