PM | ナノ


余計な収穫

 


「…なんつーか思いっきり幽霊出ますよ的な屋敷だなー」

「出るって言われなかったか?」

「お兄ちゃん言われてません」

「気持ち悪い」

「酷い!」



真っ暗で今にも崩れそうな廃墟。

肝試しだって言って探検気分で行くような若者がいそうないかにも、な屋敷。

そんな所へ、ライト片手にリュックを背負って俺達は仕事の依頼でここへ来ていた。



「しっかし…誰だよこんなとこに住んでる奴は」

「こっちの苦労も知って欲しいよなー」

「でもAKが表の仕事請けるなんざ、珍しいよな」

「いや、ちょっと面白そうだったから」



裏掃除しか請け負わない筈の双子の兄は、珍しく、いや初めてとも言える表掃除を請け負ったのだった。

まぁ、依頼内容は至極簡単そうに見えてかなりの難しさを誇る依頼だったが。



「つうか『屋敷に勝手に住み着いてるホームレスを追っ払え』なんて依頼、普通来るのか?」

「来ねぇよ、ていうか来たの初めてだし」

「だよなー…ってうわ!穴開いた」

「おま、壊すなよ…!」



木は腐っているし壁は今にも崩れそうだし、四苦八苦しながら何とかリビングまでたどり着いた。



「あー…疲れた」

「お前にしちゃ、よく動けたな」

「うっせー俺だってたまには働くし」

「ほう、たまには」

「…ん?おいKK、何かあるぞ」



一度大きく伸びをして深呼吸をした。

ざっと見回してみれば、朽ちかけたテーブルの上に、湯気の立つティーカップが二つ、置いてある。



「…今、淹れたばっかですよーって感じの紅茶だな」

「つか普通に今淹れたばっかだろ…湯気立ってんだし」

「飲めるかな」

「…AK、飲むなよ」



こんな怪しいもの、飲もうなんて考える方がおかしい。

他に何か無いかと見回している間に、飲むなと言った紅茶にAKは手を伸ばしている。

手を叩き落としてやろう、と思った瞬間、どこからか伸びてきた手がパシン、とAKの手を叩き落とした。



「あいてっ」

「…?」

「KKおま、何もんな事しなくても」

「俺は何もしてねぇよ、思ったけど」

「は?じゃー誰がやったんだよ」

「私ですが何か?」

「「!?」」



後ろから声がした。

思わずホルスターから銃を取り出して、喋った何かに銃口を向ける。

AKも驚いたようで、ナイフとフォークを向けている。

が、そんな状況にも関わらず、何かは笑った。



「…随分と、血の気の多い方々でいらっしゃるようですね」

「何だテメェ…」

「つーか…俺には何か仮面が見える」

「奇遇だな、俺もだ」

「おや、私が見えるなんて、珍しい…」



お茶でもいかがですか、なんて言いながらソイツは一瞬でテーブルの椅子に座っていた。

え?ホントに何?

