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服とは何だったのか

 


「…暑くね?」


ぶ厚いコートを着込んだ少しくたびれかけのおっさんに声をかける。その言葉に足を止め、怪訝そうな顔で自分を見つめるおっさん、もといMr.AK。いつも見ている筈の顔は血の気がなく、少し青白い気がする。
今は蝉がうるさく鳴く夏真っ只中。しかも昼。建物の影に隠れた路地裏で日に当たらないだけマシとはいえどう見てもどう考えても暑い。見てるこっちが。


「……は?」

「いや、だから暑くねぇの空兄」

「別にー」


いつもと様子が違う、気がするのは服のせいか、暑いせいか。暑さにやられてるだけなら良いのに。主に空兄が。
手を一振りして歩き出す空兄の後ろを早歩きでついて回る。服のせい、暑さのせいと決めつけても拭いきれない違和感に首を傾げながら歩を進めた。


「…あんなー、いつまでついてくんのよ?」

「いやだって…空兄ってこんなだったかなって」


暫く歩いたところで空兄が痺れを切らしたのか、自分に振り返って問う。どれだけ考えても違和感が無くならない。本当に空兄なのか疑いたくなるほどに。


「じゃー、どこがんなに違和感なのか言ってみ?」

「えー…どこって言われても困る」


頭からつま先までまじまじと眺める。確かに顔色は良くないし、着てる服はいつもの長袖よりも分厚くて暑そうだし、なんていうかよく分からないけど違和感があるし。うーん、と悩んでいれば後ろから聞き慣れた声。


「おー、まっくんなーにしてんのー」

「……あれ、空兄?」


考え事に夢中になり過ぎて、誰かがいた事に気付かなかった。ついでに言えば目の前にいる空兄が何をしているのかも気付かなかった。
振り返ればいつものくたびれた感じの漂う空兄が居た。血色も大分良い。あれ、じゃあ目の前にいるのは一体誰だ?ぶいん、と聞いたことのない小さな音が耳に入る。また振り返ろうとする前に、血色のいい空兄が叫ぶ。


「…、蒔!今すぐこっち来い!」




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