【竹中半兵衛】



「……参ったね」
 半兵衛の一言に、彼女は固まった。受け取って貰えないかもしれないと思ってはいたけれど、勇気を出して渡したチョコレート。でも、いざ本人を目の前にして断られるとなると、さすがにショックが大きかった。
「……すみません」
 泣きそうになるのを堪えて謝ると、半兵衛が深いため息を吐いた。
「うーん……予定とは違うけど、しょうがないか」
 そう残して半兵衛はどこかへと行ってしまう。彼女はその背中を縋るように見つめ続けた。
 

 ――しばらく経っても半兵衛は一向に戻ってこない。呆然とした彼女が諦めて帰ろうとした時、半兵衛がコツコツと踵を鳴らして戻ってきた。――その腕には、鮮やかな花束が抱えられていた。
「……本当は僕の方から渡したかったんだけど。君はなかなか僕の策通りには動いてくれないね」
「……え?」
「ほら、向こうの国では男性から女性に花を贈るものだろう?」
 彼女はまだ状況がわかっていないようだ。ぱちぱちと何度も瞬きをして、半兵衛の腕の花束を見つめている。
「はぁ……君も鈍いね。これ、君のために選んだんだよ。バレンタインのプレゼント。受け取ってくれるかい?」
 柔らかく微笑んで、半兵衛は彼女に花束を差し出した。彼女はようやく意味を理解したらしく、赤い顔を隠すように、受け取った花束に顔を埋めた。
「……ありがとう……ございます……」
「どういたしまして。こちらこそ、チョコレートありがとう」
 半兵衛がチョコレートをかじる音が、彼女の耳にやけに大きく聞こえた。



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