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湧き上がる

 ・・・これもアリス・・?






 棗くんが扉を開いた


 そのあと、突然に広がる見たこともない景色は小さな住宅街の一角のようだ

 



 「・・棗くん、翼先輩・・・柚香さん・・」



 さっきまで、一緒にいたみんなの姿はここにはない





 辺りを見回す

 先ほどいた場所とは打って変わって、小さな住宅街の中








 ・・・あれは、私・・?




 道の端で、一人の少女が言葉にもならないような声で泣き叫び、しゃがみ込んでいる




 涙で崩れた横顔が四つか五つのころの自分

 それでいて、どこかに感じる違和感





 少女のすぐそばの電柱に、1台の白い軽自動車がぶつかって前方がひしゃげてしまっている



 ・・・事故だろうか





 見たところ、大きな怪我はなさそうに見える




 少し迷ったが、ゆっくりと傍に近寄ってみる



 想像していなかっただけに、息をのむ



 電柱の陰になっていて見えなかったが、車に巻き込まれたらしい

 血にまみれた、一人の子供の姿




 手足は、あらぬ方向に折れ曲がってしまっている



 胸がぎゅうっと潰れるような感覚の後、早鐘のように打つ






 おそらく、既に息はないだろう



 うっすらとあけられた瞳に光は宿っていない
 



 青白い顔をした男が一人

 額から血を流しているところから見て、車の運転手だろう



 がたがたと震える手で、携帯電話のボタンを押している




 「も、もしもし!い、今、子供が飛び出してきて・・

  あ、う、わぁああ



  は、速く、きゅ、救急車を!わ、分からない!

  動かないんだ、と、とにかく早く!」





 動転しながらも救急車を呼び出している様子





 その間も、へたりこむように座ったまま、涙を流す少女

 既に、声はない





 遠くから徐々にサイレンの音が近づいてくる



 すると、それまで力なく俯いていた少女がおもむろに立ち上がり、子供のそばにゆっくりと歩み寄る





 血にまみれた、小さな手を同じく小さな白い両手で覆う








 ・・・アリス・・



 すでに息がないように思われた子供の胸が規則正しく、深く上下し始めた



ゆっくり目を開き、まだ血が滴っている上体を起こして子供は少女に向かって手を伸ばし、ニカッと目を細くして口角をあげて笑って見せた



 「・・あれ、泣いてるの?どうしたの?

  ・・・伽耶ちゃん」




 そこで、突如、辺りが火にまかれる

 あまりに突然のことで、咄嗟に腕で顔を覆う




 しかし、熱さは感じない






***
**
*






 一瞬の出来事だった



 棗が扉を開けた途端、目の前に水晶玉が浮かんでいた



 名前は、その水晶玉に気づく間もなく水晶玉の中へと引きずり込まれていった







 手を伸ばした俺の手は宙を切った





 慌てて、その水晶玉をのぞき込むと手足を折りたたんで眠るような恰好をした名前


 水晶玉を叩き割って、名前が無事だという保証はない・・




 手も足も出せずにいると、さらに名前の姿が揺れるようにして水晶玉から消え始めた

 このままではと、俺は地面に向かって投げつけようとした時、柚香さんが俺の腕をつかんだ




 「待って!見て!」


 焦って何が何だか分からない

 そんな状態で、もう一度水晶玉をのぞき込むと映り込んでいるのは、小さな住宅街とその中に呆然と立ち尽くす名前の姿




 思わず、大声をあげて名前に呼びかけるが反応はない



 次第に流れていく、水晶玉の中の時間

 名前の目の前にいる少女は伽耶




 その聞き覚えのある名前に胸が痛くなる



 「くそっ」



 そこで、棗が水晶玉に火のアリスを使った

 ピシリと入ったひび




 ぐらりと映像が揺れて流れていく過去と思しき景色




 中には以前に名前が語ってくれた、アパートでのこと、警察署でのこと、母親と笑いあって抱き合う名前の姿



 目まぐるしく、映像が乱れ、ほんの一瞬だけそれまでとは違う雰囲気の映像が映し出されたと思った後、最後に水晶玉は粉々に砕け散った



 それとほぼ同時に、水晶玉からはじき出されるように名前の姿が・・


 地面にたたきつけられる前に受け止めることができてよかった





 幸い、名前にケガは見られない





 「・・・、・・・名前」



 
 ゆっくりと起き上った名前はまだ、頭がぼーっとしているらしく頭を軽く押さえている



 「頭、痛むのか」


 ぶっきらぼうに、それでも心配をにじませた声で棗が尋ねる




 「・・平気」



 ゆっくりと頭を動かして、名前は柚香さんの手にあるガラスの破片を見つめる



 「・・それは・・・」





 「名前ちゃん、見覚えがあるの?」






 「・・見覚え、はある・・」


 「・・・いつ作ったか覚えてる?」



 ふるふると首を振って





 「私が作ったものじゃない、と思う」





 「はっきりしろよ」

 棗の言葉を聞いてキッと鋭く棗を見返す





 「でも、それはアリス

  アリスで作った道具じゃない

  アリスで作ったアリス、それだけは分かります」







 柚香さんをまっすぐに見据えて






 
 「これも、アリスなら死んだ人間の体に入れて新たなアリスを作れるんですかね」




 「・・・それなら、なんで、そうしなかったのかしら?

  戦争で活かせる能力じゃなかった?」



 「情報収集はそういった場では基本じゃないっすか・・

  考えられるとしたら、アリスと死体にも相性があるってことですかね」





 顎に手を当てるようなしぐさをしていた名前がふいに問いかける





 「そもそも、私のアリスで作ったものが欲しいだけなら私からアリスストーンを取ればいいんじゃない」





 「そんなこと、てめぇの性格知ってるやつはしねぇよ

  頼まれて、ほいほいアリスストーンを渡すタマじゃねぇだろ」




 納得したように柚香さんが、棗の言葉に首を横に振る




 「それこそ誰かのアリスを使って私を探せばいい

  私の盗みのアリスなら名前ちゃんからでも、簡単にアリスを盗れる」





  
 「・・・そうしなかったのは?」


 「そもそも、私のアリスを誰が死体に入れてるの?」 


 「アリスを人に入れられるのは、アリス

  名前のアリスと相性の良いアリス」





 「・・・ねぇ

  さっきの・・


  ・・夢が本当なら、小さい母さんが生き返らせたあの子供・・・」



 

 揺れる瞳には光る滴が見て取れた




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