PM | ナノ


お世話でござんした

 


辞世?誰がするかそんなもの。

奴を討ち果たすまで死ぬものか。

夢も、うたも、俺も、いらないから。

やつだけは。






から、ころ

下駄と地面がぶつかって音がする。

今は夏。

これから8月に入ろうかという7月末である。

別に暑くは無い。

一年中この格好の俺にとっては、季節は変わっても無意味なものになっていた。

風が通り抜ける。

マフラーが揺れる。

何をするでもなくただ歩く。

今日は何かあるという訳でも無し。



ただ、嫌な予感はするが。






今日こそ奴を見つける。

そう毎日意気込んでもう5年。

見つけたと思えばどこかにすぐ行ってしまい、捕まえる事もままならなかった。

今は所在すら分からない。

時期的にそろそろ見つけなければ面倒になる。

そう思いながら今日も愛用の銃と刀(他武器)を隠し持って外を歩く。



にゃーん カァー




…今日は何かありそうだな。







「寄るな」

「そう言うなよナカジ」

「仮にも教師だろ、授業をしてこい授業を」

「残念、俺様は今日の授業終わった」

「そもそも生徒にシュークリームなんぞたかるな」

「学長黙認してるし」

「知るか」



英語の時間、授業に集中してなかったとかで教師であるDTOにたかられる破目になった。

うざったい事この上ない。

朝から嫌な予感しかしない、そしてコレ以上に嫌な事がある。

さっさと帰ろうと思いとある話をする。



「駅前に新しいシュークリーム専門店が出来たらしいな」

「何?聞いてねぇぞ」

「今日オープンしたと聞いたが」

「ほー…そりゃ気になるな」

「ちなみに閉店時間が異様に早いのが特徴だそうだ」

「構ってる暇ねぇじゃねぇか!」

「さっさと行け」

「よしじゃあ一週間課題無しだな、じゃーな」

「別に有ろうと無かろうとどうでもいいんだが…」



むしろ増やされそうな気もする。

と言うか絶対増すだろう。


何せ、今行った事はただの嘘なのだから。


こうでもしないと奴はたかり続けてくる。

一般人は暢気で羨ましいな。

俺は、教室を出た時から異常なまでの殺気を感じているのに。

特に気にする素振りを見せず、家までの道を歩く。



家まであと少し。




 ― ……に…な…たい。



来た。

何度も何度も聞くこの声。

家を見張っているのかいつも家まであと少しの所で声がする。



 ― ナカジ…お前に、なりたい。



脳に直接響くような「音」。

もはや声じゃない、音。

うざったい、アイツの音。




 ― 今日こそ…成り代わらせてもらう…。


「無理だな、半身のお前に何が出来る」


 ― 半身であるからこそ…。


「…今日は相手をする気はない。失せろ」


 ― …………。


「失せろ」


 ― …懐かしい気配が…する…。


「…何?」



珍しく思っていたのかは定かでは無いが、去り際の言葉を聞いて、思わず聞き返す。

が、既にそこには何もいなかった。

不思議に思いながらも家へと向かう。



「随分、探したぜ」

「!?」



いきなり飛んできた殺気と言葉と斬撃に驚いたが、紙一重で斬撃を避ける。

一体誰かと顔を上げると見た事の無い顔。

ただし、兜には見覚えがあった。

もう何十年前の事で、記憶は薄れているが見間違いではない。

確かどこぞの義賊の長がしていた筈だ。

と言う事はコイツ、義賊か…。

冷静に判断しながら相手の攻撃を避ける。


一度距離をとって、話を聞いた方がよさそうだ。


そう考え、足に力を入れて思いっきり後ろに飛んだ。

全て避けられると思っていなかったのか、奴は唖然としていた。

塀の上に立って腕を組み、しっかりと奴の目を見る。

随分と物騒な目だ。

濁りの無い澄んだ目は、ギラギラと燃えていた。

何にせよ理由を聞いておこう、と思い口を開く。



「何者だ」

「…記憶にねぇ、ってか?」

「あぁ、無い」

「それなら、思い出させてやるよ」



どうやら覚えてないのが気に食わなかったらしい。


人とは不可解だな。

まぁ、別段分かりたくもないが。


などと考えながらため息をつくと、どこから出したのか、銃を手にし発砲した。

サイレンサー付きで音はそれ程でもなかったのだが、反応が遅れ、銃弾が頬を掠めていった。

掠って出来た傷からはつぅ、と血が一滴。

手の甲で軽く傷を擦る。

こうすれば大体傷は消える…のだが。



「………わざわざアレを調べたのか」

「鬼は半不死身って聞くからな。だが弱点さえ分かれば後は楽だ」

「余程の執念だな、鬼の弱点などこの世界の神くらいしか知る筈も無いだろうに」

「それ程までに貴様を殺してやりてぇんだよ」



憎悪の殺気が体を貫く。

人間とはいえ、ここまでの殺気を持っているのは珍しい。

ただ一つ、分からない事があった。

