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月夜の出来事

 


そうだ、今暇しててな、ちょっと話聞いてけ。







その日、珍しく俺達二人に揃って裏の依頼が来た。

しかもどっちも同じ場所、同じ時刻。

不自然だったのはターゲットに関する情報が何もなかった事くらいか。



「また随分とふざけた依頼だな」

「もしかしたら俺達をハメる罠だったり」

「…行きたくねー」

「あえて乗る手もあるだろ」

「…お前が働くんなら…まぁ」

「仕事なら仕方ねぇ」

「…じゃあ一先ず罠に嵌まってみるか」



怪しすぎる依頼だったが、依頼は依頼、仕事はキッチリやらなければ。

受けちまったもんはしょうがねぇしな。




 ― 廃工場入り口前



普通の人間なら怖がって近づいたりしねぇような場所。

普通の人間なら明日も早いとベッドの中で夢見る時間。

そんな場所に、そんな時間に、俺達二人は立っていた。

KKの手には二丁のハンドガンが握られ、背中のバッグにはアサルトライフル。

俺の手はズボンのポケットの中、服の様々な所にいつでも取り出せる食器。

ターゲットが、誰なのか、何なのか、一切知らされていない状況ではこうして依頼主が来るのを待つしかない。



暫くして少し太った30代の男が此方に小走りで向かってくる。

あれが今回の依頼主なのだろう。



「いや、お待たせして申し訳ない」

「別に構いませんよ」

「で、ターゲットはいつ教」

「AK黙れ」



足を思いっきり踏まれた。

別にいいだろ、とちょっとKKを睨んだ。

ら、また足を踏まれた。

痛い。



「で、今回の依頼の話なんですけど」

「勿論です、ここではなんですので、此方へ」



一人、心の中で痛みに悶えているとKKはさっさと話を進めてついていった。

おい待て置いていくんじゃねぇよ。

依頼人についていって、ここでお話します。と言われたのは工場内。

灯りは一切無くて、唯一の明かりは半壊の屋根から差し込んでくる満月の光だけ。

実は周りに他の暗殺者が潜んでいるんじゃないか、と警戒する。

と、依頼主はKKだけを連れて、どこかへ行ってしまった。


あれ?俺置いてけぼりかよ。


何も言われなかったので、どこか腰掛けられる所は無いかとまた、周りを見回す。

丁度よさそうな、倒れた柱があり、それに腰掛けて一息つく。

…煙草吸っちゃダメかな。







「つーかおっせぇな」



依頼人とKKがいなくなって1時間は過ぎただろうか。

何をしているのか、と思うほど長ったらしい。

…探しに行くか。

立ち上がって、何本目か分からない煙草を地面に落とし、靴の裏で捻り潰す。

えーと、どっちだったかな、とキョロキョロしていると背後に人の気配。

勢いよく後ろを振り返りながら、ソイツにフォークを突きつける。

誰だコイツ、と思ってよく見てみると依頼人だった。

だが、傍にKKの姿はない。



「アンタか」



驚かせるなよ、と呟きながらフォークをポケットに収める。

KKがいない事を少し疑問に思いつつも、まぁアイツなら大丈夫だろ、と自己完結していると依頼人が喋り始めた。



「お待たせして申し訳ない、此方へ」

「どこ連れていく気だよ」

「隣の工場です」

「で、…工場に入った瞬間に射殺か?」

「とんでもない!その様な事は一切考えておりません」

「へぇ、じゃあ何考えてんだ」

「少々難しい事でして、さぁ此方へ」



どうやらここで話す気は無いらしい。

仕方なく依頼人についていく。




着いた先で、依頼人は俺を置いて暗闇に消えていった。

何がしたいんだ、と思いつつ真っ暗で何も見えない内部を軽く見回す。



「…何か血の臭いがするな」



臭いからして、まだ真新しい。

1時間以内のものだろう。

KKが既に何か殺った後なのだろうか。

と、考えを巡らせていると、前方の暗闇から声。




「っAK、逃げろ!」

「…今の」



間違いない、今のはKKの声だ。

声のした方へ歩き出そうとした瞬間、バッ、と照明がついた。

この工場に電気は通っていない。

だとしたら誰かが運び込んだ照明器具しかない。

一体、何の為に?

