月
真っ白な肌、赤い唇の口角が上げられてグッと弧を描き、決して笑ってない目の目じりをわざとらしく下げている
美人だとは思う
それでも、子供らしくないその表情に好感を持つことができない
それが第1印象
そんな彼女が自己紹介している間、鳴海先生は笑顔ながらも瞳を忙しく動かしている
何か隠していることは一目瞭然で、後で探りを入れるべきか思案していると、自己紹介を終えた転校生が日向君の方へと歩を進めている
その姿を目で追っていると、1瞬ではあったけれど確実にこちらを見据えて怪しく笑った
・・見張りか・・・
そんなものを寄越さなくたって、花姫殿であった一件
自分が逆らう気がないことは、その後の任務で十分証明している気でいたのに・・
そのまま視線を逸らすと、何やらもめるような声
日向君の隣に座ろうとした転校生を日向君が諌めた
今度ばかりは、日向君の肩を持つわけにはいかないなと小声でアリスを発動する
「思ったことを浮き上がらせる机のアリス"」
それまで、転校生が隣に座ることを許そうとしなかった日向君が突如、おとなしく転校生が隣に座ることを許可したことに、クラスメートたちは目を丸くしている
机に浮かばせた文字は逆らわないで"
そして、それが誰の言葉かはすぐに気づいたのだろう
私の言葉にあっさり従った日向君に、多少は驚いたものの勘の鋭い日向君のこと
きっと彼も、転校生に何かあることに気付いたのだろう
***
**
*
放課後、今日1日、何のアプローチもなかったことが気にかかる
1日中こちらの様子をチラチラと覗っていた転校生、鳴海先生のあの様子、そして何よりこのタイミング
ペルソナが校長が絡んでいるのは明白で、今日中にペルソナから任務などで呼び出されることを予想していた
ま、無事に済んだんだ
何も起こらないのなら、それでいい
そう考えようとしても、心に何か引っかかりのようなものを感じ、その引っ掛かりが何かの前兆のように感じてならない
・・なぜ、私だけでなく佐倉さんをも見張っていたのだろう
そう、転校生は私だけでなく、いや寧ろ、佐倉さんの見張りのようにすら感じたのだ
佐倉さんのアリスはまだ未熟で安定しておらず、任務に出れるような状態ではない
どんなに珍しいアリスだとしても、使い手が未熟では任務に呼ばれるはずがない
そんな佐倉さんに、校長やペルソナが注目するなんてことがあるのだろうか・・
私への脅迫?
しかし、佐倉さんとは、仲が良いわけでも、悪いわけでもない
確かに、とりわけ親しい友人のいる私ではないが、佐倉さんは私への人質としては役不足としか思えない
私のことを調べつくしているペルソナ
ペルソナだってそう考えるはず・・
なら、佐倉さん自身に何か秘密があるのだろうか・・
そこまで、考えたとき後ろから弾けたような高い少女の声が響く
「あーっ!あそこにいるの私たちのクラスの子よねー!!」
その声に、驚いて跳ねるように振り返る
そこにいたのは、転校生の小泉月と日向君
「・・・」
あまりの唐突な登場に驚き、咄嗟に声が出ないでいると
また、あの不愉快な笑みを顔に張り付けて間を寄せてくる
「あなたが苗字名前さん?ふふ、私のことは知ってるでしょ?
・・朝のホームルームで自己紹介したもんね」
ここで、表情を崩せば相手の思うつぼ
平常心を保とうと
「・・そうね」とだけ返す
これ以上長い言葉を続けると、声が震えてしまいそうだったから
そんな私の様子に気付いたのか、更に間を詰め耳元でそれまでとは打って変わった小さな人の心に纏わりつくような湿った声でゆっくりと囁く
「もうわかってると思うけど、次はないから・・・
これ以上、久遠寺校長を裏切るような行為をとれば、どうなるか分かってるわよね」
冷やかに意地悪く笑う姿に、全身の筋肉がちぢみあがるような感覚
心がかき乱された
自分で後がないだろうことは予測していたが、真っ向から宣言された途端、先がないことに不安と恐怖を感じる
満足そうに口角をあげて、飛び跳ねるように距離をとった小泉月は勢いよく振り返る
「でも、安心して
今回は、あなたじゃないから
佐倉蜜柑・・今の興味は彼女だけだから」
その言葉だけを残して、悠々と去っていく後ろ姿から目が離せない
「・・おいっ
あいつ、何もんだ・・」
少し、離れた距離で見守っていた日向君には月の声は聞こえなかったらしい
「ひゅ・・棗君には関係ない・・」
じとっと睨む赤い目
そう、関係ない
今更、誰かに相談して巻き込んだりできるわけない
これは、私の問題
私が首を突っ込んだのだから・・
後悔はしない、それでも独りになるのは怖い
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[mokuji]
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