蜜柑のアリス
佐倉さんが目を覚ますのをまるで、ドアの外で待っていたかのようなタイミングでペルソナが部屋へと入って来る
佐倉さんの目覚めに皆が喜んだのも束の間
部屋には、妙な緊張感だけが漂う
そんな、様子を気に留める様子もなくペルソナは佐倉さんの枕もとへと近づく
いったい、何を言い出すのだろう
今の事故が佐倉さんの自演だと・・?
私も、佐倉さんも下手をすればただの怪我では済まなかったかもしれない
命を張って選んだのが、学園中の注目を浴びることなんて、そんな奴が本当にいるのならぜひ一度、顔を拝んでみたいものだと自嘲気味の笑みが漏れる
こんなことを言い出す理由は、佐倉さんを校長の監視下に置くためだろう
しかし、私には一向に佐倉さんをそこまでして、取り込みたい校長の目論見に皆目見当がつかない
ペルソナの言い分には、何もかもに根拠がなさすぎる
佐倉さんの強気な発言と周囲の人たちの絶対に引かないという姿勢が押して、ペルソナも今回は、一度引くこととしたらしい
それでも、またいつ食い付いてくるかはわからないなと油断をしないことを独り心に決める
***
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*
その、いつかは予想を上回って早くやってきた
最後の競技、騎馬戦
私は、応援席に回って皆の活躍を遠目に見つめていた
紅組、白組の勝利もかかっているため勝負は白熱
もはや、どっちが勝ってもおかしくない状況に私も珍しく興奮しながら、観戦していた
試合も終盤に差し掛かろうかとそんな時、紅組チームの様子がおかしいことに外野が気づき始める
佐倉さん、翼先輩の騎馬を襲っているのが同じく、紅組の騎馬
それも1組や2組ではない
周囲にいた同チームたちの騎馬が一斉に押し寄せているように見える
その様子を俯瞰するような位置で、月の騎馬が
直接、手を出しているわけではないが月がそのことに1枚噛んでいるのは、火を見るより明らか
こんな離れた場所から自分に何ができるのか
必死になって脳みそをフル回転させるが良い案が思いつかない
一人一人の胸に張られた体育祭中のアリスを使う回数を制限させるカウントシール
私の胸に張られたそれは、体育祭期間中に使えるアリスの3回という制限を既に使い切ったことを示している
その時、パッと何かが眩しく光るのが見えた
何が起こったのか分からない、そのことにもどかしく感じる
ただ、佐倉さんを襲っていた紅組の騎馬たちが離れていくのが分かった
そのまま、その同士討ちの件についてはうやむやになったまま、体育祭は閉会式を迎えた
***
**
*
探していた人の後ろ姿を見つける
真黒なニット帽、自分の背よりも高い位置にある肩
駆け寄っていくと、勘が良い
振り返って、笑った顔
いつもそうだ、先輩の笑顔は私の心を温かくする
普段はふざけてばかりだけど、いざという時はこの笑顔で、いつも私を助けてくれた
その笑顔は、失くさないでいてほしいな・・
「名前ちゃーん?どうした?
俺に用事があったんじゃないのか?
あ、俺に見とれてた?」
おどけて話す翼先輩
聞きたかったのは、体育祭のこと
「先輩、騎馬戦の時、佐倉さんは何をしたんですか・・?」
本当は、頭の中では分かっている
例のごとく、アリスで覗き見た
でも信じられなくて、・・信じたくなくて
一番近くで見ていた先輩なら、何か他の見解をくれるかもしれない
先輩の顔も強張るのが分かった
「・・あの時、カウントシールの光が1つ消えて、皆が正気に戻ったんだ
それから、蜜柑の手には赤紫色のアリスストーンがあった
あれは、まるで皆を操っていたアリスストーンを蜜柑がアリスを使って盗み出したみたいな感じだった」
この言葉が決定的
ただ、一つだけ気になる
・・盗み出す、どうしてそんな具体的な表現が出てきたのだろう
「・・翼先輩、もしかして前にもこんなことがあったんですか?」
「・・そっか、前は名前、いなかったもんな・・
前は、花姫殿でペルソナのアリスにやられた時だよ
ペルソナのシミが一向に消えなくて、名前のアリスストーンの使い道も分からなくて代表達もお手上げだったんだ
でも、あの時急にみるみる蜜柑のシミが消えて行って、蜜柑の手にはペルソナのアリスストーンが握られていた」
・・それで
緊迫した騎馬戦の中で、佐倉さんの手にあるのがアリスストーンだ、って判断できたのか
あの時のシミが消えたそれも、佐倉さんの力で・・
校長たちが俄然佐倉さんを付け狙う理由
すべてが頭の中で合致した
「あ、おい!名前!!どこ行くんだよ」
何も言わずに歩き始めた私の手を先輩が後ろから引く
「蜜柑のその力、何か心当たりがあるのか?」
ゆっくりと首を振る
「ううん、ただあの時、皆の動きが一瞬止まったように見えたから気になっただけ」
「・・そっか・・・
・・なんか分かっても、一人で抱え込んだりするなよ・・」
ギュッと私の手を握る手の力が強くなる
その姿に、絞り出すような声に胸が熱くなる
泣きそうになった自分を知られたくなくて、ごまかすように笑顔を向ける
「・・ふふ、翼先輩、過保護過ぎる」
何も話せなくてごめんなさい
いつもウソで塗り固められてコントロールされた自分の表情と言葉
本当は、今すぐにでも翼先輩に泣きついてしまいたい
私なんかにかけてくれる優しい言葉、優しい笑顔にいつも救われそうになる
なのに、素直にその言葉に甘えられない
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[mokuji]
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