地下
「うん・・とても似合っているよ
・・4人とも・・・」
ゴンっ
「うるせぇ!殴るぞ!!」
・・もう殴っている
「棗は思ったよりもオカマっぽくないんやなぁ」
ケラケラと楽しそうに笑う佐倉さん・・
佐倉さん、今のやり取り見ていましたか
似合ってると言っただけで、ぶたれたのだから・・
ですよねぇ、燃やされます
「ひゅ、」
声を掛けようとして、睨まれた
あぁ、避けて通ってきた道、ついに逃げられなくなった
誕生日のやり取り以来、日向君の名前を呼ぶことを避け続けてきた
ここにきて、不意に口をついて出てしまった
そもそも、あんな投げっぱなしにしといて何と呼べと?
と怒っても仕方がないし、いつまでも避け続けるわけにはいかない
「・・な、つめ君」
ドモリ声になる
私の声に周囲が騒がしくなる
その騒ぎに乗じて、言いたかったことだけ1足に言ってしまう
忠告、行くなとは言わない、ただ地下の場所はあなたにとって不利な場所ってことを覚えておいた方がいい
上手くいくことを祈ってる、けど、今回、私は手を貸してあげられない
いぶかしげに赤い瞳がこちらを見ている
スッと目を逸らし、私は部屋を出る
日向君の眼が昨日とは打って変わって決意に溢れた眼をしていたから
それが、どんな決意なのか分からない
ただ、初めて佐倉さんに会った時と同じ・・私には眩しかった
あまりに明るく照らす光の隣にいると自分の闇がことさら暗く感じる
やっと立っている足元が真っ暗に見えて、私の中の恐怖、不安が膨れ上がる
***
**
*
4人を花姫殿に送り届けた後、名前と2人連れ立って中等部付近を歩く
元気がないことに気付く
いつもより、よく話しているけど空元気だとすぐに分かる
今、ここで聞き出さなければ次のチャンスはやってこない、そんな気がして名前の言葉を無理に遮ろうと肩を掴んで・・
・・ずしゃっ
パタパタと後ろから駆けてきた茨木のばらが目の前で転ぶ
瞳いっぱいに涙を浮かべて、何やら切羽詰まった様子で、オドオドとしながら何かを精一杯説明しようとしているが、しどろもどろで伝わらない
説明が伝わらないことをもどかしく思ったのか、茨木のばらは、俺の着物の袖を引いて花姫殿の建物の下に向かう階段のもとへと連れていく
「棗君と蜜柑ちゃんを助けてあげてください・・」
懇願するような様子に事態が緊迫していることが伝わって来る
名前の方に目を向けると、気が進まないような、ためらうような様子を見せている
「・・・名前はここで待ってろ」
「・・ううん、一緒に行きます
連れて行ってください」
何かを決意したように発せられた言葉
無理に作った笑顔が俺に向けられる
より一層、彼女を寂しげに見せている
先程、頭を掠めた最後のチャンスというフレーズが再び鮮明に蘇って来る
ただの思い過ごしであってほしい
名前の後ろ姿を見つめて、そう願うことしかできない
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[mokuji]
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