【松永久秀】



 久秀の細長い指が、箱型の包装紙をゆっくりと解いていく。彼女はその様子を緊張しながら見つめていた。
「そんなに見られているとやりづらいのだが」
「……あ、ごめんなさい」
 注意を受け、一瞬反省の色を見せるも、彼女の視線は相変わらず久秀の指を追っている。久秀は小さくため息を吐き、諦めて作業に戻った。破かないよう綺麗にラッピングを剥がし、蓋を開けると、一口大のチョコレートがたくさん詰まっていた。
「……手作りかね?」
「うん。口に合うかわからないけど……」
 彼女の言葉を聞いているのかいないのか、久秀はチョコレートを一粒つまむと、おもむろに彼女の方へ差し出した。
「君が先に食べたまえ」
「え?」
「毒見だよ、毒見」
「毒見って……別に変な物は入れてないけど」
 不服そうに口を尖らせる彼女に、久秀はさらにぐいっと手を突き出す。
「早くしたまえ。溶けてしまうだろう」
「……わかったよ」
 彼女は渋々口を開いて、久秀の手からチョコレートを食べた。一緒に指まで食べてしまいそうになり、慌てて顎を引く。
「……うん、我ながら美味しい。というか、そもそもちゃんと味見して作ってるんだけど」
「ふむ、そうか」
 拗ねる彼女に、久秀はなぜか満足そうな笑みを浮かべた。
「では、私はこれを貰おうか」
 久秀の腕が彼女の口元へと伸びる。その指は唇をなぞり、わずかなチョコレートを乗せて久秀の口へと消えた。
「――っ!?」
「……ああ、悪くないな。どれ、もう一つ」
 久秀は意地悪な笑みを浮かべ、また一つ、また一つと彼女に強引にチョコレートを差し出した。



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