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鐘の音


 先輩と別れて、一人中等部から初等部への道を行く



 そこに、慌てた様子で走り回っている正田さん

 いつもと違った雰囲気に首をかしげる




 「あ、名前ちゃん」

 「・・正田さん?」

 
 「あ、えっと、僕は飛田です」

 「・・?飛田君・・?」





 そこから、さすがは委員長です、と言わんばかりの簡潔かつ分かりやすい説明で大体の事態を把握した



 まとめると、一部の生徒たちのいたずらに巻き込まれて佐倉さん、今井さん、日向君、乃木君、正田さん、心読み君、飛田君、そして何の因果かベアを含む8人の心が入れ替わってしまったらしい




 「・・はは、他人事だと笑えるね」

 「名前ちゃーん」




 泣きそうな表情をする飛田君

 見た目は美人な正田さんで、いつもより清楚かつ可憐に見える




 「それで、今は教室を飛び出したベアを追ってるんだ」

 「・・話の流れでは、飛田君が棗君に入れ替わったように聞こえたけど・・?」




 「自分の体に強くぶつかると、心が飛び出して元の体に戻れるみたい」

 「じゃあ、今、ベアは?」





 「た、たぶん棗君になってるんじゃないかな・・」

 「それって、あんまり変わらなそう」



 実際その通りだと思うのに、飛田君は心底驚き、固まってしまっている





 「・・悪いけど、今回はパス

  ちょっと急ぎの用事があるの」





 「そ、そっか

  名前ちゃん、最近忙しそうだね

  顔色もあまり良くないみたいだし、無理しないでね」


 


 飛田君って本当に癒し系

 安心させるように、微笑みかけてその場を後にする

 もう会えなくなるだろうことを言えずに・・





***
**
*






 「・・ベア・・?」

 「・・」




 俺にそう呼びかける名前

 誰から、事情を聴いたのか






 「・・皆のところ、戻ったら?」





 ベアと間違えているこいつに苛立って、とりあえず無視を決め込む

 何を思ったのか、ベアと思っている俺の隣に腰掛ける名前






 「・・私、いろんなことに後悔しないようにやってきたつもりだったけど、今になって振り返ってみると、間違いと失敗だらけだったなぁ

  自分は、もっと器用な人間だと思ってたんだけど」







 お前がそんなに器用じゃねぇことは知ってる

 ・・きっと、ルカや影の野郎も・・・
 
 だから、いつも目が離せねぇんだ



 ゆっくりと席を立とうとする後ろ姿が、花姫殿で俺と葵の前に立ちペルソナと共に闇の中へと消え去って行こうとした時の姿とかぶった





 思わず、手を掴む

 少し、冷たい小さな手を






 前に聞いたとき、返事は返ってこなかった

 今回も返事は期待していない

 ただ、こいつがどこかに行ってしまうような気がしたから俺に注意を向けたかった





 他のどんな質問もこいつの心に届く気がしなかった





 「バレンタインの時、何で泣いた」

 俺の問いかけに驚いた様子もなく、淡々と答える

 「・・好きな人の名前を言え・・・

  頭に浮かんだのが、母さんだった」




 その返事に、名前が入院中に話していた母親のことを思い出す

  


 「・・吹っ切れたつもりだった

  前に、あんなこともあったし、全部忘れようって

  母さんとのことは胸にしまったつもりだったのに、あの時アリスを使われて出てきそうになった



  ・・・未練がましいね」





 そう呟いた

 そもそも、どうしてそんなに忘れることのできない程大好きな人を殺すという結論に至ったのか



 俺には想像もつかないほどの葛藤があったのだろう

 そこに、急に自分の無力さと、名前の底知れない孤独を思い知った




 そんな俺の気持ちを見透かしたように





 「私、そんなに孤独じゃなかったよ

  この学園に来て、皆に会えてよかった

  心からそう思える」





 するりと俺の手から抜け出す





 今、この手を離したらもう、終わりだと気ばかりが急く

 しかし、伸ばした手が掴んだのは名前の首からぶら下がってあったであろうチェーン




 少し引っ張ると簡単に切れた

 少し、さびれて細くなったチェーンはずいぶん長いことつけたものだったのだろう




 いくつかの、石が、おそらくアリスストーンがぶら下がっている

 ネックレスから顔をあげると、目を細めて笑う名前の顔が目に入る




 「・・もらって?」

 そう言って駆け出した名前の後を俺は追えなかった






 その日の夜中の0時、学園中に学校のチャイムが鳴り響いた






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