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リバウンド

 

 「・・今井さん、勝手に心の中を読まないで」



 ぼろぼろと目の前でみっともなく涙を流す佐倉さん

 1日が経って、翼先輩が余計な気を回し、佐倉さんと今井さんを連れてきて事情を説明した




 佐倉さんは、無効化のアリスを発動させて2人の記憶をよみがえらせた




 そこで、気づく

 自分の失敗に




 あの時、渡したネックレスにぶら下がっていた柚香さんからもらった石はやっぱり娘さんの者で、その娘が佐倉さんだったのだ




 心の中にかかっていた靄が晴れたようにスッキリする

 性格は異なれど、時々見せる真剣な表情は柚香さんに瓜二つ




 柚香さんは、学園を毛嫌いしていたから、その娘が学園にいることにピンと来なかったのだ


 棗君たちもあの石を使って記憶が戻ったのか




 「・・なんで、なんでうちらに黙って・・・」


 皆と離れてからの出来事について一向に口を開こうとしない私の心を今井さんの作ったファンシーな見た目の機会が読み上げている



 こんな公開処刑は、人権侵害もいいところ




 「・・・蜜柑」



 今井さんが窘めるように佐倉さんの言葉を遮るが




 「嫌や、蛍、止めんといて

  名前の作った道具が、アリスが死んだ人を生き返らせてる」





 眼に溢れている涙があまりにキラキラと綺麗で

 佐倉さんは、本気で人のために泣くことのできる優しい人なのだと痛感する





 「名前は無理やり生き返らされたお母さんを取り戻すために学園に来たんやろ

  それやのに、そんな名前の力を使って、人を生き返らせて戦争するやなんて!

  それって、人を殺してるってことやろ!あんまりや!!」





 人殺し、今まで分かっていながら言葉にしなかった

 言葉にしただけでその重圧が一度に胸に、心にのしかかって来る









 「・・お前は自分のアリスが何に使われているのか分かった後も、学園に協力し続けていたんだな」



 眉間に深いしわを刻み棗君が詰め寄って来る




 「・・そうよ」

 一切言い訳なんてしない

 


 皆から目を逸らさずに答える






 「人殺しだって罵ってくれたっていい」



 皆に知られたくなんかなかった



 「こんな形で再開する羽目になったけど、皆のところに戻る気はない」



 会いたかった、ずっと、ずっとずっと会いたくて仕方なかった



 「私は、これからも任務を続ける、今更、引き下がる気なんてないから」




 もう、皆に顔を合わせるのは辛いだけ






 ガンっ

 鈍い音がして顔を上げると翼先輩がじっとこちらを見つめている




 今まで見たこともないほど、怒りをにじませた表情で握りしめた拳を机に振り下ろしたのだ




 「そうやって、また一人でどっか行っちまうのかよ

  俺たちの力を借りたくないってんなら、何で笑ってない?


  何で、幸せそうにしてないんだよ」



 振り絞るように出された言葉は今にも消えそうで、胸が締め付けられる




 「・・知らずにやってたんならともかく、私は人を殺すことに加担していると気づいた後も任務を続けた




  直接、手を出してなくても私は人殺し

  今更、幸せに笑う資格なんかありませんよ」




 「違うだろ、お前

  怖かったんだろ、人が死ぬのが」





 それまで、だんまりだった殿先輩が突如、口を開いた




 「任務を止めると、生きた人間どうしの戦争になる

  死ぬ人間が単純に考えたって、2倍だ

  そう思ったんだろ」





 「・・・さい、うるさい!」

 それまで、泣いていた佐倉さんの泣き声もピタリとやんだ





 身体の節々に痛みがはしる

 息苦しい





 その場から逃げるように、部屋を出る

 後ろから延びる手にアリスを使う




 「触らないで」




 更なる痛みが身体中をかけめぐる

 力強く放ったはずのアリス



 それでも、延びたてがしっかりと私の腕を掴んでいる





 「離して!」

 離れない手



 「離して!離して!離せ!」


 ズキッと痛む胸、呼吸が苦しくなって咳き込む






 「名前、もうやめろ」

 呼吸を整えて殿先輩を睨み付ける




 「離して」




 より一層強いアリスを発動させたつもりが、全身からアリスを感じない

 そして、予想していた痛みも衝撃もなかった




 代わりに温かい腕が首に回される

 「名前、もうやめて」




 私の求めていた温かい手

 佐倉さんの腕は母さんを思い起こさせる




 突如、耐えきれないほどの眠気に襲われた






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[mokuji]




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