冷たい目
騒ぐ声と何かが割れる音、ついでに誰ぞが押し潰された声らしいが聞こえる。今、自身が居る場所は地下室。愛すべき人形たちと、試作の二人のメンテナンスをしている所である。眉間に寄った皺に気付いた試作の一人が心配そうに声をかけてくる。
「…あの、シジズモンド様」
「……あぁ、大丈夫ですよ兎紀」
「ですが」
「はあ、私は入っていいとも茶を飲んでいいとも言っていないのですが」
「んじゃあオレが潰してこよーか?」
「無駄ですよ。お前達では逆に壊されるのがオチです。それは困ります」
「そっかー。あれ?でもシャルが上に居なかったっけ?」
はっとする。予想が合っているなら今上に居るのはあの男とその部下。コレクション一のお気に入りであるシャルロットは、確か茶菓子を作ってくれている筈だ。まさか破壊したりはしていないだろうか、と足がそわそわ落ち着きなく揺れる。
上の喧騒はいまだ健在。気になるがその前に今やっている子のメンテナンスを終わらせなくては、と逸る気持ちを抑えながら手を動かす。もし傷一つでもつけられていたらどうしてくれよう。
「…殺しましょう」
「えっ」
「…了解しました」
「え?ええ?兎紀もジズ様もナニ言っちゃってんの?」
「嫌なら、尚規は来なくても…良いよ」
「いや、ほら、イヤとかいう問題じゃなくてさ?」
つい漏れてしまった本音を命令と受け取ったのか、火炎放射器を構える兎紀。此方としてはそれをやられても困るので制止しておく。先ほども言ったが、この二人、ましてや片方だけで挑むなど自ら壊してくれと言っているようなものなのだ。それも困る。試作として作ったはいいものの、思ったよりも上手く出来ていて大事にしたい二体なのだから。
メンテナンス用の道具を置いて一呼吸。
「兎紀、それを使われては屋敷がなくなってしまいます」
「…あ……申し訳ありません」
「じゃあオレの」
「尚規もです。そんなもの振り回して人形に当たったらどうするんですか」
「…はーい、分かりましたよーっと」
「じゃあ行きましょうか」
二人を連れて、上の階へと足を踏み出した。瞬間、大きな揺れと爆音。さっと顔から血の気がなくなるのを感じつつ、急いで階段を駆け上る。階段を上りきった先には、玄関だった筈の壁と扉は無くなり、床にも大きな穴の出来た空間があった。一体何をどうしたらこうなるのか軽くても5時間ほど問い詰めたい。
俯いて怒りに震えていたが、この光景を見てどうでも良くなった。とりあえず殴っておこう。顔を上げると、隣で心配していた兎紀が小さく悲鳴を上げていたが気にせずに、時折爆音の聞こえる方へと歩み出す。
「……兎紀、今のジズ様ってちょー怒ってるね」
「…そうだね。シジズモンド様の為にも、地下に避難しておこう…」
「おー」
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