【猿飛佐助】



 両手いっぱいのチョコレートを落さぬよう、佐助はゆっくりと慎重に歩いていた。ふと正面に目を凝らすと、親しい彼女がこちらに向かって歩いてきていた。
「はぁ……こんなにいっぱい食べきれないっつの……ったく、俺様ってばモテモテじゃない?」
 すれ違いざまに彼女に話しかけた。わざとらしくため息を吐き、ちょっと困ったような顔をしてみせる。
「へぇ、すごいじゃん」
 彼女は素直に驚いたようだ。立ち止まって、佐助の抱えるチョコの山を物色する。
「うっわ、ブランド物も結構あるし。高そうだなー……あんたにはもったいなくない?」
「いやいや、俺様だからくれたんでしょー」
 いつものように軽口をたたき合っていると、ふいに彼女が口をつぐんだ。
「…………」
「ん? ちょっと? どうしたの」
「……そんなにあるんだったら、私のはいらないよね」
 一人で納得したように呟くと、彼女は佐助に背を向けて歩き出した。今度は佐助が驚く番だった。
「――はぁ!? え、うっそ、チョコあるのかよ!? ちょ、ちょっと待てって! おーい!」
 追いかけようにも、抱えたチョコが邪魔で思うように走れない。じたばたとしている内に、ついにチョコの山は雪崩のように崩れ落ちてしまった。幸いだったのは、崩れ落ちた音のおかげで彼女がこちらを振り向いたことだ。
「……何してんの」
 立ち止まった彼女は、憐れむように佐助を見下ろしている。佐助は落ちたチョコを拾うのをやめ、小走りで彼女に近づいた。
「チョコ! あるなら早く言えよ!」
「なんで? あんなにいっぱいあるんだからもういらないでしょ」
「あれじゃ全然足りないっつの。あー、知らなかった? 俺様、すっごいチョコ好きなの」
「さっきはこんなに食べきれないとか言ってたくせに?」
「……っ! あ、あれは冗談だって! もう全然余裕で食えるっつの! むしろ一日で食べ尽くすね! だからほら……俺様の分、あるなら早く寄越せよ」
 催促するように手を差し出すと、彼女は訝しげにしながらもバッグから小さな包みを取り出した。
「わかったよ……はい」
「……おう」
 なんとなく照れくさくなって、佐助はぽりぽりと頭を掻いた。仕方なく渡したはずの彼女の頬も、わずかに赤く染まっているように見えた。



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