【長曾我部元親】



「いつも悪ぃな。気遣わしちまってよ」
「いや、逆にこんなものでごめんねって感じだけど」
 元親は彼女が両手から下げていた大きなレジ袋を受け取った。毎年のことだが中々の重量だ。今度からは荷物持ちに迎えに行った方がいいか、などと考えていると、袋の中身がいつもとは少し違うことに気がついた。
「ん? なんだこりゃ」
 市販のチョコレート菓子の他に、飾り気のない板チョコや小麦粉、卵などが入っている。
「ああそれ? さすがに毎年市販のものだけじゃあれかなーと思ってさ。今年はちょっと作ってみようかなって。その方が安いし、いっぱいできるからね」
「へぇーえ……あんた、料理できんのか?」
「失礼だな。人並みにはできるって」
 彼女は少しだけむっとして、早速腕をまくった。
「さて、やるか……あ、ちょっとは手伝ってよね」
「おう。……野郎共も、あんたのお手製のチョコが食えると知ったら喜ぶだろうな」
 元親はチョコレート菓子の袋を次々と開けて器に移す。
 バレンタインデーは毎年、チョコを貰うあてのない野郎共と一緒に過ごすのが恒例となっていた。それを知った彼女が、可哀想だからとチョコを差し入れてくれたのだ。市販のものだろうとお徳用だろうと、女子からのチョコであることに変わりはなかった。
「……ねぇ、どんなのが好き?」
 彼女がぽつりと呟いた。が、元親がバリバリと袋を破る音に掻き消されてしまう。
「あ? なんか言ったか?」
「……何か食べたいもの、ある? そう凝ったものはできないけど」
 材料を並べ、準備をしながら、彼女は先ほどよりも気持ち程度に声を張って尋ねた。元親は手を止めて、彼女の方を見つめた。
「食べたいもの、ねぇ……俺は菓子には詳しくねぇからなぁ……。あ、そうだ、あんたの得意なもん作ってくれよ。それが食いたい」
「……うん、わかった」
 彼女は小さく頷いた。

 しばらくすると、部屋中に甘い匂いが漂ってきた。思わず元親の腹が鳴る。しかし、野郎共が来る時間はまだ先だ。
「腹ぁ減ってきたな……」
 目の前のチョコをつまもうと手を伸ばすと、いつのまにか隣にいた彼女に手の甲を叩かれた。
「皆が来るまではだめ。――その代わりにほら、これ食べなよ」
 差し出された皿には、綺麗に盛り付けられたチョコレートのお菓子。元親にはそれが何なのかはわからないが、ぱっと見ただけでも手の込んだものだとわかった。
「……これ、一人分しかないから、皆が来る前に食べちゃってね」
 彼女はそれだけ言うと、またぱたぱたとキッチンに戻っていく。残された元親は目を丸くして、眼前のチョコレートをしばらく見つめた。
「――ちょ、ちょっと待てよ!? まさかこれって……そう、なのか……?」
 彼女の真意を察したらしい元親は、ばれないようにこっそりと赤面した。



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