もしかしてこれが依頼のアレですか。



「あ、もしもし、おたくさんここに不法滞在してませんか」

「…AKお前…」

「え?何か悪い事聞いた?」

「いや、もうお前すげぇわ」

「失礼ですねぇ…私は不法滞在した覚えなどありませんよ」



優雅に紅茶を飲みながら答えたソイツは、俺達を見ながら小さく「はぁ」とため息を零した。



「元々、この屋敷は私のものだったんですよ?」

「は?」

「ってぇ事はおたくさん、やっぱ死んだ人?」

「先程の「見える人」で気付いてくださったのかと思ったんですが」



どうやら本当に幽霊らしい。

よくよく見たら若干椅子から浮いているし、肌色が淡い緑なんてのもおかしな話だ。

とりあえず依頼はこなさなければいけないので、事情を話す事にした。



「あー俺は警固屋景、景でいい。で、そっちが」

「警固屋空、俺も空って呼んでくれー」

「景さんと空さん、ですか」

「アンタは?」

「私、この屋敷の主で人形師のシジズモンド・カンターレと申します」

「しじずもんど?」

「ジズで結構ですよ」

「ジズな、分かった」

「よしジズ、俺にその紅茶ちょっとくれ」

「オイコラ」

「んだよーいいじゃんよー、なージズー」

「私は構いませんが」

「あのなぁ…」



名前を聞いてまず始めに、AKが空腹なのか、茶をねだった。

しかも早速仲良さげにしてんじゃねぇよ。

俺とAKが軽く言い合っているうちに、新しく淹れたのか、ホコホコと湯気立つ紅茶の入ったティーカップが差し出された。



「お話でしたら、飲みながらでも出来ますでしょう?」

「…そうだけど」

「ほらほら、いーじゃん、ジズも言ってんだし。いただきます」

「ってお前はもうちょっと警戒心をだな…はぁー…じゃあ頂くよ」



数種類のクッキーが入った皿も一緒に差し出され、AKは遠慮なしにティータイム。

こうなってはわざわざ出されたものを、また断る訳にも行かず仕方なく紅茶だけ貰うことにした。

一口二口飲んだ所で、口を動かす。



「で、話なんだが…」

「えぇ、どうぞ」

「ここの持ち主、もうアンタじゃないってのは知ってるか?」

「知っていますよ。私が死んで大分経ちますからねぇ」



サラリと返される。

知っていてなお、ここに留まっているのには何か理由でもあるのだろうか。

余裕の姿勢を崩さないジズを少し不思議に思いながら話を進めていく。



「で、今のここの持ち主に『最近屋敷に誰か住んでる』って事で、ソイツを追い出すように依頼されてんだ」

「ほう、誰ですかそれは?」

「いやアンタだろ」



笑顔で返されてもここに住んでいるのはジズ以外いない筈だ。

素なのか、それともわざとなのか、全然読めない。

表情を読み取ろうと秘かに頑張っていると廊下から足音がした。

段々と近づいてくるその足音に、リビングのドアを凝視していると勢いよくそのドアは開いた。

扉を開けた奴の顔を見ると、大きなかにぱん。

AKも見ていたのか唖然としていた。



「おや、ヴィルヘルムじゃないですか」

「久しいなジズ。で、そこの人間は何だ?」

「貴方を追い出すように、と依頼された方々だそうですよ」

「ほう、この私をか」



なにやらジズと普通に話を進めているが、その前に俺達に説明してほしい。

誰だコイツは。



「彼がこの屋敷を宿にしている張本人ですよ」

「アンタじゃなかったのか…」

「私は見える人と見えない人がいますし」

「あれっ、ジズは物に触れるんじゃなかったか?」

「ただの幽霊ではありませんから」

「おい、私そっちのけで話をするな」



一体どういうこっちゃ、と話をしていればかにぱんが割り込んできた。

しかしそのかにぱん、どんな構造になっているのか気になる。



「言っておくがこれはカニパンなどと言う物ではない!」

「…KK!俺の心読まれたっ!俺もう嫁にいけない!」

「お前は婿だから安心しろっつーかお前今彼女いねぇだろ」



ふざけて俺に飛びついてくるAKはツッコミつつスルーしておく。

ていうか、AKも俺と同じ事考えてたのか。

とりあえず、俺とAKの中じゃ「かにぱん」で定着しそうだから、名前を聞いておこう。



「…アンタの名前は?」

