【真田幸村】



「おいしい?」
 幸村は口いっぱいにチョコレートを詰め込んで頬を膨らませている。その姿はリスやハムスターを思わせた。
「うむ! 甘くてうまい! 貴殿のチョコレートは元気が漲るな!」
 口の周りにチョコを付けたまま、幸村はにかっと笑って見せた。しかし、彼女はどこか気に入らない様子だった。
「……ねぇ。このチョコレート、何かわかってる?」
 ポケットからハンカチを取り出し、拭きなよ、と幸村へ差し出す。
「……? バレンタインであろう?」
 幸村は受け取ったハンカチで乱暴に口を拭った。が、言われた意味がわからなかったのか、きょとんと目を丸くして首を傾げた。
「あ、わかってたんだ。……えっと……それ、一応本命なんだけど……」
 ぼそっと諦めたように呟く彼女に、幸村は勢いよく飛び上がった。
「ほ、本命!? ……すまぬ! 某はてっきりいつものように義理でくれているのだとばかり――!」
「うん……まぁはっきり言わなかった私も悪いしね……」
「――いいや! まだだ! まだチョコレートは残っている! 残りはその……き、貴殿と二人で……ゆっくり味わいたい……」
 口ごもる幸村の頬が赤く色付いていく。
 彼女は嬉しそうに微笑んで、チョコレートを一つ、自分の口へと運んだ。



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