今まで暗闇に居た為に、眩しすぎて目が開けられない。

数分してやっとまともに周りを見ることが出来た。



「……あれ?コレドッキリじゃねぇの?」

「んな訳な…いでっ」

「喋るな」



目の前にはボコボコにされたKKと見た事あるような無いような若者。

KKは後ろ手で縛られ、地面に転がされている。

そのKKを足蹴にし、銃を突きつけている若者。

これはどういう状況だ?



「お前…そんな趣味が」

「ねぇよ!あってたまるか!」

「ふむ、仲がいいようだな」

「…KK、ソイツ誰」

「…あれ、お前覚えてねぇの」

「うん」



記憶を辿ってはいるが覚えがない。

いや、見た事はあるがそれがいつどこでだったかが思い出せない。

誰だっけコイツ。



うーん、と悩んでいると若者が喋る。



「私は以前、あなた方に清掃を頼んだ者ですが、覚えていらっしゃないですか」

「悪ぃが思い出せねぇわ」

「…おい、コイツあの大手製薬会社の社長だぞ」

「…え」

「思い出して頂けましたか?」

「…あー、あの社長か、背ぇ伸びたな」

「それはどうも、思い出して頂けて何よりです」



いや、まぁそれはいいとして、その社長が何してんだ?

右手をポケットに突っ込んでフォークやナイフを握りつつ、会話を続ける。



「で、その社長が何してんだ」

「いえ、今回の依頼の件についてなのですが」

「アンタだったのか、依頼主」

「えぇ」



じゃあさっき案内してた奴誰だよ。

と、秘かに思いつつ単刀直入に尋ねた。



「今回の目的は?」

「簡単に言えば、貴方の腕ですかね」

「…はぁ?」



何を言い出すかと思えば。

俺は裏の清掃員、依頼さえすれば何でもする。

ため息をついて、社長を睨む。



「理由は」

「最近、我が社にも敵が多くいましてね、それで私のところによく暗殺者が来るんですよ」

「そんだけか?」

「えぇ、それとライバル社を潰す為にも」

「依頼をすればいい話だろ」



金さえくれりゃ、基本何でもするからな。

そう付け加えると、社長は首を左右に振る。



「私は無駄な事に金を使いたくはありません」

「じゃあ勝手にしろと」

「ですから、何とか貴方をタダで雇えないかと考えたんです」

「…あぁ、なるほど読めてきたぜ」



俺を言いなりにさせる為にKKを人質に、ってか。

ま、唯一の肉親だし、見捨てるなんて事はしねぇが。

右手をポケットから出し、フォークを一本、社長の顔面に向かって投げつける。

と、その瞬間、ギン、と鈍い音がしてフォークは地面に叩き落された。

やっぱりスナイパーが居やがるな。



「用意周到だな」

「この為だけに雇った奴らですがね」

「めんどくせぇなぁ」

「でしたらこのまま雇われて頂けませんか?」



もし、雇われて頂ければMr.KKはお返ししますよ。

と、笑顔で言う社長に少し吐き気がした。

絶対に返す気は無いくせによく言えるもんだ。

両手に食器を4本ずつ持って、はっきりと言う。



「断る」

「…おや、でしたらこのままMr.KKも貴方も抹殺させて頂くしかありませんが」

「逆だ」

「は?」

「お前らが抹殺されるんだよ」



KKで俺が釣れると思うなよ?

まず両手の食器、八本全部を社長の方に投げつける。

すると、2本だけは撃ち落されずに社長の方へと向かう。


 ― スナイパーは6人か。


ならば大した問題ではない。

飛んできた食器を社長が避けた瞬間に微かに気配のする所へとフォーク、ナイフ、箸を二本ずつ投げる。

数秒後には6つの悲鳴。



「ホラな、あっという間に形勢逆転だ」

「っ…!ま、まだまだ居るぞ!」



パチン、と指を鳴らすとあっという間に周りが囲まれた。

…どんだけいるんだよ。

パッと見、100人弱位だろうか。

よく集めたもんだ、と思ったが…よく見ると大半がヤクザや不良だった。

ヤクザはともかく不良とか金惜しみすぎだろ…。

呆れてため息をついていると、ダァン、と銃声。

見ると、KKの左腕から血が出ている。



「っ…!」

「…KKっ!」



止血をせねば、と思っても前に雑魚が群れているせいで行けない。

どけよ、どけよ!