「ヴィルヘルム」

「ウィルヘルム?」

「ヴだ!」

「ややこしいからカニパンでいいじゃん」

「燃やすぞ貴様ァッ!」

「もし炎を出したら貴方を私のコレクションにしますよ?」

「……う、うむ…気をつけよう…」



ジズには勝てないらしい。

でもヴィルヘルムが発音しにくいのは事実だ。

やっぱりかにぱんでいい気がする。

まぁ何にせよ、向こうから来てくれた訳なので事情を説明するとしよう。



「かくかくしかじか」

「それで分かるとでも?」

「普通は通じるんだけどな」

「頑張れカニパン」

「…だから、カニパンと言うなと…っ!」

「だからここで術を使うなと」

「ギュアッ!」



教訓、ジズを怒らせたら怖い。

かにぱんは脳天に拳骨を食らって、ふらふらしていた。



「ウググ…で、話は」

「だから、この屋敷の持ち主が、不法滞在してる奴を追い出せって」

「…そんな事をされては私の寝る場所が無いではないかっ!」

「カニパンは幽霊じゃねーの?」

「私は幽玄紳士だ!」

「何それ」

「いいか!幽玄とはギュアッ!」

「黙れ上司」



また誰か来た。

これ以上増えるのは勘弁してほしい。

めんどくさいから。



「ジャック、お久しぶりですね」

「あぁ」



誰かと思えば、最近見なかったジャックだった。

ジャックはたまにうちの会社で裏掃除してく奴だ。

確か面識は無かった気がする。

俺やAKが仕事に行く時に、ふと見かける程度。



「ジャ、ジャック貴様!上司である私に背後から飛び蹴りなドアッ!」

「探したぞ上司」

「見事な踵落しだな」

「すげー」

「…ミ、ミスター…」

「よ、ジャック。こうやって会うのは初めてだけどな」

「最近見ねーから、何してんのかと思ったら、何してんの?」



俺達を見た瞬間、ジャックの態度が変わった。

ついさっきまでは、明らかにかにぱんに対して殺意の混じった怒りを向けていたのに、俺達を見てその怒りはまるで消えてしまったかのように引っ込んだ。

少し不思議に思っているとジャックは、平然と紅茶を飲んでいるジズの後ろに隠れてしまった。

俺、何かしたっけ。



「…何かしたっけ」

「俺何もしてない」

「クスクス」

「いや、あの、その」

「ジズ、アンタ笑ってっけど、何か知ってんのか?」



ジズの後ろでしどろもどろになっているジャックに、くすくすと笑うジズ。

凄く楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。



「貴方達二人は彼の憧れですからねぇ」

「「は?」」

「!」

「何だと!ジャック貴様、たまに見ないと思ったらギュアッ!」

「黙れ上司!」



さっきから上司と呼ばれつつも、扱いが酷いかにぱんはほっとくとして。

俺らが憧れ、ってのは一体どういうこった。



「…そこんとこもうちょっと詳しく」

「ジャックは元々暗殺依頼をされてこの世界に来たのですよ」

「へぇー、って事はターゲット探してわざわざ?」

「…あぁ」

「すげーなぁ」



それはまたご苦労なこった。

少しだけ、そのターゲットが見つかったのか否かは気になったけど、あえて聞かない事にする。

でも依頼を受けてこの世界に来たにしても、一つ気になることがあった。



「たまにうちで依頼受けてたのは何でだ?」

「それ、は……」

「彼が貴方達を見たいがためですよ」

「ジズ…!」

「おっと、お喋りが過ぎたようですね」



俺らを見たいが為、ってのはどうも不思議な話だ。

確かに知らない内に有名にはなったが、何故それで憧れになるのやら。



「その、一回だけ、ミスター達に、助けてもらった事が、あって」

「…助けたっけ?」

「…あぁ、あれだろ、あのニッキーと接近戦やってた」

「……あーあれか、あれ凄かったな」



ジャックがうちで依頼を受けているのを知って間もない頃に、ジャックVSニッキーなんて事があった。

同じ会社で依頼を受けているのだから、まぁ一応面識なくても同僚にはなるんだろうってのと、ニッキーとジャック、どっちに味方するかって言われたらニッキーには味方したくないって事でジャックを助けた事があった気がする。

