第116χ Ψ高の玉の輿?!御曹司現る!(後編)A




やたらに広い才虎の屋敷の端から端へ。
扉を見つけては、片っ端から開けて僕は平凡さんを探す。

才虎は粛正で伸びきっているし、黒服達はここみんズの対応に追われていて平凡さんの居場所を聞き出すことができない。
僕としたことが…才虎を粛正する前に場所を聞いておくべきだった。僕はどうも平凡さんが絡むと平常心を保つのが困難になるようだ。僕らしくもないが。

これが最後の部屋。
ドアノブをゆっくり捻って扉を開けるも、部屋は中は電気がついていないため、即座に部屋内に平凡さんがいるか窺い知ることはできない。

万が一黒服が潜んでいることを想定し、足音を立てないように部屋の中に侵入する。恐らくこの部屋の何処かに平凡さんがいるはずなんだが...。
まったく、こんなときに限って平凡さんに超能力が使えない便さを感じるなんてな。超能力なんて不要だと常日頃思っているというのに。

微かだ聞こえてきた音を頼りに部屋の隅の暗闇を目を凝らして見つめてみれば、そこには小さく丸い物体が…。

僕はそれが何なのかすぐにわかった。足早に駆け寄ってその物体の前にしゃがみこむと、手を伸ばしてゆっくりと撫でてやる。
触れた瞬間、ビクッと大きく震えたがその物体はゆっくり僕を瞳に捉えた。

「...く、楠雄...くん?」

頭を上げた平凡さんの顔を、カーテンの隙間から差し込む月明かりが淡く照らし出した。
頬を涙で濡れ、瞳はいくら涙を流しただろう...赤く腫れ上がっている。セーラー服も少し乱れ、髪にもいつもの艶やかさはない。
屋敷の奴らに何をされたかはわからないが、声も助けを呼ぶために何度も叫んだのだろう...掠れてなんとも痛々しさを感じる。

これがあの黒服の言っていた喝、というかやつなのだろうか。僕はカタカタと小刻みに身体を震わせる平凡さんを包み込むように抱きしめた。
彼女に僕がここにいることを...僕は君の敵ではないことを知ってほしかったから。

彼女の呼吸にあわせて数度ゆっくり背中を叩いてやれば、ようやく張っていた気が緩んだのだろうか。平凡さんはそのまま僕に凭れかかるような形で気絶してしまった。

屋敷を出る頃には屋敷の周りを囲んでいたここみんズの暴動は収束しており、庭には双方の人間が疲労で転がっていた。


帰路、僕は平凡さんを背中に背負いながら夜道を歩く。

「ん...ここ、は?」

意識が戻ったのか...しかし、背負われていても狼狽えたりしないところを見るとまだ完全には覚醒していないのだろう。

「助けに来て、くれて...ありがとう、楠雄くん。」

平凡さんは掠れた声で、そのまま独り言でも呟くように、身に起きた出来事を語ってくれた。

聴いている僕でも、起こってしまった出来事を素直に受け取る気にはなれない。きっと彼女の心には僕が感じた以上の痛みが大きな傷となって、これからも彼女の胸の中にずっと残り続けるのだろう。

僕は平凡さんではない...痛いのは彼女のはずなのに。
しかし、この胸にこみ上げまで来る痛みと苛立ちはなんだろうか。

怒りの感情なんてとうの昔に無くしていたと思っていたのに。しかも自身に対するものではなく、他者から伝わって来た感情だ。

僕と関わってきた人が傷ついたから...?
傷付けられた相手が平凡さんだから...?

それはまるで、僕が彼女のことを好きと言っているみたいじゃないか...。

...好き...?

身体全体に血液が巡るように、染み渡った一つの言葉。

その言葉が起爆剤となって血液が一瞬にして沸騰したかのごとく、突然カァッと顔から火が吹いたように熱くなる。
咄嗟に立ち止まると顔を俯かせた。彼女に…バレていないだろうか。

恐る恐る振り返ると、背中から聞こえてきたのは安らかな寝息。
どうやら彼女には知られていないようだ...胸をホッと撫で下ろして、再び歩き出す。

僕の背に伝わる平凡さんの体温、そして幼さを残した寝息が、僕の心を落ち着かせてくれる。

それは今までに感じたことがない、僕に生まれた新たな感情。

...そうか、僕は平凡さんが好きなのか。

The END





*まえ つぎ#
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