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安積柚香 

 「柚香にだけ、手紙が来ないんだもん

  お母さんとお父さん、病気なのかもしれない

  だから、柚香が会いに行くの」



 少女は、目に涙いっぱい溜めて訴える

 やがて、脱走時に受けた電気のアリスのダメージで気を失う






 安積柚香は、俺の受け持ちのクラスの生徒の一人

 

 

 テレポートのアリスが認められて学園に幼くしてやって来た

 親はいわゆる子供を売りとばした、ネグレクトのタイプ





 金に眼がくらみ、学園に娘を売りとばした

 幼い少女にその、親から見放されたということは到底、理解の及ばないところ





 そんな、子供たちのいる学園に来て担任を任せられた


 この学園での、子供たちの相手は自分が思っていたよりも重たかった


 でも真正面から向かい会って手を伸ばしてやる

 何よりも、やりがいのある仕事だと思った

 子供たちの光を濁ることの無いように大切に育ててやりたい





 パタパタと軽い足音

 聞こえる方に眼を向けると、初等部の制服を着た女子生徒





 「行平先生・・その子、怪我したの?」


 首をかしげるようなしぐさが、小動物の様だ


 
 「あぁ、ちょっとな

  悪いが、保険の先生を呼んできてくれないか」



 赴任したてで、学園内の地理がまだ頭に入っていない

 頭を打ったかもしれない子供を抱えて保健室に行くのも抵抗がある


 仕方がなく、通りがかった少女に頼んだ

 しかし、俺の声に何の反応も見せることなく少女は安積柚香の傍へと近づいてくる




 「・・頭を打ったかもしれないから、触るな」


 伸びてきた、少女の右手を咄嗟に掴む

 俺の声の大きさに驚いたのか、目を丸くしてこちらに振り返る



 すぐに、安積の方に向き直り、つかんだ右手と逆の左手を安積柚香の顔にかざす

 その手にはハンカチが握られていた



 「・・・を移すアリス」


 スッとハンカチで拭われた安積の顔から傷口がきれいに消えていた



 「お前、治癒のアリスか・・」

 小さく首を振る

 「違うよ、言霊のアリス

  喋ったことが本当になるアリスみたいな」


 にかっと笑う姿が子供らしい

 今、目の前で起こったウソのような出来事をこの子がやったとは思えない程に、あどけない表情を浮かべている




 「・・アリスって医者いらずかよ」

 その言葉に、首をかしげている




 「・・お前、名前は?」

 「伽耶!大畑伽耶!

  初等部のB組!」


 快活そうな笑顔を見せている





 聞けば、伽耶は安積とは面識はなかったらしい



 ただ、近くを歩いていると大きな何かがはじけるような音と俺の怒鳴るような声が聞こえてきたらしい


 それで、様子を見に近くまでやってきてくれたのだ



 俺の大きな声もたまには役に立つんだ




 
 「こいつは安積柚香って言って、A組の生徒なんだ

  いつも、一人でいるから気が付いたら構ってやるようにしてくれないか」



 「うん、いいよ!」





***
**
*





 2つ年上の大畑伽耶先輩


 その特異なアリスは学園中に彼女の名前を轟かせている



 彼女のアリスなら、どんなことでも叶えられる

 学園中の皆が噂している




 大畑先輩は、自分のアリスのことをあまり、人に話さない





 それでも、長く一緒にいると先輩のアリスの弱点が分かる

 人にはアリスを発動することができない



 そのことを知っているのは、私と馨先輩、それから馨先輩の同級生の志貴さん、鳴海くらい

 後は、一部の先生たち





 「弱点を知られてない方が、強い女って感じがしてかっこいいでしょ」
 



 そう言って笑う先輩がかっこよかった





 馨先輩と一緒になって、よく私をからかっていた伽耶先輩

 本当に困ったときはいつまでも、私の話を根気強く聞いてくれていた


 

 私の盗みのアリスが発覚後も変わらず付き合い続けてくれてた





 盗みのアリスで学園の任務を行うようになって初めて知った

 先輩も、初等部のころから学園の任務に参加していたこと





 正直、任務は辛かった

 それでも、支えてくれる人がいたから耐えられた




 馨先輩の卒業の時は寂しかった

 馨先輩も寂しそうに笑っていた




 「卒業したら、外で会いましょう」

 そう約束して3人でアリスを交換し合い、笑った




 2年後の伽耶先輩の卒業は、笑って見送ることができなかった

 「ゆーか!」



 そう言って、むにっとつままれた頬

 涙があふれる



 くすりと笑って、

 「ま、今のうちに泣いちゃえ」


 そう言って、からかうように私の頭を撫でまわす


 この先輩は、どこまで男前なんだろう

 顔が上げられない





 「・・先輩は、泣いてくれないんですね・・・」

 「んー?私は泣かないよー

  どうせ、柚香が卒業したらまた会えるし

  先に馨先輩に会って来るね」




 



 
 


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