ニッキーが普通に接近戦出来てて驚いた、って印象が強かったけど。

まさか、そんな前の事をまだ覚えてたのか。



「…ていうか、どうやってそっからその『憧れ』とやらになるんだ?」

「ホラ、アレだろ。『Mr.AKマジ強ぇーマジかっけー俺もあんな風に接近戦できるようになりてー!』だろ」

「…AK、お前は自分の事を過大評価しすぎ」

「え?」

「…大体、あってる、けど」

「えっ!?」

「ほらなー、俺かっこいいんじゃん」

「どっちの、ミスターも、憧れだから」

「そらまた…光栄なのか?」

「光栄だろ、俺らの名前の跡継ぎが出来たんだぜー」

「俺の名前は後生にゃやらねぇよ」



この名前は俺一人で終わってほしいし。

まぁ、ちとゴタゴタしたけど、とりあえずは目的の人物を見つけた事だし。

いつの間にか静かになったかにぱんを担いで、ジズとジャックに顔を向ける。



「ジズ、俺ら帰るわ」

「お早いお帰りですね、もう少しゆっくりして行かれたらどうです?」

「一応目的の奴は目の前で気絶してるし、さっさと仕事終わらせてぇから」

「あ、俺、暇だった来ていいか」

「えぇ、いつでもどうぞ」

「AKお前な」

「だって紅茶美味かったし」



まぁ、確かに美味かったけども。

また謎だらけの友人的な奴が増えちまった。

ただ、ジズの顔からしてすっげぇ嫌な予感する。

出来ればまた会いたくなかったり。



「ミスター、俺も行く」

「お、久々にうちで依頼受けてくか?」

「うん」

「AK、お前暇だろ、一緒に行って稼いで来い」

「!」

「え?あぁ、別に俺はいいけど。ジャックは?」

「ミ、ミスターがいいなら…」

「じゃけってー。あ、KK、俺ら先行くから!」

「は!?おま、この重いのを一人でどうにかしろってか?!」



駆け足でさっさと帰ったAKとジャックに怒鳴るも、時既に遅し。

仕方なく一人でかにぱんを持って帰る事に。

…玄関まではジズに手伝ってもらったけどさ。



「今回は邪魔したな」

「いえ、久々に楽しかったですよ」

「ま、気が向いたら俺も茶を飲みに来させてもらうよ」

「クスクス、その気が向くのを、お待ちしておりますね」



そんな感じで屋敷を後にした。

けど、こいつどーしよう。

依頼は追い出すのであって、俺が持っててもどうしようもない。

そこら辺に捨ててくか?



「…む……?!」

「うおわっ!」

「ギュアッ」



帰り道にある川の土手で立ち尽くしていると、目が覚めたかにぱんがいきなり起き上がろうとした為に、ひっくり返った。

何しやがる。



「こ、ここはどこだ!」

「川」

「それくらい分かっている!何故貴様に担がれていたのだ!」

「依頼だから」

「むむむ…これでは私が生きれんではないか…!」

「お前幽玄って言うくらいだし、人じゃないんだろ?」

「…一応な」

「じゃあ別に食わなくてもいんじゃね」

「食べずとも生きていけるが、睡眠を取らねば倒れる」

「意外と人間味溢れてんな」

「…そうだ、貴様の家を宿にしよう」

「は?」

「それがいい、元はと言えば貴様の所為なのだからな!」

「ちょ、待、勝手に話進めんな!うちは二人が精一杯!」

「知るか!そうと決まればさっさと案内するがいい」

「え、やだし」

「何だと?この私のいう事が聞けぬとでも」

「聞く義理もねぇわ」

「ふん、なら別に構わん。私が後を追って勝手に寝泊りしよう」

「やめろ、不法侵入すんな」






余計な収穫
(ただい…?!)
(帰って…お、ジャックも一緒か)
(む、邪魔しているぞ)
(え?KKこいつどしたの?)
(何か宿が無いから、うちを宿にって)
(…帰るぞ上司)
(ギュアァッ!)









――――――――――*
双子と幽霊・幽玄と暗殺者
え?上司の扱いが酷い?
きっと愛ゆえでs…自分の中のイメージがこんな事になってるからですすみません
組織権力は上司>ジャックだけど普段はジャック>上司でいいと思う
ジズ様は性格的な意味で最強

ここまで見て頂き有難う御座いました。


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