【島左近】



「お、今年も大量だね」
 左近の机にはたくさんの菓子が積み上げられていた。山になったそれを、左近は口を尖らせて見つめている。
「どう見ても全部義理だろ……女子たちが全員にまとめて配ってんだよ」
 確かに、よく見れば市販の小袋の物ばかりだ。彼女は何気なくその内の一つを手に取った。
「あ、これ食べたい。ちょうだい」
 左近の返事を待つよりも先に、彼女はすでに袋を開けている。
「おー……好きなだけ食っていいぞ」
「マジで? やった」
 ポリポリとチョコレートを頬張る彼女。左近も適当に掴んだ菓子を口に放り込んだ。
「あーあ、俺も本命チョコが欲しい……」
 ぼんやりと空中を眺めながら、左近が何気なく呟いた。と、もごもごと口を動かしながら、彼女がバッグの中から何やら取り出した。
「ん。あげる」
 左近に差し出したのは、綺麗にラッピングされた箱。目の前の光景に、左近は目を丸くして何度も瞬きを繰り返した。
「――えぇ!? お、俺に!? これ、くれんの!?」
「うん」
「マジかぁ! おお……ついに俺にもこの時が……」
 左近は受け取った箱を頭上に上げて、拝むようなポーズを取った。
「そんなに?」
 彼女は笑いながら、左近の机の上の菓子をもう一つ開ける。
「しょうがねぇだろ! こんなちゃんとしたもの貰ったの初めてだっつーの! ……と、ところで……これって本命……ってこと、か?」
 恐る恐る聞いてみても、彼女は笑うばかり。何気なく箱をひっくり返してみると――左近の顔色が変わった。
「――って! 何だよこれ! 結局義理かよ!」
 箱の裏には、ペンで大きく『ギリ』と書いてあったのだ。彼女は思いきり噴き出した。
「あははは! 私があんたに本命あげるわけないでしょ! ほんと面白いんだから!」
「……くっそ……俺を弄んで楽しいかよ……本気で期待しちまっただろ……」
「ごめんって……ふふ」
 いじける左近をひとしきり笑ってから、彼女はじゃあね、と先に帰っていった。去り際に、左近が貰った菓子をしっかりと一握り掴んで。

「――ったく、なんなんだよ」
 ぶつくさと文句を言いながら、左近は彼女から貰った箱の包装を破いた。すると、見るからに高そうなパッケージに、左近でも知っている有名なブランドの名前が刻まれていた。中身は可愛らしいハート型のチョコレートだ。
「……は? これって、義理……なんだよな?」
 左近は混乱して、彼女が帰ってしまった方向と手元のチョコレートを何度も何度も見比べた。



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