そのた | ナノ


拾物

 


「拾った」


君主である劉備殿に告げられ、その場に居た臣下一同は目を丸くする。いつもの人を魅了する笑顔を浮かべた劉備殿は両手に何かを掴んで引きずっていた。何かの袋、のように見えなくもないが所々覗く肌色がそれを否定する。

大きさ等を見て、どう考えても人間だ。しかも子供。


「…殿、人攫いは感心しませんね」


思考停止から復活して最初に聞こえた言葉。本来なら上司に言う言葉ではないのだろうが、言った人の顔を見ると納得してしまった。諸葛亮殿なら仕方ない。実際、この場に居た臣下や兵のどれ程がそう思っただろうか。
劉備殿の笑顔で魅了(と書いて洗脳と読む)されて、勝手についてきたならまだしも…まさか、ぴくりとも動かない子供を引きずって帰ってくるとは。


「見ろ、諸葛亮!子供だぞ!山中で倒れていたのを見つけてな…最近は物騒だから、と思って連れてきたのだ」

「殿、それは連れてきたというのではなく、攫ってきたというんですよ」

「兄者、一先ず、その、引きずるのを……」

「ん、ああ、そうだな。起きるまで介抱してやらねば…誰か、頼めるか?」


少し妙な色の服装をしてはいるものの、髪色や肌色なんかを見てもただの子供にしか見えない。確かに可哀想ではあるが、一体何故この城で介抱するのだろうか?なるべく疑いの色を表に出さないようにしながら考えていたら、今回も始まりました、蜀恒例。


「あ、えと、劉備殿、それなら俺が」


しんとした沈黙が続いていた中、遠慮がちに手を挙げて一歩前に出たのは徐庶殿。確か、劉備殿の一番最初の軍師、だった筈。この軍師が名乗り出た、ということは。

(あーあ、まぁた始まっちゃうよ)

この国、劉備殿の笑顔に洗脳され、皆が皆良い所を見せようと躍起になる蜀という国では(特に4人の軍師の前で)抜け駆けは許されない。(ただし、軍師の前でなくても抜け駆けをしようものならどこから聞いたのか知られていたりするからすごく怖い。)
まあ、つまりは徐庶殿が名乗り出たのなら他の軍師殿も挙って名乗り出る訳で。
ただ皆(主に軍師)が重要としているのは劉備殿の笑顔なのであって、子供の事は多分眼中に無い、と思う。手柄を得るついでに監視でもしよう、なんて魂胆じゃないだろうか。
あっ、これ結構当たってる気がする。


「いえ、私が」

「いやいや、お前さんらは仕事を済ませてきなよ、あっしがやるからさ」

「ホウ統殿も終わってないでしょうに、俺がやりますよ」

「(やっぱり諸葛亮殿も、ホウ統殿も、法正殿も、だよねぇ…うん、知ってた)」


予想通りの流れにもはや呆れるしかないが、ここからは予想外だった。隣でじっと見ていた若(俺の従兄だよ!)が、劉備殿の手から子供を二人、引っ手繰ったからだ。


「っ!?ば、馬超?」

「劉備殿!この子らは俺が!責任を持って!介抱しましょう!馬岱、行くぞ!」

「ぅえっ!?ちょ、ちょっと待ってよ、若ぁ!」


驚く劉備殿や他の面々の返事も待たずに子供らを抱え、その場を走り去る若を追いかける。多分後々、軍師殿(特に諸葛亮殿)が愚痴るんだろうなー。でも何でこんな事をしたんだろう。熱血で周りが見えずに暴走することがあるとはいえ、冷静な面もある若が何故。
ふわふわと浮かんでは消える疑問や予想を整理しつつ若の後を歩く。

その内、若の部屋に着いた。若は二人を寝台に寝かせると、女官に水と手拭いと粥を持ってくるように指示を出して、椅子にどかりと座った。


「ねえ若」

「何だ?」

「…んー……ん、何でもない」

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