事実
ざわ、と辺りがざわめく。曹操の名前だけは知ってたけど、そういやあのおっさんすげぇ偉いんだっけ。重臣のみが集められたとはいえ、この場には結構な数の人がいる。(主に髭のおっさんばっかりだけどな!何なの?髭と傷が勲章なの?)
(玉露…俺、逃げた方が良かったんじゃねえかなって、思うんだ…。)
─── 時を遡り。
「んじゃ、話進めっか」
とりあえず、真面目な話するんだから真面目に座んないとな。
ふと、以前友人に言われた言葉を思い出して胡坐をかいた状態から正座の状態になる。さっきまでずっと俺の後ろに隠れていた玉露をちゃんと隣に座らせて。
「ま、簡単に言えば…俺らは神様、ってやつなんだよな」
「…は?」
「ほう、神仙の類と申すか」
しんせん?ぴっちぴちってことか?
頭上に疑問符をぽんぽん浮かべていると玉露が耳打ちしてくる。
「(土墜、神仙っていうのはね、神や仙人、つまりは人ならざるもの、だよ)」
「あ、あー!成る程!神仙ね、神仙!」
「……神仙という言葉を知らんのかお前は」
「おう、だって俺は神だし、玉露も神だからな。仙人が出てくる隙がねーもん」
「…では、おぬしらは一体何の神だと言うのだ」
怪訝そうな顔で俺達を見つめる曹操。ま、普通の人間に神様でーす、なんて言っても信じてもらえる訳ねーよな、うん、知ってた。さて、説明した所で信じてもらえっかな?
「俺は火と土。玉露は植物と水な。……あとは風と雲、太陽、月とか沢山居るけど、あいつらはこっちに居んのかな」
「…多分、居るんじゃないのかな、何となく、だけど」
「ここに居らぬ、という事は他の国におぬしらの仲間がいる可能性がある、か」
「ま、そうだな。どこに居ようと俺らに勝てる奴はいねえけど」
「随分と自信があるようだな」
「おう、腕っぷしには自信あるぜー!」
俺らに勝てる奴はいねえけど、俺らに負けない奴らが居ないとは言ってない。何たってMZDが最強の盾だしな、玉露が最強の矛だしな。あ、これ矛盾って言うんだろ?俺知ってる!
「簡単に言ったけど、言葉じゃ信じられねぇよなあ」
「当たり前だ、そんな嘘のような」
「わしは信じよう」
「……孟徳?」
夏候惇の言葉を聞いて、だよなあ。と苦笑いをしていると曹操がはっきりと言った。「信じる」と。馬鹿と言われる俺でも流石にこんな話を聞いたら人間誰でも嘘だと思うよな、って考えるくらい嘘くさいのに、この人間は信じると言った。
何考えてんだこいつ?
「……逆にそれが嘘くせぇよ、曹操…」
「そうか?わしはそれなりに考えての結論を言っただけだが」
「結論?」
「そうだ、わしの部屋に居た事、わしの名を知らなかった事、おぬしらの話、それと」
「それと?」
「その、動くもの、だ」
「えっ」
指を指されてようやく気付いた。玉露の影である淋が、玉露の背後から思いきり顔を出していた。夏候惇の睨みで萎縮していた玉露もたった今気付いたらしく慌てて淋を隠そうとする。
「っ、り、淋?!」
≪何でしょう≫
「動くだけでなく、喋れるのか」
≪人間の足元にくっ付いて歩くだけの影と一緒にしないで頂きたいですね≫
「しかも中々の饒舌ときた」
平気な顔で淋と言葉を交わす曹操を俺も玉露も少し茫然とした顔で見ていた。まさか影を見て普通に言葉を発する人間がいるとは思いもよらなかったからだ。夏候惇の様に驚いて警戒する、という流れが普通の人間が取る行動ではないのか。
曹操にとっては、その普通という行動が当てはまらないのか。
「な、な…!普通に会話している場合か孟徳!」
「良いではないか、滅多にない機会だ」
「そういう問題ではないだろう!」
「だが、これでこの者達が人でない、という事が分かった」
「…それは、そうだが…!」
面白い。
一つ、そう思った。この曹操という男は中々に面白い。俺達を庇ったり、話を聞いて信じる、と言ったり、影と普通に会話してその話を事実だと言ったり。
こいつの元には、どんな人間が集まるんだろうか。
≪玉露様、話は纏まったようですね≫
「そ、そうみたい、だけど…」
≪先程から玉露様を睨んでいるあの隻眼…盲目にしても宜しいでしょうか?≫
「!そ、それはやめて!お願いだから、もう少しの間だけ、大人しくしてて…!」
≪……御意に。失礼致しました≫
するりと玉露の影に戻る淋。とりあえずあれな、夏候惇良かったな。
何と言うご都合主義…ってツッコミは置いといて、君主に認めてもらえたんなら最悪殺されるなんて事は無さそうだ。幽閉とかはあり得そうだけど。
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