予想はしているが出来れば当たっていて欲しくない。

そう考えながらも、俺は問うた。



「一つ分からない、何故怨み憎む」

「…本気で、忘れたってのか?」

「さぁな、記憶にあるか無いかは聞いてからだ」

「…貴様は、俺の目の前で俺の父を、友を、部下を、全てを殺した」



驚いた。

そんな事は記憶に無い。

そもそも俺は人間など殺しはしない。

殺した所で何の得も無い上に、もし何か得があろうとその為に己が手を汚したくない。

どうやら予想は的中してしまったようだ。

半身に対しての怒りを腹の底に沈め、冷静を装う。

ここで感情を出しては何かしら誤解をさせかねない。

無表情のまま、ため息をつく。



「悪いが、それは俺じゃない」

「貴様だ、あの時確かに俺は見た」

「…何を見た」

「顔と左足の刺青」

「よくそこまで見れたな」

「一回だけ俺様も殺られると思って下向いたからな」

「なるほど、だがそれは俺じゃない」

「言い逃れしようってか?」

「違う、足を見ろ足を」

「…足?」



やはり奴が見たのは半身らしい。

以前、俺の両足にはツタの様な痣があった。

刺青などではなく生まれつきの痣なのだ。

だが、ある時「俺」と「アイツ」…ナナシに分かれた時に痣も片足だけに残った。

ナナシにも左足だけに痣が残っているのは確認済みだ。

塀から降りて不思議そうな顔をしている奴に、裾を少しあげ左足を見せる。

案の定、かなり驚いた顔で俺の顔と左足を交互に見ている。

納得したのか少し頭を軽く掻いてばつが悪そうにしながらも頭を下げた。



「…その、悪かった」

「気にしてない。それに大体は想像出来てたからな」

「まさかここまで瓜二つな奴が居るとは…」

「瓜二つと言うより俺の半身だしな」

「…は?」

「何が原因かは知らないが、ある日いきなり俺とアイツ…俺はナナシと呼んでるが、1つから2つに分かれてな」

「つまり…どう言う事だ?」

「つまり、お前の目の前で殺したのは俺の半身であるナナシだって話だよ」

「お前が指示したとかじゃねぇよな?」

「…俺が人間なんぞ殺して何の得がある」

「それもそうだよな…じゃあ、あれか?その半身とやらの気分で、殺されたって言うのか?」

「そうなるな」

「ふ…、っざけんな!何で!何で俺以外だったんだ!俺じゃなかったんだ!」

「アイツ性悪だからな…丁度いい、今なら奴もでてくるだろ」

「…何?どう言う事だ?」



訳が分からない、と阿呆面している奴は無視して空へと呼びかけてみる。

大方、近くで盗み聞きでもしている筈だ。

…案の定、1分と経たない内に姿を現した。



「さっきは相手をする気はないと言ったが、気が変わった」


 ― 懐かしい、元気にしてたのか。


「貴様…!よくも、壊してくれたな!」



ナナシを見て歯止めがきかなくなったのか、刀を大きく振り上げナナシに斬りかかろうとする。

しかし刀も体もスッ、とナナシを通り抜けた。



「…?!一体どうなってやがる…!」

「オイ、無駄な事をするな」

「どうすればアイツを攻撃出来るんだ!」

「だから落ち着け。今のアイツは精神だけで浮いてる状態だ。だからこの世界中のどこかに奴の本体が寝てる筈なんだよ」

「…世界中だと?」

「あぁ、何せこの技は範囲が広いからな」

「つまり、本体を見つけて叩かねぇ限り俺様の攻撃は効かねぇって事か?」

「そう言う事だな」

「…………」

「あからさまに嫌そうな顔をするな、俺も面倒だが仕方なく探してんだよ」

「ちっ、それなら仕方ねぇ…名前は何て言うんだ?」

「まず己から名乗る事だな」

「……マサムネだ」

「そうか、俺はナカジだ。…で?」

「今日から俺様もお前と一緒に行動させてもらうぜ!」

「…………ちょっと待て、どう言う事だ」



いきなりの事に驚きを隠せず、少々焦りながら聞き返す。

と、マサムネは清々しい笑顔で答えた。



「どうせ奴を見つけるって目的は同じなんだ、それなら一緒に行動した方がいいじゃねぇか」

「…理屈は分かるが」

「それに俺様、帰りの金がねぇからな」

「本心そっちだろうお前」

「……そんな訳、ないだろ」

「嘘付け」



何故かその日から俺の家に居候が一人増えた。

だから嫌な予感がしたんだ…。




お世話でござんした
(…もしかしてこの荷物…)
(世話になるぜ!)
(出て行け!)








――――――――――*
よし頑張った。
これにて我が家にギラギラ追加。
設定に関してはもう1話書いてから。
にしても、ナカジ何があったし←書いた人
いや、本気で何があったの。
人外だなんて…公式人の中で初めてです。
そして何故かナナシ悪者ごめん。
マサムネも何かごめん。
タイトルが誰に対してなのか、それは本人のみぞ知る。

ここまで読んで頂き有難う御座いました。


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