【片倉小十郎】



「――おい。こんな人気のない所に呼び出して、一体何の用だ」
 低い声で眉根を寄せる小十郎は、明らかに機嫌が悪かった。
「ご、ごめんなさい……」
 慌てて謝る彼女は、後ろ手に何かを持っている。綺麗な色の小さな包みだ。
「言いたいことがあるなら早く言え。俺は早く政宗様の所へ行かないといけねぇんだ」
 小十郎の眉間の皺が一層深くなる。緊張ゆえか、それとも眼前で凄みを利かせている小十郎への恐怖か、あるいはその両方か――彼女は小刻みに体を震わせていた。これではどう見ても、小十郎が彼女を脅しているようにしか見えない。
「……あの……これ……!」
 深い深呼吸をして、彼女がおずおずと後ろに隠していた包みを差し出した。
「今日、バレンタインだから……受け取ってもらえませんか?」
 声は震えていたけれど、その言葉は確かに小十郎の耳に届いた。が、全く予想だにしていなかったのか、小十郎は茫然と彼女の手の中の包みを見つめるばかり。
「……あの?」
「――っ! あ、ああ、悪い。そういう用件だとは思わなかった。……そう、だな。これはありがたく貰っておく」
 そっと包みを受け取ると、彼女はさっきまでとは別人のように晴れやかな笑顔を浮かべた。
「は、はい! ありがとうございます! ――あ、えっと、用があるんですよね。お時間取らせてすみませんでした。……じゃあ、私はこれで」
 少し残念そうにしながら、彼女はこの場を去ろうと歩き出した。
「あ……いや、大丈夫だ。大して急ぎの用じゃない。それより……これ、開けてもいいか?」
 呼び止められたことに驚いたのか、彼女は大きな瞳を丸くして小十郎を見上げる。小十郎は気まずそうに目を逸らし、空中の一点を見つめていた。
「――はいっ!」
 彼女は満面の笑みで大袈裟なほど大きく頷いた。



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