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耳に届いた

 


どこかで誰かが「助けて」と。

とても、とても、悲しみが篭った声で「助けて欲しい」と。








叫び声を聞いた。

小さいけれど悲痛な叫び。

「誰か助けて」と。

神である以上、何かを救うというのも仕事の一つだから。

普段人前に出る事の無い僕は動いた。

淋は物凄く心配していたけどね。



「どこだったかな…?」



この辺りだった筈。

周りを見回すと一面焼け野原。

家だったと思われる柱が何本か焼け残っているだけで。

地面は真っ黒、たまに人の手と思しきものが天に向かって伸びている。

何があったのだろう。

戦争でもしていたのかな。

地面に立とうと思ったら、それを淋が止めた。



≪玉露様、地に足をつけてはなりません≫

「どうして?」

≪先ほどまで燃えていたのでしょう、このまま地に足をつければ靴が溶けてしまいます≫

「別にいいんだけど…」

≪いいえ、駄目です≫

「…分かったよ」



仕方なく空中をスイスイと移動する。

するとかすかに泣き声が聞こえてきた。

聞いた瞬間、先ほどの叫び声の主だと、そう思った。

急いで声の主の下へと行く。



「泣いたのは、君?」

「…誰?」

「この世界の、神様、の一人」

「神様?本当に神様なの?」

「…うん」



肯定した瞬間、泣いていた子供…少年は涙で濡れきった顔を上げて、嬉しそうな顔で此方を見た。

そして少年は輝いた目で、こう言った。



「元に、戻して」



元に戻す?

何を。



「何、を?」

「僕の家を、街を、人を、パパを、ママを、妹を!」

「え」



無理な願いをされた。

ここで起きた事に神が関わっていたならまだしも、人が起こした事に干渉するのは神として許されない。

だから、人が死んでもそれが神の不注意でない限り、生き返らせる事は出来ないし。

神の不注意でない限り、物を戻すことは出来ない。

僕は、植物の神だから木々を生やす事は出来ても前のようにする事は出来ない。

あくまでも、木々を生やして、その成長を見守るだけなのに。

全知全能の神など、この世界には存在しないのに。



「それは、無理、かな」

「どうして?!」

「ここで、死んだ人は、そういう運命だったから」

「僕は!?どうして僕だけ生きてるの!」

「君には、まだ、運があったんだ、よ?」

「そんなもの、いらない、いらない!どうして、ぼくだけ!」

「生きて、みるといいよ」

「僕には何も無いのに!どうやって!」



喚くだけで、聞く耳を持たない少年に困っていると淋が出てきた。

何をするのかと思えば、少年の頬をいきなり叩いた。



「淋っ!」

≪申し訳ありません、つい≫

「だ、大丈夫?」



淋に頬を叩かれ、そのまま倒れた少年に声をかける。

少年の目には何も映ってなくて。

ただ生気の無い、黒い目が此方を向いた。



「僕は、生きたくない」



一言、呟いた。



「どうして?」

「妹も、パパも、ママも、家も、友達も、皆、無くなった」

「まだ、あるよ」

「無い」

「君が、居るよ」

「僕だけじゃ、意味がない」



生きる事を、希望を、何もかもを、諦めた目。

見ていてもどかしい気持ちになった。

どうにかして、この子を生かしたいと、そう、思った。

こんな気持ちは、初めて。

一先ず少年を起き上がらせて、その場に座らせる。

白い手を握ったまま、思ったことを言ってみた。



「じゃあ、僕と一緒に、来る?」

「…え」

≪って、玉露様!?宜しいんですか、そんな子供を!≫

「うん、このまま、消えるのを見ているのは嫌だから」

≪う…玉露様がそう仰るのでしたら…≫



淋は納得いかないみたいだけど、僕はそう決めたから。

ブツブツ言っている淋はほっといて、しゃがみ込んで少年と近い目線になる。



「僕の住んでいる島はね、とても綺麗な所なんだ」

「綺麗…何が、綺麗なの?」

「水も、空気も、植物も、動物も全部」

「人は、居ないの?」

「僕は、人が苦手だから」

「何故、ここに来たの?」

「何となく、かな。君の叫び声が、聞こえたから」

「僕の、叫び声?」

「助けてって叫んだのは、君でしょう?」



だから、助けにきたんだ。

『君』を。



その後は確か、少年は僕の手を取って、僕の島に来た。

それからだったかな、あの子が、僕の事を「玉露様」と呼ぶようになったのは。

多分淋の仕業なんだろうけど。



「キトお兄様はとても辛い思い出がおありなのですね」

「そう、だね。でも、今は、楽しそうだからそれで、いいと思う」

「はい、とても幸せそうです」

「ロザリー、君は、幸せ?」

「私は、とても幸せです」

「そっか、僕も、今はとても楽しくて、幸せ」





「あっ、また邪魔しないでよね!」

「だからこの島での狩りは一切許さないと言っているでしょう!」

「別に狩りしてる訳じゃないからいいでしょ!」

「銃を構えて動物狙ってる姿が狩り以外何に見えるんですか!」

「大丈夫!麻酔だから!」

「貴方は本当に何する気ですか!」




「本当に、楽しそう」




幸せなこの時が、もっともっと、長く続きますように。






耳に届いた
(キト、お茶にしよう)
(はいっ!)
(ダイも、ロザリーも、一緒に)
(おなかすいたー)
(私も、お手伝いを)
(ありがとう、これをお願い)








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玉露をキレさせようと思ったら
気付けば出会う話になってた不思議!
もうツッコミは入れたら負けだと思います

ここまで読んで頂き有難う御座いました。


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