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屋根裏の黒猫

 バレンタインなんて、本当に碌でもねぇ




 得体のしれないものを女たちがこぞって人の口に放り込もうとしやがる

 チョコの中身は大体想像がつく

 媚薬の入ったもの、見返りを狙ったもの、相手を意のままに操るものと相場は決まってる

 中にはチョコをもらえない男たちの妬みから好きな奴の名前を公然で叫ばせるようなものまであったりもする





 いずれにしたって、食いたい奴なんていやしない

 寮に隠れていたって、押しかけてこられたら逃げ場がなくなる

 だから、教室の屋根裏に隠れていたら、教室から物音がした

 ふと覗くとルカとあいつが何か喋っているのが見えた






 去り際にルカがチョコを1つサッととっていく姿






 聞こえるはずもないような小さなルカの声が耳に入る

 ルカも名前呼びをするようにあいつに要求した




 そのことに、胸がうずく

 今年はいつにもまして、碌でもないバレンタインデーになりそうだ





 苗字の顔を見るが、上からでは表情まで見えない






***
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*





 トンッという軽い着地音

 名前が音の方に顔を向けると、真っ赤な瞳が無表情に名前の方を見つめている





 そのまま、天井に目を向けると昇降口の蓋がわずかにずれている




 「・・あんなところに隠れているなんて、まるで猫みたい」

 「・・うるせぇ

  てめぇ、何企んでやがる

  ルカに得体の知れねぇもん食わせてんじゃねぇよ」

 「ただ、溶かして固めただけだもの・・

  何事も起こったりしない、起こったとしたらそれは、私じゃなくて作ったお店のせい・・」





 こんな日ですら、顔色一つ変えずに淡々と話す名前

 それに、棗はいら立ちを隠せない





 廊下から再び、女子の声が聞こえてくる


 チッと舌打ちすると教室を立ち去っていく






 その様子を見届けた後、名前も帰りの支度を整え、教室を後にする






***
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*






 帰り道に出くわしたのは異様な雰囲気をまとった3人組




 頭に花を咲かしたり、利き腕を蛇に変えてみたり、鼻を豚鼻に変えてみたりといったい何をやっているのだろう

 いや、理由は聞かなくても分かる





 3人を見た瞬間に関わってはいけないと頭の中で警報が鳴り響き、寮へと足を向けるが、時すでに遅し


 がっしりと腕を蛇に変えた人によって捕獲される


 「名前〜!

  ってか、お前、今、目が合ったのに関わりたくないって逃げようとしただろ!」



 当然だろっと冷たい視線を投げてよこす名前のことを気にも留めずに、すりすりと身を寄せる翼





 名前のアリスでは元には戻れない

 元に戻るには豚鼻もとい殿の人脈を使って解毒剤を手に入れるより他ないらしい 



 そのために、新聞部に撮られた殿の《ブヒかっこいい写真》を取り返すことが必須

 つまり、翼に捕獲された名前も解放されるために写真部からの写真の奪取を手伝うことに






 写真部を追いかけて、走っていると校内放送が・・

 殿、翼、棗、ルカなどなど女子だけでなく色んな方面から手配されている人たちの居場所が次々と明らかになる





 そして、偶然にも先程別れたはずの棗、ルカと名前は再会





 中庭のはずれは様々な思いを交錯させた人たちでごった返していて、走っていた名前は足元の石につまずきよろけて、棗の肩にしがみつく






 その時、チョコレートを念力で飛ばしてくる人の姿



 「あなたの本命の人の名前を教えて!!!」

 「あぶねぇ!」

 しかし、このごった返した状況で彼女の未熟なアリスは狙いを正確に定めることができず、入った口は無情にも名前の口の中

 棗が手を出して庇おうとしたが、念力のアリスの軌道を読むことができなかったのだ





 空気が一瞬ピリッとなる

 それまで、騒いでいた翼たちも気づけば名前の方を注目している





 「・・わ、私の、好きな人は・・・」


 一拍の間をおいて



 ガブッと自分の腕に力いっぱい噛みつく名前

 その姿に周囲はあっけにとられ、一時騒然となる

 一目見ただけで、腕が噛み千切られるのではないかと錯覚してしまうほど力いっぱい腕にかみついていることが周りの人たち皆に伝わった





 「いつっ!!」

 痛みに顔を歪めたかと思うと、そのまま脇目も振らず一目散に駆けていく





 一瞬のことで判断が遅れたが、その後を追う棗と翼

 それをさらに追いかけようとする者は、1人もいなかった






***
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*





 息を切らせながら名前の後を追う俺と棗




 名前にようやく追いつき息を整えていると

 「おいっ!今のは、何の真似だ!」

 苛立ちを含ませながら、名前に棗が詰め寄る



 が、小さく膝を抱くようにして座り込んでいる名前は返事どころか見向きもしようとしない




 「・・」


 そんな名前にそっと近寄り、肩に触れると小刻みに揺れているのが分かる




 どうして、ここまでして隠そうとするのかは分からない

 それだけ、相手に本気だということだろうか

 少しだけ、嫉妬する気持ちが沸き起こるが下を向いて見えない顔にこれ以上問いただそうとする気にもなれなくて・・




 ふと、名前の横に置いてある鞄に目を止めると、チョコレートの包みがいくつか覗き出ている


 「名前、このチョコもらっていい?」

 ゆっくりコクリと首が縦に振られるのを見届けた後、隣に座ってチョコの包みを1つ解く

 


 じとりとこちらを睨み、不機嫌そうに俺の手の中のチョコを奪い取る棗

 そして、俺と反対側の名前の隣に座って、おもむろにチョコを食べだした




 その様子に苦笑しながらもう1つ俺も鞄からチョコをとって食べる

 名前らしい、ブラックチョコの味が口の中に広がる




 俺はお前の気持ちを応援できそうにねぇな〜と自嘲気味に呟いた







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[mokuji]




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