歩きながら髪だけは手櫛でささっと直す。と言っても片腕は今剣に掴まれているから、頭も片側だけ微妙に梳かせなかったけど。
 
 あくびを連発しながら長い廊下を進むと、がやがやとした大勢の話し声がだんだんと大きく聞こえてきた。
 本当、みんな朝から元気だな。
 
「あるじさまつれてきましたよー!」
 ようやく食事会場に辿り着いたところで、今剣が声を張ってみんなに私の到着を告げた。
 別にわざわざ知らせなくてもいいのに。こっそり食べてこっそり戻って二度寝したいのが本音なんですけどね。
 すると、今剣の声にその場にいた全員が一斉にこちらを振り返り、
「主、おはようございます」
「おっはよー主!」
「主君、おはようございます」
 とかいろいろ私に挨拶してくれた。
 毎回思うんだけど、朝からこれだけの人数が集まっていると、なんというか合宿とか修学旅行感が半端ないわ。
 私は適当におはようと返しつつ、今剣に手を引かれて今日の自分の席らしい場所を目指した。




 最初の頃に比べるとずいぶんと人数も増えたと思う。今は確か5、60人くらいいたっけ? はっきり覚えてないんだけどさ。
 それだけいると、いくらこの本丸が広くても一所に全員集まるにはもうこの大広間しかない。何畳あるか知らないけど、会社の慰安旅行で行った旅館の一番大きな宴会会場くらいは優にある。
 席は特に決めてはいないんだけど、やっぱりみんなは同じ刀派だったり、元の主人が同じ者同士で集まっていることが多いらしい。まあその方が気が楽か。
 一方私の席はというと、毎回強制的に決められている。いつだったか、私と一緒にごはんを食べたいと短刀たちに言われ、何も考えずに軽く了承したら食事の度に私の取り合いになった。正直言ってこの上ないほどめんどくさかった。だからこれまた適当に、ジャンケンでもくじ引きでもいいから事前に決めておいてよ、と言ってしまってから今のこの状況に至る。
 大抵は短刀の隣を確保されているんだけど、たまに脇差やら打刀やらも混じって決めているらしい。それどころか、時々太刀とか槍とか大太刀の隣にもなるから、お前ら子供に混じって何やってるんだよ、と言いたくなる。


 そして今日は今剣の隣。ということは必然的に三条連中と一緒というわけだ。
「あるじさまはここですよ」
 言われた場所に腰を下ろすと、私の右隣に今剣が座った。
「主は寝坊かぁ?」
 がははと豪快に笑う左隣の大男は岩融。朝からよくもまあこんなでかい声が出るわ。
「はっはっは。俺は起きてからすでに3時間は経っているぞ」
 呑気に笑うのは正面の三日月宗近。朝4時起きとかマジでじじいじゃん。
「主はきっと疲れているんだよ。昨日まで向こうの仕事をしていたのだからね」
 唯一気遣ってくれたのは右斜め向かいの石切丸。そうだ、もっと言ってくれ。私は疲れてんだよ。
「ぬしさま、御髪が乱れております。後で私が梳いて差し上げましょう」
 左斜め向かいの小狐丸に言われて、さっきいまいち梳かせなかった片側の髪に手櫛を通した。こう、いかにも私のため、みたいに言いつつ自分にもブラッシングしてもらおうって腹だろうな多分。


 長テーブル――じゃなくてどっちかというと長方形のでかいちゃぶ台――に目をやると、美味しそうな朝食がほかほかと湯気を立てていた。白いごはんと味噌汁と焼き魚と……王道の日本の朝ごはん。普段はパンやおにぎりを頬張りつつ慌ただしく支度をしているから、こうやってゆっくりちゃんと食べれる朝ごはんは素直に嬉しい。

 ほぼ全員集まっているとはいえ、さすがに小学生の給食の時間みたいに全員で一斉にいただきますなんてことはしない。それぞれの事情もあるし人数多いしでタイミング合わせるの難しいから――ってのもあるけど実際は私がめんどくさがったから――準備ができた人からそれぞれ食べ始めて良しとしている。
 三条の5人は私が来るのを待ってくれていたようで、一緒にいただきますと手を合わせた。
 最初に味噌汁に口を付けると思わず、
「うっわ、うま」
 と感嘆の声が出た。だしがきいていてものすごく美味しい。高級料亭の味みたい。食べたことないけど。
「今朝の味噌汁は歌仙が作っていたようだぞ。……うむ、確かに美味いな」
 三日月が教えてくれたので、この部屋のどこかにはいるであろう歌仙を探してみたけど、ごちゃごちゃとしていて結局見つけられなかった。まあいいや、後で褒めてあげよう。



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