随分と久々に何かがキレた音がした気がする。



両手の食器を次々に雑魚の額、目、口、喉、心臓、その他急所などに叩き込みながらなぎ倒していく。




気付けばその場に立っているのは、俺と社長だけだった。

社長は青ざめた顔で、信じられないとでも言いたげな目で俺を見ていた。

あと一人。と呟けばKKに向けていた銃を俺に向ける。



「ひっ…?!く、来るな、こっちに、来るなっ!」

「テメェがとっととこの場から消えろよ」

「ひぃっ!」



小さく悲鳴を上げたと思えばさっさと逃げ出した。

まぁ、そこで俺が逃がす訳ねぇけどな。

無様に逃げていく社長の左太腿に、ついさっき見つけたKKのアサルトライフルで一発撃ち込む。

後でしっかりと遊んでやろう、と思ってすぐにKKの事を思い出した。



「あっ、やべ」



早く止血しなければ、とKKを見ると、すぐ傍に白いガキ。

髪は真っ赤で、マフラーは灰色だがそれ以外は大体白。

誰だコイツ。

いや、そんな事よりコイツはKKに何してんだ。



「おいっ、何して」

「お前が止血すんの遅ぇから俺様が代わりにやってやったんだよ」



声をかけると不機嫌そうな声が返ってきた。

…聞いたことのある声だ。



「…MZD?」

「違ぇ」

「じゃあ誰だ」

「…………………」

≪何も考えて無かったとかバカだね憐≫

「うるせー」

「うぉっ」



いきなり子供の影が動いて喋りだした。

思わず後ずさりする。

俺の知る限り、こんな事出来るのはMZDだけの筈だ。

だが、この子供はMZDではないという。

じゃあ何モンだ?



「黙憐様だ」

「今の心読んだのか」

「神だからな」

「だが聞いた事ねぇ」

「当たり前だ。普段は空に住んでるからな」

「空ぁ?」



そりゃ初耳だ。

だが、神だというのなら嘘か本当かはMZDに聞けばいい。

それよりKKはどうした。



「KKは?」

「一応怪我は全部治した。つっても表面だけだからちゃんと病院連れてけよ」

「そ、うか…あー疲れた」



思わずその場に座り込んで大きくため息をついた。

物凄く疲れた。

今日はマジ頑張った。

そんな俺を見て、黙憐は皮肉そうに呟く。



「しっかし、よくこんだけの数を殺れたもんだな」

「一部生きてるけどな」

「…うわ、ホントだ」



ダメじゃねぇか、ちゃんと消しといてくれよ。

小さく、そう呟くとまだ息のある奴らを錫杖らしき物で潰していく。

そのたびに、小さな悲鳴が聞こえる。

思わず目を見張った。



「これで全部か?大分生きてたぞ」

「…お前、神じゃないのか」

「神だけどな、基本的に俺の仕事は必要のねぇ人間の削除だ」



どういう意味かは、分かるよな?

ニヤリ、と意地悪そうな笑みを浮かべて俺を見る。

グラサンでよく見えないが、きっと目は笑ってはいないのだろう。

思わず頷く。

その様子を見てから、黙憐は足を撃たれていまだもがいている社長の方へと向かう。



「…おい、アレは俺のだぞ」

「いーや、アイツは俺様が消してく」

「何でだ?」

「世界から削除依頼が来てるからだ」



世界から?

