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桃太郎の苦悩

チリンチリン


滑らかな氷の上は、かなり自転車のスピードも出やすいらしい





こんなところで、海にでも投げ出されれば二人とも一貫の終わりだ


そんなことを考えていれば、波がそれまでより、高くうねりを上げ始めた








「うわー、嫌な予感・・」

突然、ザバーっと海面から巨大な海王類が現れた

「・・・でっか」








氷の上を海水が流れ、海面に足が付かないようにひょいと手足をたたんで、自転車の荷台に縮こまる



「ねぇ、私戦えないよ?」

「しゃーねぇなー」






自分も辛いだろう



海面より低くなってしまった氷の上に足をつき、アオキジは能力を発動させた


とたんに、バリバリと氷が張り海面から出ていた海王類の頭部もあっという間に凍りついたのだ








こいつは、気に入らない



でも、この能力を見るたびに感服する

たとえ、これが悪魔の実の能力だとしても造り出された氷の造形物は太陽の光を反射して壮大かつ華美








惚れ惚れするような美しさ







***
**
*







ようやっと着いた先は、海軍本部基地

しかも、真夜中






こんな時間に出港する船なんて1船だっていやしない

今夜はこの堅苦しい基地で一晩を過ごさなければならない





もう泣きそう

心がばっきりと折れる音がした気さえする







不幸のドン底に突き落とされたような気持ちで、基地内をアオキジと並び歩く

ニマニマと笑うアオキジ

こいつ、わざとか・・と苛立ちが募って仕方ない






「明日の朝イチでこんなところおさらばじゃ!」

舌を突き出し、アオキジに向かって威嚇する






それでも、尚ヘラヘラと笑うアオキジ

チッと一つ舌打ち








こんな、だらけきった奴でも流石は大将



すれ違う海軍達が皆一様に敬礼をする

あー・・堅苦しい






そして、連れられて歩く私は好機の目に晒されている

こんな、軍服も着ていない女が大将と並んでいれば周囲の眼を引くのも至極当然のこと





せめてもの、抵抗

両者の距離は50センチ以上






のらりくらりと適当に相槌を打つアオキジ








向かいから同じく大将キザルがアオキジと違って威厳がある

オーラが違うわー









「名前、お前の考えていることが手に取るように分かるよ

俺、泣けてきたわ」






「やー、やー、こんなところで会うなんて珍しいねぇ、お二人さぁん」


威厳はあっても癖が無いわけではない







桃太郎もこんなキジにサル、仲間に欲しくないだろ

吉備団子がもったいない







「言っとくけど、海軍に入るために気たわけじゃないから

明日には、私ここを出るから!」





「あらあら、連れないねぇ

お前さんだってそう思うだろう?アオキジぃ」




「そーだなー、でもまー、名前って実質、海軍に入ってるのと変わらねぇしな」







誰が!?

咄嗟のことで、反駁は喉の奥へと消えていった






「いやいや、やっぱり公式的に名前が入ってるのと入ってないのとでは雲泥の差よ?」





「なんで、私がたかが人間の組織に?」





今度は逃さなかった

しょーもない、人間同士の派閥争い

海軍に海賊、どちらが正義かなんて私の知る由のないところ






・・まして、巻き込まれるなんて真っ平だ






「・・まぁ、そう頑なになるなよ

ところで、今回は・・?」








自分よりも高い位置にある2つの頭を一瞥し、冷ややかな口調で答えて見せる






「ふんっ、結局お前らの目的なんてそんなところ

今回、ここに寄ったのは単なる不幸の積み重ねによる偶然

早々毎回、悪魔の実が手に入ると思うなよ」





お灸が効いたのか

二人は黙りこくってしまう






その機に、私は甲板へ

潮風が身体にまとわりついて不愉快であるには違いないが、それでも多くの人間の好奇の中、一晩を過ごすよりもずっといい






欄干に背をもたせかけ、見上げた夜空は、どんよりとずず黒い雲が覆っている





どうか、今夜だけは雨よ降らないで

柄にもなく信じてもいない神様とやらに祈ってみる





ふと、足元を見れば、新品の酒瓶が一本

栓を片手の親指で弾き飛ばす

ぐっぐっと喉をならし呑んでみれば、特段の癖もないが飲みやすく、喉ごしのよい酒








今日の収穫は、これかな・・






余計な時間を食ったが、1週間もすれば次の島へと辿り着けるだろう





時間なんて、いくらかかったって構わない

時間の制限なんて、私にはありはしない





「私は、悪魔・・だからね・・・」


そう言って、笑った名前の瞳が怪しく光ったことは、誰も知らない、気付かない






第2章 海軍大将 完 / Next 第3章 悪魔の島




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