【風魔小太郎】



 彼にバレンタインのプレゼントを渡そうと決心したものの、肝心の彼がどこにいるのか、彼女には皆目見当もつかなかった。
「いつもいきなり現れては、すぐに消えちゃうからなぁ……」
 彼の消息を辿る手掛かりは何一つない。彼女はただ、以前に出会った場所で、また彼が現れてくれることを願うのみだった。

「……寒っ」
 同じ場所で待ち続けて早数時間。屋外で長居するにはまだ厳しい季節。彼女は寒さに体を震わせた。
 頭上で大きな黒い鳥が一羽、静かに羽ばたいたのだが、彼女は微塵も気づかなかった。

「……やっぱりそう簡単に会えるわけないか」
 すっかり凍えてしまった彼女は、もう諦めようと立ち上がった。連絡先くらい聞いておけばよかった、と今さら後悔してももう遅い。
「『  』さん、どこにいるんだろ……」
 ふと口をついた彼の名前。
 ――その時だった。突然、一陣の風が辺りに吹き渡った。周りの砂埃が巻き上げられて、彼女は咄嗟に顔を覆い目を瞑った。
 この季節にしては不自然なほどに暖かい風だった。


「――あれっ!?」
 風が吹き止んで目を開けると、手に持っていたはずのプレゼントがなくなっていた。
「え、嘘……もしかして今の風で飛んで行っちゃった……?」
 慌てる彼女の足元に、黒い羽根が一枚、ふわりと舞い降りた。



 彼女が彼と再会するのは、それから1か月後のこととなった。



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