世界が、人を殺すか否か決めているのだろうか。

不思議な話だ。

この世界は神が創ったものだ。

この世界に住む住人は大体が知っている。

なのに、あの白い神は『世界から削除依頼』と言った。


どういう事なのだろう。


と、難しいことを考えていると眠くなってきた。

頭を左右に振って、目を覚まそうとするも、瞼は閉じていく。

くそ、寝てる場合かよ…。

そこで意識はぶった切れた。






「寝たか?」

≪ばっちりー≫

「じゃあ、魂、MZD呼んでやれ」

≪え、いいの?≫

「アレらはまだ世界が必要としてる」

≪ハイハイっと、じゃ、行ってくるけどくれぐれも暴れないでね≫

「分かってるって」



白い影は白い神から離れて、空を飛んでいった。

足を撃たれて動けない人間を、白い神は見下ろす。



「醜いなぁ」

「ひっ…!」

「心配すんなよ、足の傷くらい治してやるさ」



怯えに怯えた表情を見せる人間の足にフッ、と息を吹きかける。

ジュウウウ、と音を立てながら傷がふさがっていく。

それを見て人間はこういった。



「傷が…」

「どうだ、感謝しろよ」

「あ、ありがたい!そうだ、金なら幾らでも出すから私の会社に」

「それは別の話だ」

「え」

「つーか俺様、神だから金とかいらねーんだよ」

「いっ、ぎゃぁぁあああっ!」



ニヤニヤ、と笑みを浮かべながら、自分で治したばかりの左足を踏みつける。

膝の辺りから、バギッと嫌な音がして、その瞬間、叫び声が響く。

その悲鳴を聞いてもなお、笑みを浮かべたまま、バキバキと骨を折っていく。

叫び声はどんどん大きく、そして、小さくなっていった。



「あ?何だ、もう終わりか」



全身、骨を折られてぐったりとした人間を見て、白い神は舌打ちをした。

そこへ白い影が戻ってきた。



≪うわっ、エグい≫

「ん?魂、遅かったな」

≪うん、もっと早く帰ってくればよかった…なむなむ≫



無残な姿を見て、少し驚く白い影に何事も無かったかのように話しかける白い神。




≪あ、もうすぐ来るよ≫

「早っ」

≪ていうか来たよ≫

「早っ!」



その瞬間、白い神の後ろに神と黒い神が現れた。



「うわっ何だこれ」

「これまた随分と殺ったな、白憐」

「俺様違うし」

「え、じゃあ誰だよ」

「あそこで寝てる金髪」

「…AKかよ」

「あのおっさんでもキレるんだな」



神と黒い神は惨状を目の当たりにして驚く。

そして、その原因を白い神だと言い始めるが、白い神はそれを即否定し、AKを指差す。

AKがやったと言われた神と黒い神はまた驚く。



「KKは?」

「…あぁ、青い奴な、そっちは怪我してたから少し治してやった」

「…珍しいな」

「明日大雪じゃね?」

「待てコラ」



それ程までに珍しい行動をしたのか、と二人の神に問うと、した、と即答される。

返答を聞いて、少し不機嫌になった白い神は、全身骨折した人間を一瞬で消し炭にすると、その人間の魂を持って帰っていった。



「…あとはどうにかしろよ!」

「あ、逃げた…」

「これどうしろっつーんだよ…」

≪かみさま、ぼくもてつだうー≫

「かわいいなーでもお前はKKとAKを病院に連れてってやってくれ」

≪ぼくが?≫

「おう、俺らじゃあいつらでか過ぎて運べねぇから」

≪わかったー!≫

≪あ、自分も手伝う≫

「あれっ、魂」

「居たのか」

≪ぶっちゃけ3分の1は憐が殺した奴だし≫

「じゃあ三分の一は生きてたのか」

≪うん≫



≪こんーはやくー≫

≪え、ちょ、?ちゃん行動早っ!待って待ってー≫



「…めんどくせーけどやるかー」

「本当に面倒な証拠隠滅だな」




明るい満月の下で、そんな出来事があったことは双子と、3人の神しか知らない。






月夜の出来事
(あー肩いてぇ腰いてぇ)
(あと何人残ってんだ…)
(手伝うか?)
((?!))
(何だその驚き様…)
(おま、AKなんでここにっ!)
(怪我してねぇから追い出された)








――――――――――*
寄り道
目的と大分逸れましたが…まぁいいや
とりあえずAKさんキレさせたかっただけ
次はKKの活躍場面作りたいなぁと思いつつ
早く神計画進めようか

ここまで見て頂き有難う御座いました。


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