【千利休】



「あ、今日はあんたの方なんだ。ちょうど良かった」
 彼女は少しほっとしたように息を吐いた。話しかけられたサビ助は、うるさそうに顔をしかめた。
「ああ? 己に何か用か?」
「うん、ちょっと」
 そう言って彼女はごそごそとバッグを漁ると、中から可愛らしい包みを二つ取り出した。
「はいこれ。バレンタインだからチョコあげる。あっちのあんたにも渡しといて」
「……あっち、ねぇ……」
 サビ助は受け取った包みをまじまじと見つめた。二つとも同じ物らしいそれは、どうやら彼女の手作りのようだ。
「わざわざ二つ用意するなんて、御前も変に律儀だな」
「変に、ってなによ。だって、片方にだけ渡してもう片方に恨まれるとか嫌だし」
「義理で恨むほど己は暇じゃねぇよ。あいつは知らねぇけどな」
「……そう」
 彼女はサビ助にわからないよう、小さく頷いた。その表情は、満足したようなそれでいて少し寂しさも含むような、複雑なものだった。
「ま、これはありがたく貰っていくぜ。じゃあな」
 そんなことには気づく様子もなく、サビ助は軽く手を挙げて去っていった。


「……ん? これは……?」 
 ワビ助が目を覚ますと、目の前に見覚えのない包みがあった。その隣に、サビ助の字でメモが置いてある。
『あいつから己等にだとよ。義理にしては美味かったぜ』
「……彼女から? ……っ!」
 何気なくそれを手に取ったワビ助の瞳が、かっと見開かれた。すると瞬く間に、ワビ助は顔を真っ赤に染め上げた。
「……何が義理だよ……サビ助の馬鹿……!」
 離れていてもはっきりと伝わるほど、彼女の想いはしっかりとチョコレートに込められていた。



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