【足利義輝】



「其の方、この次はどうするのだ?」
「んーと……じゃあ……」
 楽しそうに顔を輝かせる義輝に、彼女は次の手順を教えてやった。
 バレンタインに手作りのチョコレートをあげる、と彼女が話したところ、自分もやりたいと義輝が言い出し、結局こうして二人でキッチンに立っているところだった。
「菓子作りもなかなか奥深いな」
「そう? 時間も手間も掛かるし、慣れてないと面倒でしょ?」
「うむ、確かにな。だがそれが面白い」
「ふーん」
 義輝は見るものやること一つ一つに興味を示す。その世間知らずぶりに呆れながらも、彼女は義輝の質問に丁寧に答えてやる。そうして雑談をしながら、二人はいくつも菓子を作っていった。

「……うん、こんなものかな。じゃあ、食べようか」
 出来た菓子をテーブルに並べ、二人で向き合って座った。早速、義輝がそのうちの一つに手を付けた。
「――うむ! これは美味いな!」
「……あ、本当だ。美味しい」
 彼女も満足そうに笑う。互いに微笑み合っていると、ふと義輝が真顔になって呟いた。
「……これまでに食べたどの菓子よりも、其の方と作った今日の菓子の方が美味いと思う。……其の方はこの理由がわかるか?」
「自分で作ったからじゃない?」
「……職人ではなく、素人の予が作ったものだから、か?」
「うん。自分で作ると、なんでも美味しく思えるものだよ。あとは一緒にやったからかなぁ」
 彼女は手を休めることなく、菓子を食べ進めている。義輝との会話にはあまり気を置いていないらしい。
 一方の義輝は、手を止めてきょとんと目を丸くしていた。
「……一緒?」
「そうそう。一緒に作って、一緒に食べてるでしょ? 一人よりも二人の方が、断然美味しく感じるのよ」
 彼女の言葉に、義輝の瞳はますます輝きを増した。
「そうか、其の方と一緒だからか!」
「うん。あと愛情も入ってるしね」
「其の方の愛情は素晴らしいな!」
「……冗談なんだけど……真に受けないでよ」
 頬を染めた彼女を余所に、義輝は無邪気な笑い声を上げた。



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