バレンタイン
休みの分を取り戻した後も、任務は続行
徐々に、これまでよりも量が増えてきている
「これは、最終警告だ
これ以上、学園に首を突っ込むな
邪魔をすればどうなるか、分からないわけではないだろう・・」
学園のことに首を突っ込むなとは勝手な言い分だ
学園の任務が増えてきたせいで、学園での生活もままならない状態になってきているというのに
それに、私の求めていた情報が見え隠れしている
こんなところで、引き下がったりしない
すべてを捨ててでも・・必要なら命だってかける・・
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気づけば、2/13
翌日に控えたバレンタインデーで生徒たちは、浮足立っている
「最近、名前いっつも放課後、帰んの早かったからちゃんと、話せるの久しぶりやー
バレンタインの準備もうやった?
まだやったら、一緒に放課後、チョコ作ろうや!!」
その話を聞くまですっかり、バレンタインのことなど忘れていた
チョコ作りに、興味はない
それでも、時には息抜きをしてみるのもいいかもしれない・・
焦ったって、事態が急変したりすることは無いだろう
「・・いいよ」
「やった〜!!」
元気のいい笑顔と声にここのところ、参っていた気持ちが少しだけ明るくなるのを感じる
「どんなものを作るか考えてある?」
と、にっこり微笑んでこちらを見る今井さんの手には約束マモラセール"と10倍返しチョコ"
とりあえず、今井さんのチョコを食べることだけは勘弁願いたい
それに、蜜柑のように友チョコなんて用意したって、ここはアリス学園
誰もそんな危険なものを受け取ってくれるはずもない
それは私も然りなわけで・・(翼先輩辺りは、受け取るどころか作ったのを知れば、もぎ取りに来かねないかもしれないけれど)
不思議なことに、皆がチョコを作っている様を見ているとずんずん、食欲が落ちていく
チョコが踊っている姿、湯煎しているはずのチョコから煙が出たり・・
息抜きに来たつもりだったが、参加しようとしたことを激しく後悔
***
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バレンタイン当日
いち早く、男子たちは教室から消え去った
学校の授業も、女子の熱意に負けて、ほとんどの科目が自習になる
そのため、無法地帯が輪をかけて、助長されている
おまけに、やはりここはアリス学園
意中の相手に食べてもらうためには、手段を選ばず
本当に好きなのだろうかと疑問を持っても仕方のないほど、恋する乙女たちは容赦がない
つまり、教室には男子だけでなく、女子も1人もいない状態
ぽつりと教室で、昨日、蜜柑と蛍に強制参加させられたチョコ作りの成果を独り味わうことにした名前
せっかくなのでチョコを誰かに無理やり押し付けようと思って、登校してきた名前だったが、がらんどうのような教室
教室をもう1度、一瞥し、そこまでの参加意欲がわかないことを認識し、寮へと帰ることに
その時、ガタンと勢いよくドアを開く音がする
振り返ると、そこには息を切らしたルカの姿
「・・乃木君、その頭・・どうしたか聞いても・・?」
途端、火を噴くほどに顔を赤くするルカ
「せ、先輩に無理やり口に入れられた、ち、チョコで・・」
「・・おつかれさま・・ちなみにチョコは好き?
食べ飽きてるかもしれないけど、何も入ってない普通のチョコ、作りすぎたの・・
もらってくれそうな人を募集中・・・」
目を真ん丸にするルカに名前は小さく苦笑い
「・・何でもない、じゃあ、頑張って逃げてね・・」
「ま、待って
あ、あのさ、苗字って、な、棗のこと・・」
正月のころに部屋中の人が驚いた、名前事件のことを言っているのだろうと名前は察した
「・・この間のこと?あれは、誕生日の日の約束・・
日向君って、もう呼ばないことになったらしいから」
何か言いたげに、名前を見る青い瞳がゆらゆらと揺れている
それが、まるで宝石のようにキラキラとしていて名前が見とれていると、思いがけず見つめ合っているような雰囲気に
「ルカ君の匂いがこの辺からするわ!!」
廊下に響く声に、ルカの肩がびくりと跳ねる
その後に響くバタバタという足音
慌てて、窓の方へと移動する際、机に広げてあった名前のチョコを1つパッと取る
「・・・俺も、乃木君じゃない方がいい」
と小さく消えそうな声が名前に届き、驚きのあまり名前は窓から飛び降りようとするルカに釘付けに
「チョコレート、ありがとう!!」
初めて聞く、ルカの大きな声とはにかんだ笑顔
その笑顔を見ると名前の顔もついつい、ほころんでしまうのだった
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[mokuji]
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