第114χ Ψ高の玉の輿?!御曹司現る!(前編)A




「ねぇ知ってる?最高の御曹司がウチに転校して来たんだって!」
「知ってる!心美ちゃんを好きになって転校してきたんだってね!」

昼休み、食堂で楠雄くん達といつものように昼食を取っていると、そこでも才虎くんの話題で持ちきりになっており、特に女子の騒ぎようが半端じゃない。

それもそのはず。
こんなシチュエーションは少女漫画のような話だし、それに恋バナまでついて来たとなれば、思春期の乙女達の心を掻き立てるには十分なのだ。

「あーそれと告られたの心美ちゃんだけじゃないらしいよ?」
「そうそう!平凡さんって人らしいけど...知ってる?」

自身の名前ふと耳に入ると身体がビクッと反応する。条件反射というやつだ。
なんで彼が私なんて指名したのかわからない。これまで話題に上らないよう常に地味に、慎ましやかに過ごしてきたというのに!

「オイ、大丈夫かよ平凡...顔色悪いぜ?」
「う、うん...窪谷須くんありがとう。」
「それにしてもなんで平凡なんだろうな。」

海藤くん、それはどういう意味だろうか。
そりゃ私が照橋さんに適うことなんて殆ど無いっていうのは、自分でも重々自覚しているつもりだけど...いざ言葉に出されると心に剣を刺されたかのように痛む。

「フン...庶民にはその女の価値はわからないだろう。」
「あぁ!?お前こそ平凡の何を知ってんだよ。」

窪谷須くんは荒々しく立ち上がるとやってきた才虎くんを噛み殺さんばかりに睨みつけている。

彼はただ才虎くんの態度が気に入らないだけなのだろうけど...なんだか、私のことでいがみ合いになっているようで恥ずかしい。

才虎くんは突然私の腕を掴むとグッと腰に腕を回し引き寄せた。
制服越しに伝わる才虎くんの体温と華やかな香水の香りにクラクラしてしまいそう。足に力を入れていないと立っていられない。

「貧乏人共の空っぽの頭で到底俺の思考なぞ理解できないことは承知している。いつもなら話すことはしないが...今日は機嫌がいい。特別に話してやる。」

才虎くんは私を愛でるように頬を撫でながら、淡々と公衆の面前で私をなぜ選んだかということについて述べてゆく。

彼が何を話していたのかは頭がパニックを起こしていて全然覚えてないけれど、周囲にいた女子の目がきらめいていたところを見るに、中々のお言葉だったのだろう。

彼の所作と周囲からの視線に耐えきれず俯けば、楠雄くんと目が合ってしまった。そこには見たこともない程に冷やかに私を見つめている彼の姿があった。

「も...いい、からっ!!」
「あ、オイ人子!!」

この堪え難い状況から逃げるように、私は才虎くんの腕を振り払えば食堂を飛び出した。


私が逃げてきたのはどこかの女子トイレ。個室に入って鍵をかければ、そこはも安全地帯...誰もやってくることはない。

呼吸をゆっくり整えるように深呼吸を繰り返す。
この胸の鼓動は、全力で走ったせいなのか、才虎くんのせいなのか...それとも。

「...いた、い。」

脳裏に浮かんだ楠雄くんのあの視線。
私のことを軽蔑しただろうか。もう彼の傍にいることは叶わないのだろうか。

目頭が熱くなる...けど、こんなところで泣いている場合じゃない。
彼には、楠雄くんだけには知って欲しい。私が一体誰が好きなのかを。

チャイムが学校中に響き渡る。そろそろ授業に戻らなきゃいけない。
腕でゴシゴシと目を擦ると個室の鍵を開けて、一歩外へ。

「斉木くんが好きなの!」

お...おっふ...っ。

To be continued...





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