【柴田勝家】
「すまない。これは受け取れない」
深く丁寧に頭を下げて、勝家は女からのプレゼントを断った。深い意味のない、いわゆる義理チョコのつもりだった女は、勝家に懇切丁寧に断られたことに怒って、文句を言いながらどこかへ行ってしまった。
「……はぁ」
勝家は重いため息を吐いた。
――これで何度目だろうか。義理だろうと気持ちが入っていなかろうと、チョコレートを貰えることは素直にありがたいと思う。断ることに罪悪感が無いわけでもない。それでも、どうしても受け取れない理由が勝家にはあった。
「……やはり……私ではないのか……」
失意を滲ませて振り返ると、勝家の目に、待ち望んだ彼女の姿が映った。
「……あ」
彼女は手に小さな包みを抱えていた。勝家の視線が自然とその包みへ注がれる。
「え、えっと……ごめんなさい。さっきの見るつもりはなかったんだけど……あの……チョコレート……みんなの、断ってるの?」
彼女は、おどおどと視線を彷徨わせながら勝家に尋ねた。
「……ああ。今日は誰からも何も受け取っていない」
静かに告げる勝家の言葉に、彼女の指先が細かく震える。
「そっか……じゃあ、私もやめておくね。……これ、渡そうと思ったんだけど、迷惑ってことだよね。……ごめん」
「――ち、違う! 待ってくれ!」
勝家は逃げ去ろうとする彼女の腕を咄嗟に掴んで引き留めた。
「話を聞いてくれ! 私は……私が今まで女性からの贈り物を断っていたのは――」
背を向けたままの彼女に届くように、勝家は大きく息を吸って続けた。
「――あなたからのチョコレートが欲しかったからだ。あなたが、今年は本命のチョコレートだけを用意すると言っていたのを偶然聞いてしまって……渡す相手が、私であればいいと思っていた」
彼女の耳がぴくりと動いた。恐る恐るこちらを振り返る彼女の瞳を、勝家はまっすぐに見つめた。
「……だから、それ以外の物はいらないと思った。あ、あなたからの……その……」
彼女と見つめあっていることに気づき、急に気恥ずかしくなった勝家は、顔を真っ赤にして口ごもってしまった。
彼女は目を丸くして、それから負けじとこちらも顔を赤くした。
「そっ……か。――うん、ありがとう。……あの、これ、受け取ってください」
両手でしっかりと差し出された包みを、勝家は瞳を輝かせて受け取った。
二人は真っ赤な顔をして、しばらく互いに俯いたままだった。
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